坂本:この症例で組織を取ったということについて、先生方に考えていただきたかったのですが、この組織の活用方法としてはどのようなことが考えられますか。
大村:今、DPDやTSなど色々なものが5-FUの効果予測因子として上がってきます。しかし、その中で5-FUの効果予測因子として一番有望と考えられるDPDでさえも、これまでの報告をreviewするとcontroversialですね。蛋白発現パターンでresponderを拾い上げるのは、まだ時期尚早といわざるをえません。
久保田:この症例はstage IIということですが、もしstage IIでやるとすると、フッ化ピリミジンは外すわけにはいかないので、フッ化ピリミジンに関するTS、DPDを見ても意味がないと思います。EGFRやVGEFをみて、bevacizumabかcetuximabなどのモノクローナル抗体製剤の効果予測を考えた方が良いと思います。
佐藤:できれば、新鮮な標本をとって、感受性試験をやっても良かった思います。
久保田:標準的治療と個別化治療というのは、非常に難しいところですが、例えば5-FUが感受性試験で効かないといっても、あれだけの確固たるevidenceがありますから、stage IIIの大腸癌の治療から5-FUを外すということは、実際にはできないことです。
坂本:先日のASCOで色々と聞いた話なのですが、stage IIぐらいの症例で、予測因子としては、染色体の18qの欠失(deletion)の無い症例に関しては、手術だけでほとんど100%が生存するそうです。欠失のあるものについては、多少再発が起こると。
それから、micro-satellite instability(MSI) がある患者とない患者について、MSIがある患者さんほど、フッ化ピリミジンが効くという話もありました。ですから組織を取ったら、18qとMSIを調べて、18qに異常が無ければ化学療法は行わない。異常があればLV/5-FUを投与する。もしくは5-FUを使うのではあれば、MSIがあれば、5-FUの効果はかなり期待できるのではないかと言うことになります。実際にECOGで今3000例を集める臨床試験が進められており、対象はいわゆるstage IIなのですが、18qに異常がない症例はそのまま経過観察とし、異常のある症例に対しては、FOLFOX±bevacizumabの臨床試験を始めているそうです。stage IIに関しても、やはり、1%でも2%でも生存の確率を延ばす、そういう治療法を開発して欲しいというのは患者さんに共通した願いではないかと思います。
佐藤:大切なことですよね。再発する人か、しない人かを分けるというのは・・・。
久保田:ですから、responderとnon-responderの見分けのほかに、再発の予測を見なくてはいけないですよね。効く人、効かない人、そして再発する人、しない人、両方のマーカーが必要です。MSIのある人は予後が悪いが、その代わり、5-FUの効きは良いと・・・なかなか難しいところですよね。