WEBカンファレンス | 臨床の場で遭遇しうる架空の症例に対して、それぞれの先生方に治療方針をご提示いただき、日常診療における治療方針の選択にあたっての問題点等を議論していただいています。

CASE 20 進行の早い切除不能大腸癌に対する2nd-line以降の治療戦略 2010年7月開催

CASE20 写真

ディスカッション 1

1st-lineの治療を継続すべきか、2nd-lineに移行すべきか?

大村健二先生

大村: 本症例は64歳の男性です。下血を認めて近医を受診し、当院に紹介されました。検査の結果、S状結腸癌同時性多発性肝転移と診断されました。身長172cm、体重60kgのやせ型でPS 1、血圧は152/80mmHgでカルシウム拮抗薬を服用中です。検査所見では、白血球増多および腫瘤からの出血のためと思われる小球性貧血がみられます。腎機能および肝機能は基準値の範囲内であり、腫瘍マーカーはCEAが350 ng/mL、CA19-9が31 U/mLでした。出血は慢性的なものだったようで、輸血をした後は落ち着いています。腹部超音波で肝内胆管(IHBD)の拡張を認めず、部分的な拡張もない状態でした。


 本症例には手術を行わず、1st-lineとしてmFOLFOX6+Bevacizumabを施行しました。治療効果をより迅速に判定する必要があると判断してCTは4週ごとに実施し、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の投与も開始しました。2サイクル終了時の下部消化管内視鏡検査では「全周性ではあるものの、丈が低くなって内腔が拡大した」と検者は判断し、腹部CTによりSDと判定されました。
  4サイクル目でCTを施行したところ(写真)、肝転移巣はSDでしたが、CEAは350 ng/mLから402 ng/mLに、CA19-9も31 U/mLから51 U/mLに上昇しました。ASTおよびALTには軽度の上昇がみられ、γ-GTPも基準値の上限を超えました。5サイクル目もASTとALTの上昇が緩やかながら続いており、γ-GTPは90 IU/Lに達しました。なお、KRAS遺伝子は野生型です。

坂本: 神経症状は出ていませんか。

大村: Grade 1の軽い手のしびれがみられますが、機能障害には至っていません。

●注意深くモニターしながら1st-line治療を続ける

大村: 4サイクルを終了した時点でCT画像上SDと判定されましたが、腫瘍マーカーはわずかながら上昇しており、肝機能、特に胆道系酵素が上昇しているという状態です。このまま1st-lineを継続すべきか、それとも2nd-lineに移行すべきか、ご意見をお聞きしたいと思います。佐藤武郎先生はどうされますか。

佐藤(武): 悩ましいところです。総ビリルビンが上がっていれば、Irinotecan(CPT-11)が使えなくなる可能性があるため、Oxaliplatin(L-OHP)をCPT-11に替えるかもしれませんが、まだ上がっていないのであればもう少し1st-lineを継続すると思います。

大村: 佐藤温先生はどのようにお考えですか。

佐藤(温): 非常に難しい症例ですが、2および4サイクル目でSDが得られたという画像での効果判定を最も重視します。CTを2回測れば、SDのなかでも悪化の方向に向かっているのか、改善の方向に向かっているのか、あるいは少なくとも悪化の方向ではないかがわかると思います。悪化の方向であれば2nd-lineに切り替えますし、悪化の方向ではないと判断すれば1st-lineを続けます。また、ある意味Cureの戦略かCareの戦略かという話にもなるのですが、治療後に身体の調子がよいのであれば、そのまま継続するのも1つの手だと思います。

●2nd-lineに切り替える

大村: 佐藤温先生、佐藤武郎先生は1st-lineを継続するというご意見でしたが、吉野先生はいかがですか。

吉野孝之先生

吉野: 私はBevacizumabを中止してFOLFOX単独にし、1ヵ月後にCTを撮影して増悪が少しでも認められたら、FOLFIRI+Panitumumabに切り替えます。Bevacizumabの血中半減期が2〜3週であることを考えると、Panitumumab投与時に血中にBevacizumabが残存し、double biologics(生物学的製剤の併用)になってしまう可能性があります。あくまで理論上の話でエビデンスはないため、一般的な方法とはいえませんが。
 治療開始から現在までの2ヵ月半で、本症例におけるBevacizumabの効果はある程度決まったと思うのです。ここでFOLFOX単独にすれば、FOLFOXの効果がわかります。それで効かなければ2nd-lineに移行しますが、そのときにはBevacizumabの半減期が過ぎ、血中からwash-outされているはずです。本症例は血圧も上がってきているので、先にBevacizumabを中止することで2nd-line治療をベストの状態で始められると思います。

