9月監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 教授 中島 貴子
進行肺・消化管神経内分泌腫瘍に対するEverolimus(RADIANT-4試験)
Yao JC, et al.: Lancet. 387(10022): 968-977, 2016
神経内分泌腫瘍(NET)は体内の様々な部位の神経内分泌細胞から発生する悪性腫瘍で、不均一な疾患群である。米国においては消化管原発が51%、肺原発が27%、膵原発が6%と報告されている。臨床的にNETはホルモンを過剰分泌する機能性腫瘍とホルモンを分泌しない非機能性腫瘍に分類され、NETの74%は非機能性腫瘍であることが報告されている。NETに対しては、ソマトスタチン類似体のOctreotideが未治療の中腸NET患者に対して病勢進行を遅らせることが示され、最近ではLanreotideが進行膵・消化管NET患者に対して腫瘍増殖を遅らせることが示された。一方、EverolimusやSunitinibのような分子標的療法は進行膵NETに対してPFS改善を認め、承認されているが、肺または消化管NETにおいては承認されていない。
mTOR阻害剤のEverolimusは進行非膵NETに対して抗腫瘍活性を認めており、NET及びカルチノイド症候群患者に対してOctreotide LAR(long acting repeatable)への上乗せ効果を検討したRADIANT-2試験においてPFS中央値で5.1ヵ月の延長を認めたものの、恐らく患者背景の不均衡などにより統計的有意差は認めなかった。そこで、非機能性腫瘍の進行肺・消化管NET患者に対してEverolimusとプラセボを比較検討する国際共同二重盲検プラセボ対照第III相試験、RADIANT-4試験が行われた。
対象は18歳以上、WHO PS 0/1で6ヵ月以内に病勢進行が認められた、進行、非機能性腫瘍、高分化型の肺・消化管NET患者で、カルチノイド症候群の既往がある患者は除外した。
対象患者は、ソマトスタチン類似体治療歴、原発巣、WHO PSにより層別化され、Everolimus群(Everolimus 10mg/day)とプラセボ群に2:1で無作為化された。両群はともにBSCが行われたが、放射線と手術は緩和目的にのみ認められた。また、試験中におけるソマトスタチン類似体の同時投与は、Loperamideなどの標準治療で管理不能な緊急性のカルチノイド症状に対してのみ認められた。なお、クロスオーバーは認めなかった。
主要評価項目は中央判定によるPFS、副次評価項目はOS、奏効率、病勢コントロール率、健康関連QOL、WHO PSなどである。過去のデータよりプラセボ群のPFS中央値を5ヵ月、臨床的に意義のあるリスク減少を41%(HR=0.59、Everolimus群のPFS中央値8.5ヵ月)として、α=0.0025、検出力91.3%で176のPFSイベントが必要であり、脱落15%を見積もり、必要症例数は285例であった。
2012年4月3日〜2013年8月23日の間に302例が登録され、Everolimus群205例、プラセボ群97例に無作為化されたが、Everolimus群の2例は同意撤回とプロトコル逸脱のため治療を受けず、Everolimus群の1例は分配エラーによりプラセボが投与されたため、安全性はEverolimus群202例、プラセボ群98例で解析された。患者背景はバランスが取れており、原発巣は肺、回腸、直腸が多く、半数以上でソマトスタチン類似体による治療歴を有していた。
2014年11月28日のカットオフ時において、中央判定によるPFS中央値はEverolimus群11.0ヵ月、プラセボ群3.9ヵ月であり、52%のリスク減少を認めた(HR=0.48, 95% CI: 0.35-0.67, p<0.00001)。また、12ヵ月PFS割合はEverolimus群44%、プラセボ群28%であった。治療医判定によるPFS中央値はEverolimus群14.0ヵ月、プラセボ群5.5ヵ月であった(HR=0.39, 95% CI: 0.28-0.54, p<0.00001)。なお、中央判定によるPFSにおけるサブグループ解析、原発巣別(肺、消化管、原発不明)の後向き解析、肝転移の進展度の解析でも一貫してEverolimus群が良好であった。
