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7月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

消化管NET

進行カルチノイド腫瘍に対するOctreotide+BevacizumabとOctreotide+IFNα-2bの前向き無作為化第III相比較試験(SWOG S0518試験)


Yao JC, et al.: J Clin Oncol. 35(15): 1695-1703, 2017

 Neuroendocrine tumor(NET)は、かつては稀な疾患と考えられていたが、その頻度は増加傾向である。Pancreatic NET(pNET)に対してはEverolimusやSunitinibといった分子標的薬が承認されているが、他臓器由来のNETの治療薬については十分な選択肢がないのが現状である。

 NETは多血性腫瘍であり、vascular endothelial growth factor(VEGF)の発現が予後不良因子とされている1)。Octreotide+Bevacizumab(BV)とOctreotide+PEG-interferon(IFN)αを比較した第II相試験においてBV併用群がPEG-IFNα併用群に比べ早期に腫瘍血流が低下し、RR、PFSが良好であったとしている2)。その後、いくつかの第II相試験でBVを使用したregimenが有用であったと報告されている3-5)。一方で、IFNαは以前よりNETに対して使用されてきており、IFNαでの治療例のメタ解析では、307例中37例(12%)に腫瘍縮小効果を認めた6)。また、Octreotide単剤群もしくはOctreotide+IFN併用群による無作為化比較試験では、IFN併用群において無増悪期間の有意な延長を認めており(HR=0.28, 95% CI: 0.16-0.45)7)、NCCN guidelineではOctreotide+IFNは選択肢の1つとなっている。

 SWOG S0518試験では、進行NETに対するOctreotide+BVのOctreotide+IFNα-2bに対する優越性を検証するため、前向き無作為化第III相比較試験を実施した。

 対象は年齢18歳以上で、以下の予後不良因子の1つ以上を有する進行NET G1/G2症例とした。1)登録前6ヵ月以内のprogressive disease(PD)、2)難治性カルチノイド症候群、3)NET G2かつ転移病変が6病変以上、4)転移性後腸NET、5)転移性胃NET。甲状腺髄様癌やpNETは除外された。適格基準はRECIST ver1.0に準じて判定可能な病変であること、Zubrod performance status(PS)0-2、先行する化学療法は1回まで、骨髄・肝・腎機能が保たれていることなどが設定された。

 適格基準を満たした症例は原発臓器(中腸 vs. その他)、登録前6ヵ月以内のPD判定の有無、grade(G1 vs. G2)、先行Octreotide治療の有無を層別因子としてOctreotide(20mg、3週毎)+BV(15mg/kg、3週毎)群とOctreotide(20mg、3週毎)+IFNα-2b(5万単位、週3回)群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。

 主要評価項目は中央評価によるPFSとし、副次的評価項目は実施施設評価によるPFS、OS、TTF、RR、AEとした。死亡時もしくは登録後3年を観察期間とした。

 Octreotide+IFN群のPFS中央値を6ヵ月と仮定し、PFSの50%以上の改善(HR=0.67、PFS中央値9ヵ月)で優越性を証明できると設定した。中間解析前の時点で、Octreotide+IFN群のmedian PFSは15ヵ月以上であり、当初設定していたHR=0.67ではPFS中央値は22.5ヵ月となり、7.5ヵ月の延長が必要となるため、HR=0.71(BV群のPFS中央値21ヵ月)と設定し、有意水準を両側0.05、検出力を84%で、必要症例数は400例とした。

 2007年12月から2012年9月までに427例が無作為に1:1で両群に割り付けられ、402例が適格基準を満たした。中腸由来(小腸、盲腸、虫垂)が最も多く、BV群で35%、IFN群で36%であった。その他の背景因子は、PD症例がBV群91%、IFN群93%、難治性カルチノイド症候群がBV群9%、IFN群11%、grade 1/2がBV群84%/15%、IFN群85%/15%であった。主な転移臓器はBV群では肝(86%)、遠隔リンパ節(24%)、骨(19%)、IFN群では肝(86%)、遠隔リンパ節(21%)、骨(17%)であった。両群とも半数以上が登録時点でOctreotideによる治療を受けていた。

 主要評価項目である中央判定によるPFSの中央値はBV群で16.6ヵ月(95% CI: 12.9-19.6ヵ月)、IFN群で15.4ヵ月(95% CI: 9.6-18.6ヵ月)であり(HR=0.93, 95% CI: 0.73-1.18, p=0.55)、両群に有意差は認めなかった。実施施設判定でのPFSはBV群で15.4ヵ月(95% CI: 12.6-17.2ヵ月)、IFN群で10.6ヵ月(95% CI: 8.5-14.4ヵ月)であり、こちらも有意差は認めなかった(HR=0.90, 95% CI: 0.72-1.12, p=0.33)。OSの中央値はBV群で35.2ヵ月(95% CI: 33.1-42.8ヵ月)、IFN群では観察期間中に中央値に到達せず、両群間に有意差は認めなかった(HR=1.16, 95% CI: 0.88-1.55, p=0.29)。BV群とIFN群の12、24、36ヵ月生存率はそれぞれ86% vs. 84%、67% vs. 71%、49% vs. 56%であった。TTFはBV群で中央値9.9ヵ月(95% CI: 7.3-11.1ヵ月)、IFN群で5.6ヵ月(95% CI: 4.3-6.4ヵ月)であり、BV群で有意に延長していた(HR=0.72, 95% CI: 0.58-0.89, p=0.003)。奏効率はBV群が有意に高かった(12% vs. 4%, p=0.008)。内訳はBV群でCR 2例(1%)、PR 22例(12%)、IFN群ではCR 0例、PR 8例(4%)であった。Waterfall plotでの解析ではBV群の65%、IFN群の53%でなんらかの腫瘍縮小効果(SD症例も含む)を認めていた。

