EGFR阻害剤としては、抗体薬としてCetuximab、Panitumumabがその地位を確立しているが、より効果の高い抗体薬の開発が行われており、現在では、糖鎖修飾によりADCC活性を高めた抗EGFR抗体薬であるRO5083945や106)、EGFR内の違うドメインをエピトープとして結合する2種類の抗体をミックスしたSym004などの改良型EGFR抗体薬の臨床試験が行われている107)。また、基礎実験において抗EGFR抗体薬とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の併用により相乗効果が認められることから、いくつか臨床試験が行われている。CetuximabとErlotinibとの併用療法の第II相試験 (DUX試験) では、KRAS野生型における奏効率41%、PFS中央値5.6ヵ月と良好な治療成績が報告されているが、grade 3/4の皮疹48%、低マグネシウム血症18%と有害事象の増強も認められる108)。この結果をもとに、Cetuximab単独療法と、高容量Cetuximab療法、Cetuximab + Erlotinib療法を比較する無作為化第II相試験 (DUX2試験) が開始されている109)。他にも、CPT-11 + Panitumumab + Erlotinib併用療法の臨床試験等が行われている110)。
VEGF阻害剤としては、Bevacizumab、Afliberceptといった抗体薬、(デコイ) レセプターが承認され、チロシンキナーゼ阻害剤は全てnegative studyとなった。しかし、その理由は主に毒性の増強にあると考えられ、よりVEGFRに特異性を高めた薬剤であれば効果の上乗せが期待できる可能性もあり、現在、mFOLFOX6 + Tivozanib療法47)、mFOLFOX6 + BIBF1120療法43)の臨床試験が行われている。またRegorafenibのように、標準治療不応例を対象に単剤療法として行えば抗腫瘍効果を示せる可能性も考えられ、現在、標準治療後のDovitinib単剤療法や111)、FOLFOX + Bevacizumab療法後の維持療法としてのAxitinib単剤療法の有効性を探索する第II相試験などが行われている112, 113)。
HER2/HER3やIGF1R、c-Metなどの受容体型チロシンキナ−ゼも、大腸癌の転移・増殖に関与すると報告され標的となり得ることから、標準治療への上乗せ効果が期待される。また、抗EGFR抗体薬の耐性機構にも関与している可能性が示唆されており、抗EGFR抗体薬との併用療法が試みられている。CPT-11、L-OHP不応のKRAS野生型大腸癌を対象にPanitumumab + placebo療法とPanitumumab + Rilotumumab (AMG102、HGF抗体薬) 療法、Panitumumab + Ganitumab (AMG479、IGF1R抗体薬) 療法の無作為化比較第II相試験が行われ、主要評価項目の奏効率はそれぞれ21%、31%、22%、奏効期間の中央値は3.7ヵ月、5.1ヵ月、3.7ヵ月であり、Rilotumumab群でわずかに良好であった。また、バイオマーカー解析では明らかな効果予測因子は同定できなかった114)。さらに、CPT-11、L-OHP不応の患者を対象としてCPT-11 + Cetuximab療法にIGF1R抗体薬のDalotuzumab (MK-0646) (10mg/kg weekly群と15mg/kgのち7.5mg/kg biweekly群) をon/offする第II/III相試験が行われたが、1回目の中間解析にてDalotuzumab群の成績が有意に劣る結果となり途中中止となった115)。Control群 (112例)、weekly投与群 (116例)、biweekly投与群 (117例) のOS中央値はそれぞれ14.0ヵ月、10.8ヵ月、11.6ヵ月であった。バイオマーカー解析ではIGF1高発現の直腸癌ではweekly投与により治療効果の上乗せが期待できる結果であったため、この集団のみを対象に追試の第II相試験が行われている116)。
上記の報告からは、c-METやIGF1Rを標的とした薬剤により劇的な効果は得られていないが、現在、FOLFOX + BevacizumabにOnartuzumab (MetMAb) をon/offして比較する無作為化第II相試験117) など、複数の臨床試験が行われている。バイオマーカー研究を通じて治療効果が得られる集団が特定できれば、その後の臨床開発の道筋が開けてくるかもしれない。
MEKやRafはEGFR-Ras経路の下流に位置するとされるセリンスレオニンキナーゼである。これらを標的とした低分子性分子標的抗癌剤が開発され、さまざまな癌腫で臨床開発が行われている。特に、KRAS変異型やBRAF変異型大腸癌ではMEK経路に強く依存している可能性があり治療開発が期待されており、KRAS/BRAF変異型大腸癌を対象にしたCPT-11 + Selumetinib (AZD6244、MEK阻害剤) 療法の第II相試験118) などが行われている。また、BRAF変異型大腸癌はBRAF阻害剤単独療法ではメラノーマほどに期待された効果が得られなかったことから、EGFR-Raf-MEK経路に関する阻害剤を併用する試みが行われている。現在、BRAF変異型大腸癌を対象にCetuximab + LGX818 (RAF阻害剤) 併用療法119) や、Panitumumab + Dabrafenib (GSK2118436、RAF阻害剤) +Trametinib (GSK1120212、MEK阻害剤) 併用療法の第II相試験が行われている120)。
PI3K-Akt-mTOR経路の異常はさまざまな癌腫で認められ、大腸癌においてもPIK3CAの変異を約15%、PTENのLOHを23〜35%、AKT1の変異を6%、AKTの発現亢進を50%に認めると報告されており、治療標的となり得る。第I相試験においてPI3K阻害剤単独療法では大腸癌での奏効例は認められていないことから、他の薬剤との併用療法や、PI3K変異を有する大腸癌に対象を限定した治療開発が試みられている。前者の併用療法の例としては、KRAS野生型大腸癌を対象にBKM120やPX-866と抗EGFR抗体薬との併用療法の第II相試験が行われている121, 122)。AKT阻害剤は先述したようにPerifosineの試験がnegativeであったが、他の作用機序であるMK-2206123) やEverolimus124-126) については臨床試験が継続中である。
その他にも、Src、Sykなどの非受容体型チロシンキナーゼ、CDKなどの細胞周期関連セリンスレオニンキナーゼに対する薬剤や、キナーゼ以外の標的分子として、エピジェネティクス (HDAC阻害剤、脱メチル化剤)、アポトーシス誘導薬 (DR5アゴニスト)、Hedgehog/Notch経路、DNA修復 (PARP阻害剤)、など多岐にわたる分子を標的とした治療開発が行われている。また、免疫療法との区別が曖昧であるが、癌ワクチンや免疫調整薬、免疫関連因子を標的とした薬剤の臨床試験も多く行われている。Imprime PGG®は酵母由来のβグルカンであり、人体に投与されると樹状細胞やマクロファージが活性化される免疫調整作用を持つ。現在CPT-11、 L-OHP不応の大腸癌患者を対象にCetuximab療法への上乗せ効果を検討する第II/III相試験が行われている127)。
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