大村:通過障害を認めない進行胃癌なので、TS-1は絶対に使いたいところです。TS-1を単剤で用いるか何かと併用するかがまず思案のしどころですね。TS-1との併用で一番症例数が集積されているのはCDDPです。あるいは、腹膜転移があることを考えてtaxaneか、ということになりますね。しかし、水腎症が気にかかります。CDDPを追加して、抗腫瘍効果が現われる前に両側の水腎症になるかもしれません。腎機能の低下などを考えあわせるとCDDPはちょっと控えて、TS-1/taxaneを選択します。
瀧内:TS-1はスキルス胃癌に対する効果が報告されていますが、症例によって単剤治療か併用治療かを変えるわけですね。
大村:この方の場合はPS 1でまだお若いですから、最初はTS-1単剤よりもプラスアルファでいく方がいいと思います。
瀧内:この症例の場合には、腎機能が少し低下しているのと腹水があるということがベースにあるので、CDDPよりもtaxaneを選びたいというご意見ですね。
大村:おっしゃるとおりです。もし抗腫瘍効果が得られて水腎症が改善し、CA 19-9も下がったけれども再び上昇してきた場合には、次はCDDPを併用します。抗腫瘍効果が認められた後に不応性となったら、治療前の状態に戻る前に併用薬剤をCDDPに変更できればと思います。この方では、CA 19-9の動きが大変参考になるでしょう。なお、TS-1の投与は継続するでしょう。
瀧内:坂本先生のご意見はいかがですか。
坂本:大村先生がおっしゃったことと同じですが、この場合クレアチニンクリアランスが100近くあるならば、TS-1/CDDP、もしくはtaxane/CDDPを使います。
瀧内:taxaneやCDDPをfirst lineで使うということですね。
坂本:その通りです。なぜかといいますと、こういう症例でも非常に早く腫瘍が縮小したり、消失したりする例があるからです。ただしそのresponseは一時的なもので、必ずrefractoryになります。そこで腫瘍が充分縮小したり、消失したりした時期に、思い切ってneo adjuvant的に腫瘍を切除するということも念頭に置いて治療をします。腰椎には放射線治療をやります。可能であれば術中照射も行いたいところです。できる限りの治療をfirst lineから考えます。可能性は低いとは思いますが、癌を取るということもオプションとしておいておきたいと思っています。それ以外の薬剤は、術後もしくはsecond line、third lineに取っておきたいと考えます。