 AEのため減量や治療中断を要した症例はBV群で59%(116/197)、IFN群で75%(145/193)であった。主なAEは、BV群で高血圧(32%)、蛋白尿(8.6%)であり、IFN群では倦怠感(26.8%)、好中球減少(11.9%)であった。Grade 3/4のAEはBV群では高血圧、蛋白尿、倦怠感、頭痛であり、IFN群では倦怠感、好中球減少、悪心下痢であった。AEによる本試験の中止はBV群で30%(57例)、IFN群で24%(47例)であった。

 NETのbiomarkerとしてCGA、NSE、5HIAAについて検討した。CGA、NSE、5HIAAはそれぞれ61%、33%、63%で上昇していた。CGA、5HIAA上昇例でOSは不良であり、NSE上昇例ではPFS(p=0.01)、OS(p<0.001)が不良であった。また、5HIAA上昇例はBVの効果が不良であった(p=0.006)。

 以上のように、Octreotide+BVは進行NETに対してOctreotide+IFNと同様のPFSを示した。IFN群に対する優越性は証明されなかったが、奏効率、TTFは有意に良好であり、Octreotide+BVもOctreotide+IFNと同様の有効性を示していると思われる。

日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター中央病院 消化器内科部 田中 宏樹



監訳者コメント:
消化管NETに対するOctreotide LARにBVの上乗せ効果はあるのか?

 消化管NETに対するPFSの延長が確認されているOctreotide LARの併用薬として、Bevacizumab(BV)のIFNα-2bに対する優越性を確認するランダム化第III相試験の研究結果である。

 本試験のprimary endpointの結果はnegative studyであり、Octreotide LAR+BVのOctreotide LAR+IFNα-2bに対するPFSにおいての優越性は証明できなかった。しかし、奏効率、TTF(time to treatment-failure)はIFNα-2bより有意に良好であった。

 これをどう解釈するかについては、様々な意見があると思う。BVだけでなく予想以上にIFNα-2bにもOctreotide LARの上乗せ効果が得られたからnegativeだったと考える意見もあるであろう。

 これまでの消化管NETに対するソマトスタチンアナログ単剤の試験はどうであろう? これまで、中腸NETに対してOctreotide(PROMID試験)、中腸および後腸NETに対してLanreotide(CLARINET試験)が、どちらもランダム化第III相試験においてprimary endpointをPFSとして報告されている。どちらも、プラセボと比較しPFSの有意な延長効果を示しているが、PROMID試験は、Octreotide LAR群で14.3ヵ月、CLARINET試験はLanreotide群のPFSは中央値に達していない(CLARINET試験は、95%以上が病状安定の症例がエントリーとなっている)。

 本試験を見てみると、BV上乗せ群で16.6ヵ月、IFNα-2b上乗せ群で15.4ヵ月であった。1つ以上の予後不良因子があることがInclusion criteriaとなっており(結果、どの予後不良因子を有していたのかは不明であるが…)、90%以上の症例がKi<2%以下のPROMID試験や、95%以上が病状安定のCLARINET試験とは、患者背景に大きな相違があるため単純比較はできないが、ソマトスタチンアナログ単剤のPFSとそれほど大差はないと考えるのが一般的であろう。

 また、本試験ではNETの原発部位の詳細について不明である点も問題である。部位別には、中腸とその他との記載しかなく、その他の詳細が不明である。消化管NETは人種差が大きく、欧米人に多い中腸NETは、日本人には殆どみられず、逆に欧米人に少ない後腸NETが多い(日本の疫学調査では消化管NETのうち、中腸NET 3.5%、後腸NET 70.3%)。

 CLARINET試験(および日本人における第II相試験)の結果からは、ソマトスタチンアナログ製剤は後腸NETへの効果は低い可能性が指摘されている。この点においても、部位別のサブ解析で検討が欲しかったが、なされていないのが残念である。

 本試験の結果からは、やはりタイトルの回答は得られておらず、消化管NETに対しては、まずはOctreotide LAR単剤に対する上乗せ効果の有無をランダム化第III相試験で行うべきであり、その候補として、本試験の結果からBVが有望であることは言えるであろう。

 また、主たる解析ではないが、本試験ではOS、PFSに関わるバイオマーカーとして、血清クロモグラニンA(CGA)、NSE、5-HIAAが測定され、OSに関わるバイオマーカーとして、CGAとNSEが、PFSに関してNSEが抽出された。

 これまで膵NETにおいては、OSに関わる因子としてRADIANT3試験において、NSEがバイオマーカーとして抽出されたが、消化管においてもNSEが予後予測の重要なバイオマーカーと判明したことは興味深い。CGAに関しては本邦では臨床では測定できないが、NSEは測定可能であり、今後のNET診療においても有用な情報である。

  •  1) Zhang J, et al.: Cancer. 109(8): 1478-1486, 2007[PubMed
  •  2) Yao JC, et al.: J Clin Oncol. 26(8): 1316-1323, 2008[PubMed
  •  3) Berruti A, et al.: BMC Cancer. 14: 184, 2014[PubMed
  •  4) Hobday TJ, et al.: J Clin Oncol. 33(14): 1551-1556, 2015 [PubMed]
  •  5) Chan JA, et al.: J Clin Oncol. 30(24): 2963-2968, 2012[PubMed
  •  6) Schnirer II, et al.: Acta Oncol. 42(7): 672-692, 2003[PubMed
  •  7) Kölby L, et al.: Br J Surg. 90(6): 687-693, 2003[PubMed

監訳・コメント:愛知県がんセンター中央病院 消化器内科部 肱岡 範

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