消化器癌治療の現場から|消化器癌への様々な取り組みをご紹介します。

第1回 京都大学医学部附属病院

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大腸癌の外来化学療法レジメン

患者さんへの説明資料

松本 繁已 先生(以下 松本): 現在、京大病院外来化学療法部では、消化器外科・内科とコンセンサスを得て基本的に3つのレジメンで大腸癌の治療を行っています。まずファーストラインとして、FOLFOX±ベバシズマブ、セカンドラインとしてFOLFIRI±ベバシズマブ、そしてサードラインがIRIS±ベバシズマブとなっています。特徴的なのは、神経毒性を軽減するためにFOLFOX6コース終了時に奏効している患者さんにはde Gramontレジメンで維持療法を行うOPTIMOX療法をファーストラインで取り入れていることです。
 大腸癌に関しては、外来化学療法部を開設したときは、使用できるエビデンスのあるレジメンは5-FUとアイソボリンしかなく、患者さんは短時間で帰ることができていました。しかし、5-FUの持続点滴など近年レジメンが複雑化してきていることに加えてベバシズマブ、セツキシマブが上市されたことにより、治療時間も長くなってきており、患者さん自身の化学療法に対するさらなる理解が必要となってきています。大腸癌ではバイオマーカーや副作用に関する論文も多数報告されるので、われわれ医療スタッフもそれらの情報をキャッチアップしなければいけません。またそれを患者さんにも伝えるように取り組んでいます。

品質の高いデータ集積のために

柳原: また、がん治療においては近年、さまざまな新規の薬剤が上市され、化学療法レジメンにも追加されるようになってきました。上市直後の薬剤に関しては市販直後調査が行われるため、データを製薬会社へ報告する必要があります。もちろん報告を行うためだけではなく、われわれとしても新規薬剤に関してはなるべく質の高いデータ集積を維持することが必要だと考えています。したがって、診療科によってはそちらにお任せすることもありますが、呼吸器、消化器、乳腺など外科系・内科系など診療科が多岐にまたがるような薬剤の場合には、われわれが製薬会社の窓口となりデータ収集や報告を行っています。具体的には上市直後の薬剤については、外来化学療法部の医師1〜3名に集約して処方することで、効果や有害事象について同じ基準で判定を行い、質の高いデータ管理ができるようにしています。

Cyber Oncology®の特徴

柳原 また、データ管理という意味で特徴的なのは、Cyber Oncology®というデータベースの構築です。このデータベースに患者さんのすべての情報を入力し、保管しています(図3)。これは主に松本先生が中心となって進めてきた取り組みです。

図3 Cyber Oncology®の特徴

松本 患者さんの情報をデータベース化するという構想は京大病院に電子カルテが入る前の段階(2003年2月頃)にはできていました。2003年10月から外来化学療法部ができることが決まっていたので、そのためにサイバーラボ社と共同で着々と準備を行っていきました。バージョン0からスタートして、予算面での苦労もあったのですが、5年経過した現在は3.5までバージョンアップしています。
 Cyber Oncology®は電子カルテを利用して患者さんのデータを集約し、その情報を後で参照しやすくする臨床医の視点に立ったツールです。まだ発展段階ですが、本来の目的はがん診療だけではなく、さまざまな疾患に関する必要な情報を、医療スタッフや研究者が後で調べたいときに自由に取り出せるようなシステムを電子カルテの中に組み込むことです。
 Cyber Oncology®のようなシステムが京大病院だけではなく、各病院の電子カルテの一つのオプションとして追加されることによって、生存率など種々の治療成績がリアルタイムに算出でき、各病院の診療レベルを向上させ、医療の評価も正確にできるシステムがゴールです。最近はがん登録が始まり、がん患者さんの疫学データを記録していますが、治療成績の詳細などについてはまだ生存率のみのデータとなっています。治療成績などのアウトカムをすべて評価するためには、副作用を含めた日常の診療データが蓄積される必要があります。
 Cyber Oncology®には2004年11月に京大病院の電子カルテ導入時以来のデータが蓄積されており、今後は種々のアウトカムを出していく予定です。ようやくわれわれの努力も認知され、周囲の理解が深まってきたように思います。やはり、このようなデータベースシステムの構築はわれわれ外来化学療法部のスタッフだけではなく、研究者、臨床医の願いだと考えられ、国を挙げてのインフラ整備を熱望しています。

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