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皮膚障害-2 手足症候群  監修:遠藤 一司先生 (明治薬科大学)

 手足症候群は、手掌や足底などの四肢末端部に発現する、発赤、腫脹、そして著しい不快感、うずきといった皮膚関連有害事象の総称である。フッ化ピリミジン系製剤、特にCapecitabineに特徴的な有害事象であり、キナーゼ阻害剤であるRegorafenibやSorafenibにおいても高頻度に発現する。直接生命を脅かすものではないが、著しく患者のQOLを低下させる原因となる。手足症候群の対処方法を熟知し、薬剤の減量や休薬の時期を適切に判断することによってのみ、症状の重篤化を防ぐことができる。適切なマネジメントこそが患者のQOLを維持し、その結果はじめて十分な癌治療につながる。

症状と発現機序

症状

 手足症候群は、手掌や足底の角化肥厚、皮膚硬結部分に好発する。フッ化ピリミジン系製剤とキナーゼ阻害剤の手足症候群は異なった特徴をもち、初期皮膚所見も異なる。以下にそれぞれの薬剤における初期症状の特徴を示す (図1) 1)

図1
図1

①フッ化ピリミジン系製剤による手足症候群の初期症状
 早期にはしびれ、チクチクまたはピリピリするような感覚の異常が認められるが、この時期には皮膚に視覚的な変化を伴わないこともある。最初に現れる皮膚の変化は、比較的びまん性の発赤 (紅斑) である。少し進行すると皮膚表面の光沢が生じ、指紋が消失する傾向や色素沈着がみられるようになり、次第に疼痛を訴えるようになる。さらに進行すると、過角化・落屑・亀裂や水疱、びらん、潰瘍が生じる。

②キナーゼ阻害剤による手足症候群の初期症状
 比較的びまん性に生じるフッ化ピリミジン系製剤による手足症候群と異なり、限局性で角化傾向が強いという特徴がある。発赤、過角化、知覚の異常、疼痛に始まり、水疱の形成へと進展する。

発現機序

 フッ化ピリミジン系製剤およびキナーゼ阻害剤ともに、手足症候群の詳細な発現機序は明確でない。現時点で推定されるフッ化ピリミジン系製剤による手足症候群の発現機序としては、皮膚基底細胞の増殖能阻害やエクリン汗腺からの薬剤の分泌、5-FUの分解産物の関与などが示唆されている。
 キナーゼ阻害剤であるRegorafenibとSorafenibは薬剤の構造が類似しており、発現機序も同様であると考えられている。推定される機序としてはPDGFR、c-KITの阻害による表皮やエクリン汗腺の障害などが示唆されている。しかし、手足症候群に関与するチロシンキナーゼの特定や、具体的なメカニズムの解明には至っていない。

発現時期と経過

 フッ化ピリミジン系製剤による手足症候群は、高用量で発現頻度が高く、重症化しやすい傾向にある。Grade 3以上の手足症候群の発現は、CapeOX療法 (Capecitabine: 2,000mg/m2/day) で1.7〜6.0%、Capecitabine単剤療法 (Capecitabine: 2,500mg/m2/day) で13〜17%である2-4)。また、発現までの日数中央値は、grade 1以上で57.0日 (9-225日)、grade 2以上で113.0日 (39-379日) であった。
 Regorafenibによる手足症候群は、大腸癌患者を対象とした国際共同第III相試験 (CORRECT試験) において、全gradeで47%、grade 3以上で17%の患者で認められており5)、発現頻度は非常に高い。特に日本人では欧米人と比較しさらに高頻度で発現することがサブセット解析にて示されており、発現率は、全gradeで80.0%、grade 3以上で27.7%であった6)。なお、発現までの日数中央値は15日、最悪gradeまでの中央値は22日であり、投与開始1〜2サイクル目の初期に多い7)。フッ化ピリミジン系製剤と比較し、症状が発現してから増悪までの期間が非常に短いため、この期間は特に慎重な管理を要する (図2)。

図2
図2
Grade分類

 手足症候群のgradingは、CTCAE v4.0における「Palmar-plantar erythrodysesthesia syndrome (手掌・足底発赤知覚不全症候群) 」に従って行う (表1)。Grade判定の目安としては、はっきりとした痛みがある場合をgrade 2以上とし、減量・休薬が必要となる。

表1
表1
発現しうるレジメン
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