佐藤:80歳という高齢であっても、治療をするか、しないかという点に関しては、5人の出席者とも「治療をする」という方向で一致しました。それはやるという意思と、あと状況的に許せる状況であればやるということでよろしいですか。
久保田:ご本人の希望は、「抗癌剤治療は了承するが副作用は少なくしてほしい」ということですので、治療はやってほしいということですよね。
佐藤:75歳以上に化学療法を「する」「しない」について、胃癌学会のガイドライン作成時の 1999年と 2003年に、全国レベルで「日本胃癌学会アンケート調査」を実施したのですが、結果は1999年時は「する」が58.2%でしたが、2003年時の調査では約65%と若干増えました。高齢者に対する化学療法について、医師の意識が変わってきたと感じます。
瀧内:欧米の trialでは年齢の上限はありません。ですから、年齢よりもcondition、つまりPSの評価が重要だと思います。80歳で PS 2というのはちょっと厳しいと思いますし、一番長生きしていただけるのは栄養の確保かなという気がしますので、そういった意味ではマイルドな chemotherapy プラス栄養ルートの確保がよいのではないかと思います。
佐藤:それと、本出題症例のように患者さんの体が小さいと我々は非常に悩むのですが、この場合、初期投与量を少なくして大丈夫そうだったら増量するようにしますか。それとも逆にある程度の至適用量、100 なら100、80 なら80で始めて、それから減量するようにしますか。
大村:私は少ない量から始めますね。
久保田:私は80から始めて、忍容性が悪ければ下げます。
坂本:耐えられるならやはり高用量で使いたいですね。外科医が化学療法を実施する場合、副作用を恐れて低用量の投与をしがちです。でも低用量だと当然のことながら効果が得られにくいという面もあるわけです。
佐藤:低用量から始めるけれども、徐々に上げるというプランが明確にされていて始める分にはよいと思います。ただ、どちらのアプローチがよいかというのはそれぞれの先生方のやり方ですね。もう1つ、本出題症例は敢えて PSを 2 に設定したのですが、2というのは微妙ですよね。以前の臨床試験は全てPS 0、1、2 症例を組み入れて実施されましたが、最近のphase I studyの feasibility をみると、0、1、2 としながらも実際にはPS 2 症例は組み入れていないのです。0 と 1だけで進めていますよね。
坂本:PS 2症例を組み入れると 3 に限りなく近い 2 を組み入れることがあるのです。今までの経験では、そういう症例は確実にアウトになるのです。だから 1でも 2に限りなく近い 1を組み入れてこられると、何かと問題が起きることもあります。
佐藤:先ほどの「日本胃癌学会アンケート調査」の結果では、PS 3症例にも化学療法を実施するという医師は約35%もいました。Regimenの内容は、TS-1あるいは taxane等の単剤治療がほとんどでした。PS 2で、たぶん20代とか30代の患者さんであれば皆さん化学療法を実施されると思うのですが、高齢など、他の因子があるPS 2症例に対しては皆さんどうされるのかなと思ったのです。希望があれば一応はやってみようというのが皆さんのご意見であって、僕自身も全くそのとおりです。
坂本:Oncologistの意識が進化しましたね。積極的になりつつある。
大村:いわゆる奏効率の高いregimen がはっきりとわかってきていますし、お年を召しているからといって、化学療法を受ける権利がないわけではありませんから。
坂本:欧米のデータですと、高齢者でも若年者でもrisk reduction は同じという結果が出ています。もちろん、逆にいえば、高齢者で riskの高い人には始めから使っていないからそういう結果が出たのではないかという assumptionもされていますが。
佐藤:以前、高齢者に関する研究として、過去の第 III 相試験のデータを解析したことがあります。高齢者と非高齢者の生存曲線を比較してみたら若年者よりも高齢者のほうがよくなるのです。有意差はつかないのですが、数字的にはちょっと高齢者のほうがよいのです。
坂本:それはそういうバイアスだと思います。
佐藤:そう、まさにバイアスだと思います。そういう臨床試験の適格基準を満たし、かつ登録されるような高齢者は元気な方なのです。だから暦年齢だけで判断すべきではなくて、生物学的年齢評価をもって判断すべきですね。
坂本:PSで解析すると非常にきれいに差が出てきます。