大村:厳密なサーベイランスをした上で次に進むということは、大切な選択肢を無駄にしないという意味もあると思います
佐藤:First lineの効果を使い切らないうちにsecond lineに移行してしまった場合、second lineで急激な増悪がみられたときに、もう手段がないということもあります。ですから、本当に納得できるタイミングで切り替えます。
大村:2つしかない選択肢を後まで温存するのがよいか、それとも機を逃さずに早期に使うのがよいか、これは難しい問題です。
坂本:私は併用推奨派なので、よいと思える薬剤はsecond lineとして考えずにfirst lineで併用するのがベターだと思っています。
佐藤:Dr. Goldbergの推奨する、オン、オフを繰り返すという発想もありますかね(OPTIMOX試験、ASCO 2004 #3525)。つまり、まずTS-1を投与し、早めにGEMに変え、その効果をみて再度TS-1に戻すという方法も考えられます。
大村:薬剤に対するresponseによって、前の薬剤に戻ることも考えられるということですね。
佐藤:自施設での臨床研究ですが、TS-1、GEM、CPT-11の3剤をsequentialに使い、今までより明らかに生存期間が延長した良好な結果でした。ただ、その3剤を使い切ることが難しいのです。やはりCPT-11が使いづらいため、投与のタイミングが問題になります。私の経験ですが、TS-1、GEMの両薬剤が無効で亡くなった膵癌の患者さんについて腹水での抗がん剤感受性試験を実施したところ、CPT-11に感受性があることがわかり、驚きました。CPT-11は、膵癌での投与法、投与量はまだ検討の段階ですが、TS-1ともども早く認可されることを望みます。
坂本:今は進行癌に対しては最強の薬剤を最初に使うべきだというのが鉄則ですね。
佐藤:その通りですが、膵癌の場合はその最強の薬剤というのがないために、抗腫瘍効果よりもQOLを保って生存期間を延長することを目標としているのが現実です。ですから、先ほど久保田先生がおっしゃったように、痛みが消えるということは大切なことだと思います。
坂本:おっしゃる通り、GEMの認可も最初はその考え方が土台となっていたと思います。
佐藤:現在、研究が進められている重粒子線療法に期待が集まっていますが、いかがですか。
久保田:大腸癌の肺転移症例を、術後に放射線医学総合研究所に紹介したことがありますが、1回の外部照射で転移巣は消失し、現在はfollow-up中です。
佐藤:重粒子線療法は副作用が少なく、食道癌や膵癌を専門とする先生方からは非常に期待が持てるとの話を聞いています。
大村:膵癌では、例えば4cm程度の膵頭部癌で、黄疸は出ていても転移巣がなければ重粒子線療法のよい適応ではないかと思います。
佐藤:今後、重粒子線療法も選択肢の1つとなってくるのではないでしょうか。
大村:今年の5月に開催された、日本外科学会の国際シンポジウムにおいて報告されたRCTの成績により、進行膵癌に対する局所コントロール目的の拡大手術が否定され、膵癌の治療は集学的治療に方向転換しました。相対的に膵癌の治療体系における手術の重みが減り、化学療法や分子標的薬剤などへの期待が高まっていると思います。私は以前から、やがて膵癌はchemo-radiation療法のほうがよい成績を示す時代になり、外科医の手から完全に離れると予測していました。私は外科医ですが、外科療法だけに固執するつもりはありません。本症例のような手術適応外の膵癌症例を日常臨床の場で経験することは大変多いと思います。そうした際に、first line、second lineにどの薬剤を選択し、どのタイミングで切り替え、最終的にいかに患者さんの予後を改善してQOLを高く保つか、人生を楽しんでいただくかということを、われわれは真剣に考えなければならないと思います。