久保田:それでは次に、化学療法を開始する時期や期間について伺いたいと思います。
大村:この症例は大腸癌で経過は良好ですから、術後3週間も経ちますと退院していて、体力も相当回復していると思います。回復して食事ができるようになったら、早く化学療法を始めたほうがよいと思います。それで、私は3週後から化学療法を開始する、としました。
瀧内:私も食事摂取が可能になった時点で開始します。通常、術後3〜4週間後になりますね。投与は6ヵ月間を基本とします。
坂本:私も瀧内先生と同じ意見で、普通食の摂取が可能となった時点で化学療法を開始し、毒性が出ないかぎり6ヵ月間投与を続けたいと考えております。
久保田:抗癌剤投与は全身状態が回復すれば開始すべきでしょう。MOSAIC、NSABC-07など多くの臨床試験では術後6ヵ月投与のエビデンスとなっています。術後6ヵ月後の腫瘍マーカー検査や画像診断で再発が確認されなければ投与終了が適切と思います。
佐藤:たしか、『大腸癌治療ガイドライン 医師用2005年版』には、「術後化学療法は、術後4週から12週頃までに開始することが望ましい」と書いてありましたが、この数字はどこからきたのでしょうか。
久保田:特に根拠となるエビデンスはないと思います。
坂本:同じくガイドラインについて疑問があるのですが、なぜTAC-CRとN・SAS-CCの結果のみをもってUFTの有用性を断言してしまっているのでしょうか。N・SAS-CCでも200症例強ですから、サンプルサイズからみるとエビデンスとしてはまだ弱いと思います。先ほども触れましたが、海外の試験は2,000〜3,000例を対象として比較をしています。ガイドラインに記載するうえで、海外の大規模臨床試験の結果と同じように取り扱ってしまったということについてはいかがなものかと思っています。
大村:ガイドラインというのは、どんどん進歩していくものだと思います。現時点では根拠とされるエビデンスが不足しているところもあるかもしれませんが、そのほかにわが国発のエビデンスがないのも事実です。最初に作成するのは大変ですが、あとは、よりよいエビデンスを見つけて、ガイドラインに追加し、進化させていけばよいと思います。
佐藤:ガイドラインの作成において、すべてにエビデンスを求めてしまうのは難しいかもしれませんね。エビデンスがほとんどないなかで一生懸命に試行錯誤している領域もありますが、そうした領域がガイドラインで何の記述もされないことになります。レトロスペクティブであっても検討している結果があるのと、まるで何の検討もなされていないものが、どちらもエビデンスなしという同レベルにくくられてしまうのもまた問題です。
大村:化学療法の分野は多くのRCTが実施されていますから、まだガイドラインをつくりやすいですね。
佐藤:手術などは特に難しい分野です。手術に関して、無作為化されていないことを指摘されても困りますし、特に胃癌などではネガティブデータが海外で多く発表されていますが、それをわざわざ取り寄せるのも実際的ではありません。手術にはエビデンスがないからといって、手術しないほうがよいという話にでもなったら、それこそ問題になってしまいます。
大村:これまでは、拡大手術により郭清したところに転移が見つかればそこまで郭清してよかったということになりました。しかし、そこまで郭清したことがどれだけ延命をもたらしたかについてエビデンスは一切検証されませんでした。今後は、転移があったからといってそれがすぐに郭清した価値があるという証拠にはならないと考えるべきです。
久保田:癌治療の原点ですね。Billrothによる胃の切除が胃癌に効果的か否かをRCTで証明したかと問われれば、していないわけです。
坂本:JCOG9501試験では、胃癌についてD2とD3手術のリンパ節郭清を、きっちりとしたサンプルサイズ設計とrandomizationをして比較しています。もし、D3のほうが予後がよいという最終結果が出れば、外科医はもう一度、胃癌に対してはD3リンパ節郭清を積極的に行うよう世界にもアピールしていくべきではないかと考えています。
久保田:さて、今回はstage IIで高リスクの大腸癌の術後化学療法についてご意見をいただきました。結論としては、大腸癌の治療ガイドラインにおいて、stage IIの再発リスクを規定してほしいということ、坂本先生が言われたように、インフォームド・コンセントやインターネット等を通じて、MOSAIC trialあるいはNSABP C-07 trialの情報を十分に国民に開示し、患者さん自身で自由診療も含めて決断してもらうこと、そして現状ではLV/UFT、あるいはRPMI regimenが考えられる選択肢であるということでした。
本日はありがとうございました。