久保田:First lineはGEM 1,000mg/m2、週1回3週投与1週休薬です。疼痛は麻酔外来でコントロールします。
瀧内:本症例は高齢ですが、PS 0ですので、久保田先生と同じ意見です。PSが悪ければbest supportive care(BSC)適応だと思いますが、PS 0で血液生化学的所見も良好ですから、GEM投与を試みる価値があると思います。
佐藤:転移性膵癌と考えて標準的な治療を行うなら、first lineはGEMになると思います。局所性進行膵癌であれば、5-FUによる放射線化学療法の選択となりますが、本症例は転移性と判断します。また、患者さんの希望である、疼痛を緩和すること、および外来で治療できることという観点からもGEMがよいと思います。問題点としては、高齢であることと、もう一点、Kが5.4mEq/Lで少し高いことが気になりますので、この点に関しては何らかの検査が必要です。
坂本:私も、first lineでGEMを選択することに異論はありません。ただ、疼痛対策として術中照射を行うことも治療の選択肢となりうるかと思います。私は以前、膵癌を集中的に診た時期があります。ほとんどがこうした手術不能の膵癌だったのですが、全例に対して開腹術中照射をしてみました。当時はまだ痛みのスコア化などが明確にされていなかったため、はっきりした数字では表せませんが、術中照射が背部痛にかなり有効であったという印象を強くもっています。また、胃に転移があると後々食事が摂れなくなったり、胆管の閉塞が起こると黄疸が出てくることも問題となりますので、開腹術中照射と同時に消化管のバイパス術、必要性を感じたときは総胆管のバイパス術も行いました。術中照射はあくまで疼痛緩和のための姑息的な施術ではありますが、侵襲が少ない状況でできるのであれば、そうした処置を施した上でGEM投与を行うのも1つの方法だと思います。背部痛のコントロールには、開腹術中照射以外にも、硬膜外に薬剤を投与して神経伝達を遮断する硬膜外ブロックなどが考えられます。
佐藤:開腹時に腹腔神経節をブロックしておくと疼痛緩和に効果があると聞いています。
坂本:確かに、そういう報告があることも聞いています。
佐藤:バイパス術はよいと思うのですが、膵癌では黄疸へと進行するか、腹水が貯留してしまうかのどちらかに向かうことが多く、しかも進行が非常に早い点が不安です。
坂本:この症例の腫瘍占拠部位は体尾部ですから、黄疸が出るまでには少し時間がかかると思います。
佐藤:しかし、多数のリンパ節腫大が認められていますね。ALPやγ-GTPが上昇してくるようであれば、少し様子をみるべきかとも考えていたくらいです。
大村:総肝動脈周囲のリンパ節まで腫大していますから、早晩、閉塞性黄疸をきたす可能性はありますね。
佐藤:膵癌では、たとえ姑息的であろうと、その進行の早さ故に私はなかなか手術には踏み切れません。難しいところですね。
坂本:先ほど申し上げたのは、あくまで疼痛のコントロールという意味での術中照射です。30Gy程度の照射で、疼痛緩和に効果がみられると思います。
大村:First lineはGEMということで、意見が一致しているようです。GEMは、他剤とのコンビネーションによる上乗せ効果がまだはっきりとしていません。しかし、GEM単剤でも奏効して腫瘍が縮小し、疼痛が消失する症例を少なからず経験しています。
佐藤:私の経験上、GEMは10〜20人に1人の割合で吐き気により投与を中止せざるを得ない患者さんがいます。合わない患者さんは1〜2回で全く受け付けなくなってしまいます。
坂本:減量してみてはどうでしょうか。
佐藤:減量はしてみましたし、他にも工夫してみましたが、なぜか、どうしても合わない患者さんがいらっしゃいます。