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CASE2 大腸癌 2004年7月開催

ディスカッション 2

臨床試験に対する意識改革を

坂本:日本で行われる臨床試験ですが、参加する患者数が世界に比べて少ないのが現状です。ですから試験の進行スピードは、欧米の1/50ぐらいだと思います。

大村:ある国で、癌治療の臨床試験に入ろうというキャンペーンとして、ツール・ド・フランスのようなサイクリングツアーを行ったそうです。スポーツマンなど健康な人たちが参加して、国を挙げてキャンペーンをやってくれるわけです。日本では、臨床試験に入るといったら「俺はモルモットか!」あるいは「ウチのお父さんはモルモットか!」といって怒られてしまいますよね。

佐藤:意識を変えてもらいたいところですよね。

大村:stage IIIの方はクライテリアを満たせばみんな臨床試験に入る。そして再発した方や切除不能な方は、やはりクライテリアを満たせば全部臨床試験にエントリーする、というくらいのつもりでいなくてはいけないと思いますよ。

坂本:ドクターがその気になればできると僕は思いますよ。

大村:ドクターの熱意は相当関係ありますね。どちらの治療法が良いのか、本当にわかっていないから臨床試験をするのだということを理解いただくことが大切です。どちらの治療法も五分五分だと説明すれば「それなら私はどちらの治療法に入ってもデメリットはないんだ」と患者さんは理解して下さるはずです。

坂本:ドクター自身がそう思っていても、例えばLV/UFT vs LV/5-FUのように、注射と経口では治療としての受けとめ方がかなり違うので、やはり注射の方には参加しにくいようですね。

久保田:実際には、「先生のお考えになる最善の治療をお願いします。」という人がはるかに多いですよね。どちらが良いかわからないということは非常に不安であって、良い方にしてくださいと思いますからね。

坂本:私がインフォームドコンセントをとるときには、どの治療方法も良いから、どれかを選択します。提示したもののうちで、絶対に不利だと思われる治療法はこの中には一つもありません。そういう話し方をします。

大村:世界で日本だけが、これほど臨床試験にエントリーされる症例数が少ないというのは何か原因があるはずで、それを克服しなかったら、毎年ASCOのような国際学会で悔しい思いをしつづけているわけですよね。

久保田:日本の医療保険が世界で一番成功したからだと思います。それだけ医療水準が高いし、女性は世界で一番の長寿です。決して日本の医療は悪くないと言う意味ですよ。

坂本:そうですね。遺伝的に長寿の人種がいるわけではないから、国民の平均寿命が長いのは、公衆衛生と優れた医療システムによるものと考えてよいと思っています。

大村:そうは言ってもスウェーデンは日本以上に医療保証制度が整っていて、恐らく自己負担は無いはずです。そのスウェーデンで相当な規模の臨床試験ができているわけですから、あながち医療保険のせいだけではないと思います。やはり日本独特の事情があるのではないですか。

佐藤:まずは、臨床試験のことを臨床医が理解することですよね。理解していれば、どちらかの治療法がデメリットになるとは考えないはすです。臨床試験というのは、試験しているけれども、同時にいずれの群でも治療をしているわけですから。

久保田:こんな状況にあるにもかかわらずですね、厚労省の医薬品食品局ではphase IIIをしないと新薬を承認しないというガイドラインを作り始めました。そうなれば日本からはもうほとんど新しい治療方法は出なくなります。S-1はまだphase IIを終えていませんから承認できないということになってしまいます。厚労省の規制は、確かに理想ではありますが、phase IIIの実施が困難な国で、なんかとてもできないような国でね、それを条件に入れたらほとんど外国からしか治療方法が出てこないということになります。

瀧内:そうすると、いわゆるinternational studyに入れということですね。

坂本:ただ、international studyについては、日本も人種的に同じpopulationに入ると言いきれるかどうかという問題があります。以前、大村先生が出されたTSのタンデムリピートに関する論文(kawasaki K. et al. Anticancer Res. 19:3249,1999)で日本人や、東北アジア人と欧米人では全然違うデータになっていましたよね。それに、例えばアルコール分解酵素だって、日本人と欧米人とでは日本人は半分ぐらいしか持っていません。そうした観点から言えば、同じ人種で、日本と韓国とか、日本と中国とかでinternational trialというならわかりますが、アメリカやヨーロッパでやっているものに日本が名前だけちょっと貸して、日本も参加したぞという形で、果たしてinternational studyと言えるのかどうか。

大村:日本人の人口はスウェーデンの15倍なのですから、もう少し何とかしないと、と思いますよ。スウェーデンの1/15の登録率でも同じ規模の臨床試験ができるわけですから。ちなみにスウェーデンの直腸癌に関する臨床試験では、経験した直腸癌の50%以上を臨床試験に登録した施設も珍しくないようです。

坂本:そのとおりですね。QUASARについても先日Richard Grayにインタビューしたのですが、その時期のイギリスの全適格症例の30%を試験に入れたと言ってました。全部あわせて7000例ぐらい入れているんです。対して日本での臨床試験への登録率は適格症例の1%ぐらいですよね。

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