副作用対策講座 |

口内炎  監修:遠藤 一司先生 (明治薬科大学)
対策

 口内炎は、予防、治療ともに確実に対処する方法がないのが現状である。実臨床では口腔内清潔、保湿、鎮痛、栄養補充のような対症療法が主に行われる。口腔ケアは古くから実践され、その有効性が報告されている重要な介入手段である10)

国際がんサポーティブケア学会/国際口腔腫瘍学会(MASCC/ISOO)による2014年のガイドライン11)
 造血幹細胞移植時の大量化学療法や放射線療法を除いた、消化器癌化学療法に関連した項目として以下が示されている(【 】内はエビデンスレベルを意味する)。

@予防
 推奨(recommendation)として5-FUのbolus投与30分前における口腔内を冷却するクライオセラピー【II】、提言(suggestion)としてすべての年代、あらゆる癌治療を受ける患者に対する予防的な口腔ケア【III】が挙げられている。逆に、推奨されない予防方法としてスクラルファート含嗽【I】が挙げられている。

A治療
 提言として、癌化学療法を受けた患者の口内炎の疼痛管理にフェンタニル貼付薬【III】が挙げられている。逆に、推奨されない治療方法としてスクラルファート含嗽【I】が挙げられている。

B国内未承認薬
 ケラチノサイト増殖因子であるPaliferminが大腸癌への5-FUベースのレジメンで発現した口内炎を抑制した報告12)がある。当該ガイドラインでは、血液癌への造血幹細胞移植前に大量化学療法や放射線療法を受ける患者への口内炎の予防に、推奨として挙げられている(【II】)が日本においては未承認である。

Cその他、消化器癌以外の疾患への推奨
 造血幹細胞移植施行の患者には、口内炎の疼痛緩和として患者自身によるモルヒネの使用【II】が推奨として挙げられている。これは遷延する重篤な口内炎に対して積極的にオピオイドを使用する根拠となる。
 頭頸部癌治療として化学放射線療法を受けた患者には、2%モルヒネ含嗽【III】が提言として挙げられているが、日本では製剤がなく、使用する場合は薬剤部による院内製剤の作成となってしまうことや含嗽後のモルヒネの廃棄処理の問題などから使用されない傾向にある。

実臨床での対応

 口内炎の予防の基本は口腔ケアであり、ESMOガイドラインにおいて、歯科の早期介入、やわらかい歯ブラシによるブラッシング、アルコールを除く含嗽などが推奨されている13)。2012年の診療報酬改定では「周術期口腔機能管理料」が新設され、化学療法を受ける患者への歯科医師の介入に対して診療報酬の算定が可能となった。
 患者自身が実施できる口腔ケアとして含嗽がある。含嗽は口腔内の清潔を維持し、保湿をもたらすために頻回に実施することが推奨され、浸透圧が粘膜に近く痛みが少ない生理食塩水やアズレンスルホン酸による含嗽などが用いられる。ただ、ヨードを含むポピヨドン液は組織の上皮化の阻害をきたす可能性があるため、口内炎対策として用いるべきではない。
 なお、通常のアフタ性口内炎の治療に準じてステロイド軟膏が処方されることがあるが、抗癌剤による口内炎は通常のアフタ性口内炎と異なり、ステロイドの創傷治癒遅延作用により悪影響をきたす可能性があるため好ましくなく、MASCC/ISOOガイドライン11) において推奨・提言の記載はない。接触痛の緩和のためにやむを得ずステロイド軟膏を使用する場合は、免疫抑制作用によりカンジダ性口内炎の誘因もしくは悪化の原因となる可能性があるため口腔内の変化に注意する。

実際の投与方法

@含嗽液
 含嗽液については多くの組み合わせが報告されているが、口内炎の予防もしくは治療に有用なものは確立していない。実例の1つとして、日本における多施設研究で検証された痛み止めの含嗽液をもとにして当院で使用されている処方例を示す(表5)
 アズレンスルホン酸などを用いた含嗽が良いと感じられるかもしれないが、これらの含嗽液も粘膜刺激を有するため、リドカインを用いない場合でも含嗽がしみる、もしくはアズレンスルホン酸の風味や味が嫌だという患者に対しては生理食塩水を用いる。

表5:国立がん研究センター東病院における口内炎に対する含嗽液の処方例
表5

A鎮痛薬
 リドカインを含んだ含嗽液のみでは鎮痛効果は十分ではなく、疼痛はできる限り制御していくべきとの考えから鎮痛薬を積極的に併用する。いずれの国際的なガイドラインにおいても、鎮痛薬による対症療法が記載されている。ガイドラインでは鎮痛薬の選択方法については明記されていないが、WHOの三段階除痛ラダーに準じて鎮痛薬を使用していくとされている。なお、肝機能低下時にはアセトアミノフェンは慎重に使用する。腎機能低下時には、腎機能障害をきたす可能性のある非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、副作用が増強するモルヒネ製剤の使用を控え、腎機能に影響が少ないアセトアミノフェン、オキシコドン製剤などを使用する(表6)