大村: 2nd-lineへの移行を念頭に置き、Bevacizumabをwash-outするためにFOLFOX単独にするわけですね。生物学的製剤どうしの併用は毒性が強いことが報告されているので、理に適った考えだと思います。

佐藤(温): 生物学的製剤が重ならないようにするという理論はよくわかります。では、2nd-lineをFOLFIRI単独で始め、2週ないし1ヵ月後にPanitumumabを併用するという方法でも同じですね。

大村: 実臨床ではどちらの方法もあり得ると思います。瀧内先生はいかがですか。

瀧内: 2〜3サイクル目では肝機能の変化がみられませんでしたが、4〜5サイクル目ではASTとALTの上昇を認めており、同じ治療をあと1〜2サイクル続けたら、CPT-11は使えなくなるような気がします。この時点で、本症例に対するFOLFOXあるいはFOLFOX+Bevacizumabのレスポンスに対する答えは出ていると思います。このまま続けてもPDを待つだけですし、今が2nd-lineに切り替えるべきタイミングでしょう。少し話が逸れますが、私はそもそもこの1st-lineの選択に疑問を感じています。

●1st-lineで抗EGFR抗体を投与すべき最適症例?

大村: それでは、瀧内先生は1st-lineで何を選択すべきだったとお考えですか。

瀧内比呂也先生

瀧内: 治療前のdecisionとしては奏効率が重要視される症例ですが、BevacizumabのFOLFOXに対する奏効率の上乗せはmarginalなものと考えられています。それに対し、抗EGFR抗体はKRAS野生型でかつ肝転移のみの症例に対する高い奏効率が認められており2)、比較的若年者にも有効であることが示されています3)。本症例は64歳と比較的若く、KRAS野生型でかつ肝限局転移ですので、抗EGFR抗体のよい対象です。また、腫瘍量も多く、原発巣も切除しておらず、高血圧の既往があります。となると、Bevacizumabを投与するメリットは少なく、1st-lineでFOLFOXまたはFOLFIRI+抗EGFR抗体の併用療法を行いたい症例です。また、Bevacizumabは2nd-lineで使ってもE3200試験でOSにおけるベネフィットが認められています4)

大村: なるほど。確かにそういう意見もありますね。話を戻しますが、1st-lineでFOLFOX+Bevacizumabを5サイクル施行した時点で紹介されたとしたら、2nd-lineでは何を投与されますか。

瀧内: 2nd-lineのレジメンはFOLFIRI+Panitumumabがよいと思います。

吉野: 私も2nd-lineのレジメンは35%の奏効率が期待できる5)ことから、FOLFIRI+Panitumumabを選びます。

●急速に進行しているのか、すでに落ち着いた状態なのか

大村: 坂本先生は2nd-lineに移行すべきか、あるいは1st-lineを継続すべきか、どのようにお考えですか。

坂本: すでにさまざまな意見が出ておりますので、あえて対案を挙げるとすれば、このままFOLFOX+Bevacizumabを続けて、神経毒性が今より強くなった時点でL-OHPを抜いて5-FU/LV+Bevacizumabにし、PDになるまでできるだけ同じレジメンで粘るというのはどうでしょうか。

大村: ただ、CPT-11を使えない状態になるまでFOLFOXを引っ張りたくないという意見もありました。

佐藤(温): PDと判断した時点で2nd-lineに移行するというのはがん化学療法の基本ですね。ただし、どの時点のどの基準をもってPDと判断するのかが重要だと思います。

瀧内: やはりこのAST、ALTの上昇をどう判断するかですね。

佐藤(温): この程度なら誤差の範囲の気もします。本症例が急速に進行しているのかどうかが知りたいですね。初診時から治療開始までの間に検査値がどのように変動してきているかで、治療方針は違ってきます。急速に悪化してきている状態が落ち着いているのであれば、治療を切り替えることがデメリットになる可能性もあります。

大村: そういう意味では、1〜2サイクル目には上がっていなかった胆道系酵素が上昇しているのが気になります。

瀧内: 急速に進行した場合に次のラインを施行できるかどうかが重要ですが、本症例はあと2サイクルくらい行うと、驚くほど悪くなるパターンのように思います。CEAが350 ng/mLから400 ng/mLに上昇しており、またASTとALTも上昇しています。やはり増悪を示唆するデータだと考えます。

吉野: 私は瀧内先生と違って、この患者さんは意外と大丈夫ではないかと思います。これほどのボリュームの肝転移があるのに、下血が起こるまで症状がなかったというのは、実は何年も前から癌があって、急速に進行したわけではないように思うのです。

佐藤(温): 原発巣は縮小しており、ある程度奏効しているわけですから、このまま治療を継続してもよい気がします。けれども、確かに今後の状態の変化によっては、次のラインに移行できないことも十分あり得ますので経過観察に注意が必要ですね。



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