大村:胃に癌があるという方向からアプローチして、TS-1を使うことは考えられないでしょうか。TS-1は胃癌に対して適応があり、原発性か転移性かの区別はされていません。適応の可否の判断は難しいと思いますが、転移性胃癌に対する効果は報告されていますし、本症例のように通過障害がない場合はコンプライアンスもよくなります。
瀧内:適応外使用ではないと判断されるのであれば、TS-1もよい選択肢の1つだと思います。今年のASCOでは、単剤使用のphase IIにおいて、膵癌に対する奏効率が37.5%であったと報告されていますし(ASCO 2005 #4104)、GEMとの併用でも高い奏効率が得られています。ただ、この症例の場合は、症状や患者さんの希望などを総合的に考えて、GEMをfirst lineに選択すると思います。
久保田:確かに、実地臨床ではGEMとTS-1併用の効果が報告されています。MSTはあまり延長されないということですが、私もGEM単剤で無効の場合にTS-1をオンすることがあります。
坂本:その際の投与量はどれくらいが適切なのですか。
久保田:TS-1は体表面積に応じたfull doseを用い、3週投与1週休薬です。GEMは単剤のときと同じ1,000mg/m2です。ただ、feasibilityはGEMのほうがよいと思いますので、私はTS-1をsecond lineに残したいと思います。
瀧内:今年のASCOでは、21日間を1サイクルとして、TS-1(30mg/m2を連日2週投与1週休薬)とGEM(1,000mg/m2をday 8およびday 15に投与)を膵癌転移症例に対して併用し、良好な成績を得られたことが報告されています(ASCO 2005 #4114)。
佐藤:適応外使用の問題があることを除けば、私はfirst lineはTS-1で、second lineをGEMとします。TS-1にはいくつかの利点があるからです。1つは、膵癌は進行が非常に早いので、疼痛の緩和をはじめとした複数の治療を全て並行していかないと間に合いません。そして、抗がん剤投与期間でも患者さんがなんとか自由に過ごせる時間をつくれるように治療していくのが、患者さんのQOLのためにもよいと考えています。そうした時間をつくりやすいのが、副作用が比較的少なく、かつ経口剤であるTS-1です。また、second lineへの切り替えが判断しやすいと思います。
大村:それは、どういうことですか。
佐藤:GEM治療の主眼は、疼痛緩和効果にもあります。画像上腫瘍が大きくなっても症状が安定していれば、疼痛緩和に効いていると判断して、GEMをそのまま使い続けることになります。一方、TS-1の場合は抗腫瘍効果で判断しますので、はっきりしています。
大村:私も、まずTS-1をfirst lineと考えます。腹水が貯留してきて、リンパ節の腫大も悪化し、腸管の機能が低下するとTS-1は使えなくなりますので、GEMより先にTS-1を投与します。また、患者さんの希望から考えて、経口投与できることは大きな利点です。
瀧内:今年のASCOでは、GEM単剤とGEM+capecitabine併用との比較試験のサブセット解析において、PSが良ければ併用投与のほうが有意にMSTを延長したことも報告されています(ASCO 2005 #LBA4010)。この症例はPS 0ですから、first lineから併用し、second lineは考えないという戦略もありうると思います。
佐藤:施設によって患者層に差があると思いますが、われわれの施設ではPSの悪い膵癌患者さんが多いかもしれません。余力のない膵癌患者さんでは副作用も出やすいですし、何か1つつまずくと一気に進行してしまいます。ですから、侵襲を小さくするために、できるだけ単剤でsequentialに使うようにしています。
久保田:GEMの抗腫瘍効果には疑問があるかもしれませんが、状況が悪くならずに維持できるということは、QOLが保たれて生存期間が延びるということですから、よい薬剤だということがいえると思います。
佐藤:その点は、TS-1も同じです。半年から、長い症例では1年近くも維持することができ、そこからsecond lineを考えることができます。
久保田:先ほどGEMのfeasibilityの話がありましたが、TS-1では患者さんによってfeasibilityの差が大きく、場合によっては全く飲めません。私の印象では、GEMではそこまで悪いことはないと思います。