表6:国立がん研究センター東病院における鎮痛薬の処方例
表6

B口腔内感染症への治療
 カンジダ性口内炎は、カッテージチーズのような白苔が舌などに広がるので視覚的にわかりやすい。治療には抗真菌薬の軟膏、内服液を使用する(表7A)
 ヘルペス性口内炎は、単純ヘルペスウイルスによる感染で小水泡の形成からはじまり、それが破れることで潰瘍を形成される。治療には抗ウイルス薬を使用する(表7B)
 口腔内の細菌、真菌、ウイルスによる二次感染には医師の診断のもと、適切な治療が必要であり、これを放置してしまうと口内炎は悪化し、改善はしない。

表7:口腔内感染症への治療
表7
管理のポイント

具体的な生活指導のポイント

1) 口腔ケア・含嗽
 口腔内を清潔に保つようにブラッシングを定期的に行う、含嗽を習慣的に行うといった口腔ケアについて教育することが重要である13)。患者教育の実践、医療従事者の介入のためにも早期から医療従事者が対応できるような体制つくりが求められる。カンジダもしくはヘルペス感染に対する早期介入につなげるためにも、口腔内に変化があるときは逐次伝えるように指導する。
 含嗽する際には口腔内の隅々まですすぐことのできる「ぶくぶく含嗽」を実施し、感冒の際に実施するような喉をすすぐ「ガラガラ含嗽」はしないように指導する。うがいは1日に多くの回数を実践しても問題ないことから、感染予防および口腔内の湿潤のためにも積極的に実践するよう指導する(図3)

図3:含嗽、ブラッシングの例
図3

2) 医薬部外品の活用
 歯磨き時の痛みや口腔乾燥の症状を訴えている場合、もしくはそのような状態が予測される場合には、刺激の少ない歯磨剤や保湿ジェルなどを紹介すると良い。また、口腔乾燥を伴う場合は、加湿器や湿らせたマスク、保湿ジェルなどが有効な場合がある。

3) 食事
 口内炎と食事が接触することで痛みが生じるために以下のように助言する。

刺激(熱・辛味・酸味)のある食品や飲料品は痛みにつながるために避ける。
粒が固いもの(煎餅、クッキー)は食べるのに困難であるし、それを噛み砕いた後の硬い粒が口内炎を刺激するため、柔らかいものを選んで食べる。
痛みが強い場合は鎮痛薬を事前に用い、全粥もしくは流動食で摂食する。
口内炎により経口摂取に影響がある場合には早めに相談する。

治療効果の関連性

 抗癌剤治療による高頻度もしくは重篤な口内炎の発症が治療効果を上昇させるといった報告をした臨床試験はない。

口内炎対策の重要性

 口内炎は癌化学療法において一般的な有害事象であり、軽視されがちであるが、抗癌剤の用量規制因子もしくは治療延期の理由になりうる4, 14)ため、効果的な癌化学療法を遂行し患者の生存を延長するためには口内炎の管理は重要である。口内炎のみに焦点をあてるとその重要性に気付かないが、図4のような概念15)のように口内炎を含む粘膜障害は点の存在ではなく、他の有害事象と関連する要因であり、その後の治療の転帰に深く繋がることが明らかであるため、総合的に多職種で評価、介入していく必要がある。

図4:粘膜障害のきたす広範な各症状
図4

Reference

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  • 2) Sonis ST.: Oral Oncol. 45(12): 1015-1020, 2009[PubMed
  • 3) Sonis ST, et al.: Cancer. 100(9 Suppl): 1995-2025, 2004[PubMed
  • 4) Sonis ST.: Semin Oncol Nurs. 20(1): 11-15, 2004[PubMed
  • 5) Saunders DP, et al.: Support Care Cancer. 21(11): 3191-3207, 2013[PubMed
  • 6) Scully C, et al.: Oral Dis. 12(3): 229-241, 2006[PubMed
  • 7) Sonis ST.: Oral Oncol. 34(1): 39-43, 1998[PubMed
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  • 11) Lalla RV, et al.: Cancer. 120(10): 1453-1461, 2014[PubMed
  • 12) Rosen LS, et al.: J Clin Oncol. 24(33): 5194-5200, 2006[PubMed
  • 13) Peterson DE, et al.: Ann Oncol. 22(Suppl 6): vi78-84, 2011[PubMed
  • 14) Lalla RV, et al.: Dent Clin North Am. 52(1): 61-77, viii, 2008[PubMed
  • 15) Keefe DM, et al.: Cancer. 109(5): 820-831, 2007[PubMed
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