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血管外漏出  監修:室圭先生(愛知県がんセンター中央病院)
対策

 血管外漏出を起こすと、漏出量が少量でも壊死や潰瘍などの難治性の皮膚障害を起こすことがあるため、予防策と血管外漏出時の迅速で適切な処置について熟知しておく必要がある。

予防

 抗癌剤治療における血管外漏出の予防ガイドラインには、外来がん化学療法看護ガイドライン1)やEuropean Oncology Nursing Society(EONS)のガイドライン5)などがある。それらのガイドラインを参考にして血管外漏出の予防策を行うことにより、そのリスクを最小限に抑えることができる。血管外漏出の予防策を以下に示す。

  • ① 24時間以上経過した末梢静脈ラインは使用しない。
  • ② 太くて損傷のない血管を選択する。第一に選択すべき部位は前腕であり、手背や肘関節周囲の静脈穿刺は避ける。ルート確保が困難な場合には、事前に腕を温めて血管を拡張させておく。
  • ③ 点滴を開始する前には逆血があることを確認する。薬剤を投与する前には生理食塩液などでフラッシュして漏出がないことを確認する。
  • ④ ルート確保部位を固定する場合は、刺入部が観察できるように透明なテープを使用する。
  • ⑤ 点滴終了時には生理食塩液などでフラッシュし、しっかり圧迫止血する。
  • ⑥ 失敗して再度穿刺する場合は、反対側の血管もしくは失敗した部位より中枢側の血管を選択する。
  • ⑦ 穿刺困難例ではCVポートの留置も考慮する。

治療

 血管外漏出を起こした場合は、抗癌剤の漏出量、漏出時間を最小限にとどめ、迅速な処置を行うことが必要である。基本的には漏出部位からの抗癌剤の除去、患部の治療(冷却・加温、ステロイド外用剤の塗布など)、血管外漏出部位の経過観察を行い、必要であれば外科的治療も考慮する。血管外漏出時の基本的な対処法を以下に示す。

  • ① 点滴をすぐに中止する。
  • ② 留置針やルートに残っている薬液を吸引し、抜針。
  • ③ 抗癌剤の種類によって適切な処置を行う。
    • 起壊死性抗癌剤、炎症性抗癌剤
        ・アントラサイクリン漏出時はデクスラゾキサンを投与
        ・ステロイド(+局所麻酔剤)の局所注射
        ・ステロイド外用剤の塗布
        ・患部の冷却
        ・処置終了後はステロイド外用剤と冷却の継続
    • 非壊死性抗癌剤
        ・注射部位の変更
        ・広範囲の漏出の場合は患部を冷却
  • ④ 記録を残す。
  • ⑤ 経過観察。必要に応じて皮膚科・形成外科へコンサルト。

冷却および加温

 抗癌剤が血管外漏出した場合は、一般的に冷却することが推奨されている。これは冷却することにより局所の血管収縮を引き起こし、薬剤の局在化をもたらし、抗癌剤の破壊的な効果を不活化させることを期待して用いられている6)
 ビンカアルカロイド系抗癌剤やEtoposideの血管外漏出は、冷却することで潰瘍形成を悪化させることが報告されている。これらの抗癌剤は、漏出部位を温めることで血管が拡張し、血流量が増加することによって薬剤が拡散、希釈されるとして加温が推奨されている。また、Oxaliplatinが血管外漏出した場合は、冷却すると急性の神経障害を誘発させたり、増悪させたりすることがあるため冷却は推奨されない。

ステロイドの局所注射

 デキサメタゾン、ベタメタゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾンなどのステロイド薬を、局所麻酔薬と混和し、漏出部位よりやや広範囲に局注する。ステロイドの局所注射は、その抗炎症効果を期待して用いられることが多いが、臨床への適用を推奨するほどの有効性は示されていない。

抗癌剤漏出時に使用する薬剤

 本邦では2014年4月にリポソーム製剤を除くアントラサイクリン系抗癌剤の血管外漏出に対しデクスラゾキサンが承認された。アントラサイクリン系抗癌剤の血管外漏出後6時間以内にデクスラゾキサンを可能な限り速やかに投与を開始し、3日間投与する(投与1、2日目は1,000mg/m2、3日目は500mg/m2)。
 また、下記に示す解毒剤(表4)は理論的には期待できるが、臨床的にはその効果は十分解明されていない。

表4:抗癌剤漏出時に使用する薬剤
表4
管理のポイント

 抗癌剤による血管外漏出が起こると、潰瘍や壊死など難治性の皮膚障害を起こし、患者のQOLに多大な影響を及ぼすことがある。そのため、血管外漏出を起こさないように治療開始前に血管外漏出のリスクに対するアセスメントと予防策を行うことが重要である。そして、抗癌剤投与中も早期発見のための十分な観察を行い、血管外漏出時は迅速かつ適切な処置を行うことが重要である。
 また、血管外漏出の第一発見者は患者であることが多く、治療を受ける患者本人や家族に、血管外漏出について説明し、理解と協力を得ることも大切である。血管外漏出は、早期の発見と対処が重要であるため、異変があったらすぐ伝えるように指導する。そして、外来化学療法を行っている患者は、帰宅してから問題が発生する場合があるため、異常があった場合はすぐ医療スタッフに連絡するように指導する。

References

  • 1) 日本がん看護学会編:外来がん化学療法看護ガイドライン①抗がん剤の血管外漏出およびデバイス合併症の予防・早期発見・対処. 2014年版, 金原出版, 2014
  • 2) Meehan JL, et al.: J Natl Cancer Inst. 86(16): 1250-1251, 1994 [PubMed]
  • 3) Stanford BL, et al.: Support Care Cancer. 11(5): 270-277, 2003 [PubMed]
  • 4) Schulmeister L: Semin Oncol Nurs. 27(1): 82-90, 2011 [PubMed]
  • 5) Pérez Fidalgo JA, et al.: Eur J Oncol Nurs. 16(5): 528-534, 2012 [PubMed]
  • 6) MacCara ME: Drug Intell Clin Pharm. 17(10): 713-717, 1983 [PubMed]
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