癌化学療法にはさまざまな副作用があり、医療現場では、その対策に力を入れてきた。しかし、眼の副作用に関しては、従来、あまり注目されておらず、患者自身も副作用と気付かないことも多かった1)。「涙が止まらない」「目がかすむ」「視力が落ちた」などの症状があっても老化現象だろうと放置してしまうと重症化し、日常生活に支障をきたすこともある。そのうえ、抗癌剤を中止しても症状が改善しないこともあり、後遺症に悩む患者も少なくない1)。
近年になり、ようやく眼の障害が医療者側に認識されだしたが、まだ十分とはいえない。また、生命にかかわらない副作用のため、患者への指導もあとまわしにされがちである。しかし、眼症状は患者自身で早期に発見できる副作用である。医療者が注意を払うだけでなく、眼症状の副作用もあり得ることとその対応について、患者に説明しておくことが大切である1,2)。
流涙・・・涙が止まらない。
眼乾燥(ドライアイ)・・・目が乾く。ゴロゴロする。目が痛い。充血。涙が止まらない。
羞明・・・異常にまぶしさを感じる。家の中でもサングラスをかける。
視力低下・・・物が見えにくい。
眼脂・・・目ヤニが多くなる。起床時に目ヤニで眼が開かない。
変視症・・・物が歪んで見える。
小視症・・・物が小さく見える。
霧視・・・かすんで見える。
複視・・・物が二重に見える。
光視症・・・目を閉じていても目の端に光が走るのを感じる。
睫毛乱生・・・睫毛が本来の向きに生えず、不揃いな状態になる。
睫毛長生化・・・睫毛が異常に長くなる。睫毛がカールして目に入る。
飛蚊症・・・小さな糸くずや蚊のようなものが見える。フワフワとした浮遊物が飛んでいる。目を動かすと一緒に動く。
涙道障害・・・流涙増加
角膜びらん・角膜潰瘍・・・眼痛、充血、羞明、視力低下
結膜炎・・・充血、眼脂、流涙、異物感、眼痛、視力低下
白内障・・・視力低下、霧視、羞明
球後視神経炎・・・視力低下、視野障害
ぶどう膜炎・・・羞明、霧視、視力低下、眼痛、飛蚊症
黄斑浮腫・・・視力低下、霧視、小視症、中心暗点、変視症
網脈静脈閉塞・・・視力低下、視野障害、変視症
※眼の構造を図1に示す。
眼障害の発現機序については十分に解明されていない状況であるが、現時点で考えられている機序について以下に示す。
殺細胞性抗癌剤
涙液中に分泌された抗癌剤の成分が、細胞分裂の活発な角膜上皮細胞などを障害して組織に影響を及ぼすと推測される3,4)。
Docetaxel:Docetaxelが血漿中から涙液へ移行し5,6)、その涙液が涙道に接することで涙道の扁平上皮の肥厚と間質の線維化をきたし涙道の狭窄を起こす5,7)。
S-1:Fluorouracilが涙液中に移行し、細胞分裂の活発な角膜上皮細胞や角膜上皮幹細胞を障害することにより、角膜障害が発症すると考えられる8-11)。それにより、涙液分泌亢進や涙道障害による涙液排出低下が起きることが流涙の原因のひとつとされている9)。また、Fluorouracilを含んだ涙液が涙道を通過することで、涙道粘膜の炎症、涙道扁平上皮の肥厚と間質の線維化をきたし、涙道狭窄・閉塞が生じるのではないかと考えられている8,9)。
分子標的薬
各薬剤の標的が、癌細胞だけでなく網膜細胞の中にも存在していることによると推測されている3)。
EGFR-TKI:角膜上皮には、EGFRが多く存在し、涙液中にはEGFが多く含まれている。EGFR-TKI投与により、角膜上皮細胞に対するEGFの増殖刺激が抑制され、通常は自然修復可能な微細な角膜の創傷が適切に修復されないことによって引き起こされると考えられている12,13)。
免疫チェックポイント阻害剤
免疫機能が過剰に働き、正常細胞をも攻撃してしまうため、ぶどう膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)細胞が攻撃を受けることによる14)。
従来、副作用として認識されてこなかったこともあり、眼障害の発現時期や頻度、その経過については実態が判明していない薬剤が多い。
しかし、流涙の頻度が高いとされるS-1に関しては、以前よりさまざまな報告がなされており、約半数の症例で、投与開始3ヵ月以内に発症しているというデータもあるため11)、早期から注意深く観察していく必要がある。原因薬剤の中止により、多くは症状が改善しているが1)、中には投与終了後にも流涙などの症状が継続している場合も見受けられる。
Grade分類は表1のとおりである。
消化器癌の適応がある主な抗癌剤のうち、添付文書に眼障害の副作用が記載されている薬剤について表2、表3にまとめた。
GI cancer-net
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