坂本:N・SAS-CC regimenは、直腸癌には効果があるという結果が出ていますが、結腸癌についてはまだ結果が出ていませんので、やはりエビデンス的にはLV/UFTのほうが優れているといえます。
佐藤:TS mRNAの話は、いろいろな意見が出されていて、わかりづらいのですが、先ほど大村先生がお話しされた意見が世界の趨勢と考えてよろしいですか。
坂本:現在、大村先生と一緒に行っている術後化学療法の臨床研究があります。レトロスペクティブにTSの高発現群と低発現群とで予後を比較したのですが、やはり高発現群のほうが有意に予後が悪いことがわかっています。
瀧内:術後に化学療法を行う選択をした時点で、その群にはTS mRNAが高く、予後が悪いというバイアスがかかっていると思います。つまり、そうした症例に術後化学療法を行わなければ、もとよりそれを必要としない群に比較して予後が悪いという前提があり、術後化学療法を行うことにより術後補助化学療法を必要としなかった群と同程度まで改善できるのではないかということだと考えています。その点を検討し、TS mRNA高発現の症例に5-FUを投与する意義があるとの結果を示したphase IIIのデータがあったと思いますが……。
坂本:私も瀧内先生と同じ意見です。PSKのon/offについてプロスペクティブな無作為化試験を行い、全例に5-FUを投与しました。その後レトロスペクティブにTSの発現をみた結果、先ほども言いましたように有意に高発現群で予後が悪かったのです。術後化学療法においても進行再発例においても同様にTSの高発現は予後不良のサインであると考えるのが自然だと思います。しかし、世界の趨勢は大村先生が言われるとおりです。
久保田:この症例の場合、p53蛋白が陽性ですから、変異を起こしているということですね。変異を起こして、しかし蛋白量は多いわけです。
大村:p53蛋白がTS mRNAに直接結合し、トランスレーションを制御するという報告があります。また、TS蛋白そのものも結合します。そうしますと、このTS mRNAが高値なのは、そのほかの制御のためにTS蛋白そのものの値が低いため、それを補うべくトランスクリプションが亢進しているだけで、実際に触媒作用を持つTS蛋白そのものの量はさほど多くない可能性もあります。
坂本:その点からは、5-FUの効果があると期待できますね。