消化器癌治療の広場 GIcancer-net
各医療スタッフの業務をこのように徹底的に分担した背景には、かつて化学療法に関する業務のすべてを医師一人で抱えていたという過酷な実態がありました。それは、きわめて困難なことであり、提供すべき医療の質を低下させかねないものでした。
そこで、医師でなければできない仕事、看護師や薬剤師それぞれが専門性を生かして行うべき仕事を明確に分けることにしました。こうすることで各スタッフが本来なすべき役割を果たすことが可能となり、医師だけでなく看護師、薬剤師の負担軽減が可能となることで個々のレベルが向上し、患者さんにより質の高い医療が提供できると考えたのです。もちろん、そのためには誰がどのような業務を分担するかについて細かく指示したマニュアルや手引きといったものが不可欠ですし、分業に対する負担感や新たな業務に対する抵抗感なども生じます。これに対し、われわれはクリニカルパスをもって立ち向かいました。クリニカルパスはワークシェアリンングを行うための非常に強力なツールです。クリニカルパスの運用が当院におけるスタッフそれぞれの役割分担を確立し、チーム医療の実現に大きな役割を果たしました。
具体的には、告知前の介入や告知後の支援、抗がん剤治療による有害事象の確認と対応は看護師が、高額療養費制度などの説明は事務職員が担当します。また、調剤やミキシングは看護師ではなく、基本的にすべて薬剤師が行うこととし、外来ケアルームへの搬送は薬剤師ではなく、専門の職員が担当することにしました。さらに、医療連携は地域連携室が、緩和ケアは緩和ケアチームに加わってもらうこととなっています。
以前より高知県には、がん化学療法を施行可能な拠点病院が高知市周辺にしかないという大きな課題がありました。したがって、拠点病院に通院するためには車で4〜5時間もかかる地域もあり(図2)、患者さんの負担を軽減するためには地域で治療を行ってもらう必要があります。また、拠点病院の受け入れ可能な患者数にも限界があるという点、そして地域の医療機関の空洞化という問題を含め、解決するためには、地域の医療機関を巻き込んだ医療連携、医療チームの構築に取り組む必要がありました(図3)。こうした状況のなか、ある程度の規模の病院であれば外来化学療法を行えるような体制を整備すべきであるといった最近の医療情勢の変化は、私たちの取り組みにとって大変な追い風になったといえます。
そこで、まずは各医療圏に治療を担当してくれる医療機関を見つける、作ることから始めました。もちろん、連携先に対していきなりすべてをお任せするのではなく、最初は高血圧や糖尿病といった既存の合併症や不眠、便秘などの加療をしてもらい、慣れてくれば吐き気があって食事を食べられないような場合は点滴をお願いする。更に進めば、採血もお願いしデータが悪いときは当院へ連絡を入れてもらうようにする。次のレベルでは抗がん剤の経口投与、そして点滴投与、さらにはインフューザーポンプを用いたがんの標準治療がお願いできないかというようにステップアップを図っています。また、施設によってCT検査が可能な病院などではこれもお願いし、次回来院時にすべてのデータが地元でそろうような状態で来院してもらう。つまり、地域で治療と検査をすべて行ってもらい、当院では検査所見を確認しながら今後の治療方針を決定したり、これまでの治療効果のレビューを行ったり、有害事象管理のアドバイスをしたりすることが中心となるところまでのレベルアップを目標としました。
こうした取り組みの結果、県内には現在、当院以外にリザーバーを用いた抗がん剤投与可能な施設が40施設以上、更にインフューザーポンプの使用が可能な施設が20施設以上といった状況に至っています。特に、へき地の診療所との連携は不可欠であると考え、現在までに80を超える医療機関と連携を開始しています。
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