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血管外漏出  監修:室圭先生(愛知県がんセンター中央病院)

 血管外漏出とは、抗癌剤が血管外へ浸潤あるいは血管外へ漏れ出ることをいう1)。そしてこれによって周囲の軟部組織に障害を起こし、発赤、腫脹、疼痛、灼熱感、びらん、水疱形成、潰瘍化、壊死などの症状が生じることがある。重症になるとその障害や苦痛も長期化し、患者のQOLに多大な影響を及ぼすことがあるため、血管外漏出を起こさないような予防策と漏出時の迅速で適切な処置が重要である。

症状と経過

 抗癌剤による血管外漏出時は、無症状あるいは、発赤、腫脹、疼痛、灼熱感などの症状が生じるが、数時間から数日後にその症状が増悪し、水疱を経て潰瘍、壊死を形成することもある。潰瘍の多くは難治性で、漏出部位によっては瘢痕拘縮を起こし、運動制限をきたして外科的処置が必要になることもある。
 Paclitaxel、Docetaxelでは、以前に血管外漏出を起こした部位が治癒したにもかかわらず、その後、再度同じ抗癌剤を投与した際に、以前血管外漏出を起こした部位に皮膚障害が起こるリコールアクションも報告されている2,3)

危険因子

 抗癌剤の血管外漏出の危険因子を表1に示す。化学療法中には0.5〜6.5%程度の頻度で抗癌剤の血管外漏出が起きていると報告されている4)。どの抗癌剤でも、血管外漏出により局所の壊死を起こす可能性がある。複数の危険因子が該当する場合は、血管外漏出のリスクが高い。起壊死性抗癌剤を投与する際には、治療開始前に患者をアセスメントすることが必要である。

表1:血管外漏出の危険因子
表2
Grade分類

 注射部位血管外漏出の有害事象共通用語規準(CTCAE)v5.0日本語訳JCOG版を表2に示す。

表2:注射部位血管外漏出のGrade分類(CTCAE v5.0日本語訳JCOG版より引用)
表2
抗癌剤の分類

 抗癌剤の種類によって、皮膚をはじめとする組織障害性の程度は異なり、危険度によって起壊死性抗癌剤(vesicants drugs)、炎症性抗癌剤(irritants drugs)、非壊死性抗癌剤(non-vesicants drugs)に大別される。

  • 起壊死性抗癌剤(vesicants drugs)
    少量の血管外漏出でも発赤、腫脹、疼痛、水疱性壊死を起こしたり、難治性潰瘍を起こしたりする可能性のある抗癌剤。起壊死性抗癌剤は、さらにDNAに結合する薬剤とDNAに結合しない薬剤に分類される。DNAに結合する薬剤は、起壊死性抗癌剤の中でも特に注意する必要がある。
  • 炎症性抗癌剤(irritants drugs)
    局所で発赤、腫脹などの炎症性変化を起こしうるが、潰瘍形成までに至ることがほとんどない抗癌剤。ただし、多量の薬剤が漏出した場合には潰瘍形成を起こす可能性がある。
  • 非壊死性抗癌剤(non-vesicants drugs)
    血管外漏出が起こっても炎症や壊死を起こしにくい抗癌剤

 消化器癌領域で使用される抗癌剤を、血管外漏出時の組織障害性に基づく分類ごとに表3に示す。
 血管外漏出時の組織障害の可能性は、抗癌剤の種類だけでなく、薬剤濃度や漏出した薬剤の量、組織に漏出した時間なども関連しており、漏出時はそれらについてもアセスメントを行う必要がある。

表3:血管外漏出時の組織障害性に基づく抗癌剤の分類
表3
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