OSの初回中間解析では、Everolimus群はプラセボ群に対して有意差はなかったものの、36%のリスク減少を認めた(HR=0.64, 95% CI: 0.40-1.05, p=0.037 [Lan-DeMets O’Brian Fleming boundaryによる初回中間解析の有意水準0.0002])。また、奏効例はEverolimus群4例(2%)、プラセボ群1例(1%)であったが、SD例はEverolimus群165例(81%)、プラセボ群62例(64%)であり、腫瘍縮小例は、Everolimus群117例(64%)、プラセボ群22例(26%)であった。
追跡期間中央値21ヵ月における治療期間中央値は、Everolimus群40.4週、プラセボ群19.6週であった。相対用量強度中央値はEverolimus群0.9、プラセボ群1.0であり、治療期間未調整における減量・中断はEverolimus群67%、プラセボ群30%であった。
有害事象は既知の安全性プロファイルに基づいており、大部分はgrade 1/2であった。最も多くみられた副作用は、口内炎、下痢、疲労、感染症、皮疹、末梢性浮腫であり、grade 3/4では、口内炎、下痢、感染症、貧血、疲労であった。Grade 3/4の副作用による治療中止はEverolimus群24例(12%)、プラセボ群3例(3%)に認められた。なお、非感染性肺臓炎はEverolimus群の32例(16%)に認められたが、多くはgrade 1/2で、grade 3は3例(1%)、grade 4は認められなかった。
以上のように、非機能性腫瘍の進行肺・消化管NET患者に対してEverolimusは有意にPFSを延長し、高い忍容性を認めた。膵NETを対象にしたRADIANT-3試験の結果を合わせると、Everolimusの膵臓、肺、消化管原発NETに対する抗腫瘍活性は強固であると考えられる。
監訳者コメント:
消化管NETに対するEverolimusの有用性を示したpivotal study
膵・消化管NETは原発臓器により使用可能な薬剤が異なる状況となっており疾患概念のみならず、その治療薬剤についても一般臨床医には理解が難しい状況であった。しかし2015年、日本神経内分泌腫瘍研究会の編集により「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン第1版」が刊行され、臨床現場での良い指針になっていると思われる。
この論文のRADIANT-4試験では肺及び消化管原発の非機能性NETを対象にプラセボ+BSCに対するEverolimus+BSCの無増悪生存期間(PFS)に対する優越性を検証する第V相試験として実施され、本試験結果をもって本年、米国FDA、欧州EMA、そして本邦において消化管・肺NETを対象に適応拡大が承認された。
消化管NETに対し使用可能な初めての分子標的薬であり、治療の選択肢が拡がったことは非常に歓迎すべきことである。個々の症例において複数ある薬剤選択肢のファーストチョイスはどれなのか、手術やTACEなどの局所治療と組み合わせてどのように全体の治療戦略を組んでいくか担当医が悩むところであろう。前述の本邦ガイドラインも遠くないうちに改訂予定と聞いているが、現時点では、エキスパートのコンセンサスにより形成された欧州神経内分泌腫瘍学会(ENETS)が提示しているガイドライン1, 2) が治療選択の拠り所になると考える。
また消化管専門で治療を行っている外科医・内科医にとって、初めて使用する薬剤となる。他の経口分子標的薬に比較し毒性は概ね軽微であるが、口内炎や間質性肺疾患などの特徴的な毒性にはその対策を十分に理解し、注意して管理すべきであろう。
- 1) Delle Fave G, et al.: Neuroendocrinology. 103(2): 119-124, 2016[PubMed]
- 2) Ramage JK, et al.: Neuroendocrinology. 103(2): 139-143, 2016[PubMed]
監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 町田 望
GI cancer-net
消化器癌治療の広場