治療開始時、眼障害が起きる可能性もあることを伝え、何か症状が発現した場合は、早めに主治医に相談し、眼科受診するよう説明しておく。眼科受診の際は、おくすり手帳を提示したり、抗癌剤治療中であることを申告したりすることも、併せて伝えておく必要がある。
涙道障害(流涙増加)
軽症であれば、抗癌剤の成分を洗い流す目的で、生食または防腐剤フリーの人工涙液を1日6回以上点眼する2,10)。しかし、症状の改善効果はあまり期待できないため1,15)、早めの眼科受診が推奨される。また、ヒアルロン酸などの点眼はその粘稠性の高さから、Fluorouracilなど抗癌剤成分を含有する涙液の停滞を起こし、角膜上皮障害を増悪させるので使用しないほうが良いと言われている1,10)。眼科においては、涙道閉塞の有無を確認する目的で通水検査を行い、状況により涙道内視鏡を用いて涙道チューブを挿入する1,2,4)。重症の場合は、外科的処置が必要になることもある1)。同時に、抗癌剤の休薬、中止、減量について検討することも必要である。涙道については図2を参照。
角膜障害
現在のところ、対処法は確立されていない。防腐剤フリーの人工涙液によるwash outが一般的に行われているが、現状では、休薬して症状の改善を待つのが良いとされている2,15)。
結膜炎
眼が痛い、眼が赤いなど結膜炎の症状に対しては、ステロイド点眼薬で対応する3)。
黄斑浮腫
アムスラーチャート(図3)を用いて患者自身でセルフチェックを行い、線がぼやける、中心が歪む、部分的に欠けるなどの異常が現れた時点で、眼科受診。状況により、休薬や中止も検討するが、早期に、適切な対応がとられない場合、視力障害が持続する可能性もある16)。
睫毛乱生、睫毛長生化
長くなった睫毛やカールした睫毛が眼の表面を刺激し、痛みや炎症を起こすため、定期的にカットしたり、抜いたりするなどの処置をする。睫毛がなくなると眼にゴミやホコリが入りやすくなるため、メガネ、サングラスなどで保護する必要がある3)。
Nivolumabによるぶどう膜炎等
免疫チェックポイント阻害剤による眼症状に関しては、ステロイドの局所治療等で改善したという報告が散見されている17,18)。
眼症状は、早期発見し眼科受診することと、適切な時期の休薬、中止などの対応が大切である。手遅れになると、治療中止後も症状が改善しないことがあり、日常生活に支障をきたすような重大な副作用と考える必要がある。また、患者の状況により休薬し難いケースも考えられるため、眼症状を重症化させないために、主治医と眼科医との情報共有が不可欠である。
確立した予防策がない現状で、まずは医療者が、副作用としての眼症状に対し関心をもつことが大切である。そして、眼の障害が発現しうる治療を行う場合には、予想される症状やその対策を患者に伝えておくことや、患者への問診の際に確認し、眼症状を見逃さないことが重要である。
References
- 1) 柏木広哉:あたらしい眼科. 30(7): 915-921, 2013
- 2) 柏木広哉:日本医事新報. 4641: 55-59, 2013
- 3) 静岡県立静岡がんセンター:抗がん剤治療と眼の症状. 平成29年12月, 第7版
- 4) 北村祥貴ら:癌と化学療法. 38(2): 259-262, 2011
- 5) 柏木広哉:癌と化学療法. 37(9): 1639-1644, 2010
- 6) Esmaeli B, et al.: Arch Ophthalmol. 120(9): 1180-1182, 2002 [PubMed]
- 7) Esmaeli B, et al.: Ophthalmic Plast Reconstr Surg. 19(4): 305-308, 2003 [PubMed]
- 8) 細谷友雅:眼科. 54(1): 27-32, 2012
- 9) 柴原弘明ら:癌と化学療法. 37(9): 1735-1739, 2010
- 10) 細谷友雅:あたらしい眼科. 25(4): 449-453, 2008
- 11) ティーエスワン®総合情報サイト, 大鵬薬品工業株式会社(https://www.taiho.co.jp/medical/brand/ts-1/cse/cnt08.html)
- 12) アービタックス®注射液適正使用ガイド, メルクセローノ株式会社
- 13) タルセバ®錠適正使用ガイド, 中外製薬株式会社
- 14) オプジーボ®点滴静注適正使用ガイド, 小野薬品工業株式会社
- 15) 井上幸次ら:日本眼科学会雑誌. 121(1): 23-33, 2017
- 16) アブラキサン®点滴静注用適正使用ガイド, 大鵬薬品工業株式会社
- 17) 水井徹ら:日本眼科学会雑誌. 121(9): 712-718, 2017
- 18) 木下悠十ら:臨床眼科. 71(7): 1019-1025, 2017
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