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柳原: 現在では、国立大学も法人化され経営面を無視できないといった現実がありますが、必要な部門に人員や予算が配分されないという悩みがあります。看護体制はこれまで看護師4名、看護助手4名だったのですが、2008年の4月以降看護師のみの5名体制となり、実質上の減員となりました。この影響で、それまでは外来化学療法部は20床で行っていたものを、15床に減らさざるを得なくなってしまったのです。外来化学療法を行ううえで、どれくらいの人員が必要なのかという理解が浸透していないというのは非常につらいところですね。
また、外来化学療法部の診療スペースの問題もあります。患者さんの話をじっくり聞こうと思っても十分な診察室のスペースがありません。現在では、ベッドのあった場所を問診スペースに転用するなどして、4つの問診室でなんとか対応している状況です。また、連休明けはベッド数以上の予約が入るなど、ベッドのスペースも十分だとはいえません。ベッド数が足りない場合は、当然患者さんの待ち時間が長くなってしまいます。これらは物理的な問題ですのですぐに改善することは難しいのですが、対応しなければならない問題だと思っています。
柳原: 外来化学療法部の設立時は、各診療科はわれわれのことを点滴係としか思っていなかったと思います。当時は、各診療科で患者さんを診察して、その日に患者さんに行う治療が決定された状態で、「点滴を行ってください」と紹介されていました。しかし、いつのころからか、患者さんは化学療法を受けに私たちのところに来て、診察も受けて帰るようになっていました。特に大腸癌などはその傾向が強く、これまでは消化器外科の先生が診察していた患者さんについては、2〜3ヵ月に一度、経過観察で診察を依頼しますが、それ以外は主にわれわれのところで診察するという体制になっています。最近ではどの診療科もおおむねそのようになってきましたね。
しかし、入院患者さんの中には、なぜ外来治療に移行しないのかと思われる方がまだたくさんいらっしゃいます。われわれは外来で治療を行っていますので、化学療法導入時のリスク回避や遠方で通院が難しい患者さんなどを除き、入院治療しか選択できないような状態の患者さんは、そもそも化学療法をするべきではないと思っています。しかし、外来治療を実施していない先生の中には、とりあえず入院して治療を行うという旧来の発想がまだ根強く残っているな、という印象があります。もちろん病棟の運営などの問題もありますが、患者さんの日常生活やQOLを考えた場合、わざわざ入院させなければいけない理由はないだろうと私は考えています。
一方、他の施設に目を向けてみると、確かに開設当時は外来化学療法を行っていた施設は少なかったのですが、この5年間で、他の施設の外来化学療法室でも業務内容自体はおおむね一レベルになり、病院間で新薬の情報交換などもできるようになってきました。つまり、外来でのがん治療が珍しくない環境に劇的に変わってきたということでしょう。
柳原: 外来化学療法部は2011年に京大病院の新病棟である「積貞棟」へと移転することが決まっています。積貞棟はがん治療を中心とした病棟で、ここでベッド数30床の外来化学療法部を運営する予定となっています。また、積貞棟には、入院の集学的病棟もできますので、今後は外来患者さんだけを診察すればよいというのではなく、われわれも入院患者さんを一緒に診察しなければなりません。しかし、そのようになれば、まさに腫瘍内科として、外来から入院までカバーすることができますので、われわれとしても楽しみにしている部分ではあります。しかし、基本的にはやはり外来を主に考えて、本当に緊急の患者さんや初回の化学療法の導入リスクが高い患者さん、連日の通院が困難である患者さんなどを入院でうまく診察しながらも、外来に移行して治療していくという体制にしていかなければならないと考えています。さらに今後は、われわれの講座からのみならず、外来化学療法や腫瘍内科に興味のある若い医師を見つけ、育成していくことも重要な責務の一つであろうと考えています。
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