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9月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

胃癌 食道癌

進行・転移性胃食道癌においてプロトンポンプ阻害薬がCapecitabineの効果に与える影響:TRIO-013/LOGiC無作為化第III相比較試験の2次解析


Chu MP, et al.: JAMA Oncol. 3(6): 767-773, 2017

 進行・転移性胃食道癌は、未だ予後不良である。ERBB2/HER2の増幅または過剰発現は、胃癌の7〜34%で起こり、抗ERBB2/HER2抗体(Trastuzumab)は、ERBB2/HER2陽性胃癌に対して有効な治療法である1)。Toga試験2)では、TrastuzumabとCisplatin、CapecitabineまたはFluorouracilを用いた場合の無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が化学療法単独群と比較して改善を認めた。

 その後、ERBB2/HER2の小分子チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるLapatinibが開発され、新しい併用療法の研究が行われた。TRIO-013/LOGiC試験は、ERBB2/HER2を過剰発現している進行・転移性胃食道癌患者に対して、CapecitabineおよびOxaliplatin(CapeOX)療法をコントロール群、Lapatinib併用CapeOX群を試験治療群として、545例を比較した第III相試験である3)。Lapatinib併用群のほうが奏効割合は良好であったが、主要評価項目、副次評価項目であるOSおよびPFSで統計学的に有意な改善は認めなかった。

 癌治療は、毒性を軽減しつつ、有効性を改善するために、分子標的薬や経口剤へシフトしている。経口剤は、利便性と治療ストレスが少ないため4)患者に好まれる治療であり、また、点滴時間が短くなるため、施設の経費削減になる。非経口投与と経口投与間での薬物動態の変動に疑問を呈する文献が増えている。特に、多くのTKIは、pHに依存して胃内で溶解し、その後吸収される5)。これらのデータの多くは、胃内pHレベルの上昇がTKIの溶解能力を低下させ、最終的に全身循環に影響する前臨床データからなる。

 実際、最近の後方視的研究で、進行・転移性非小細胞肺癌および腎細胞癌において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはヒスタミン受容体拮抗薬などの胃酸抑制剤をTKIと同時に投与すると、ErlotinibおよびSunitinibの有効性が低下するという報告がある6,7)。これらの胃酸分泌抑制剤との相互作用は、多くの経口薬が適切に溶解し全身へ吸収されるために、十分な酸性環境を必要とすることから、TKIに限定されるものではないと考えられる。そこで、TRIO-013/LOGiCの2次解析では、経口剤であるCapecitabineおよびLapatinibと、PPIの同時投与が治療効果に影響を及ぼすかを検討した。

 TRIO-013/LOGiC試験のintention-to-treat解析に含まれるすべての患者が、この2次解析に含まれた。PPI使用患者は、PPI処方期間が試験期間の20%以上の患者とした6)。他の結果に影響する因子として年齢、性別、組織学的サブタイプ(腸型vs. びまん型)、病期(局所進行性vs. 転移性)および人種(アジア人vs. 非アジア人)を検討した。

 主要評価項目であるPPI使用患者と非使用患者でのPFSおよびOSは、カプラン・マイヤー法にて比較した。Cox比例ハザードモデルによる多変量解析では、人口統計(年齢、性別、人種)、診断時の病期(局所進行性vs. 転移性)および組織学的サブタイプを用いた。P値が0.05未満の場合、生存期間中央値の差は有意であると判断した。

 副次評価項目としてPPI使用患者と非使用患者での奏効割合(ORR)、病勢コントロール割合(DCR)、grade 3,4の下痢、発疹、手足症候群の発現率、Capecitabine減量患者数およびLapatinib減量患者数を検討した。

 545人の患者のうち229人がPPIを使用しており、その割合は110人がLapatinib併用CapeOX群、119人がCapeOX群であった。545人のうち521人の患者(96%)が転移性、406人の患者(74%)が男性、332人の患者(61%)がPS 1、212人の患者(39%)が低分化型であった。PPI使用患者とPPI非使用患者の間で、腸型の患者の分布は均一であった。PPI使用患者は、PPI処方期間と治療期間がほぼ重複していた。予後因子のうち、PPI使用患者では、アジア人とPS 0または1の患者の割合が有意に高かった。また、PPI使用患者では女性と局所進行性の割合が高かったが、これらの差は統計学的に有意ではなかった。

 CapeOX群では、PPI使用患者に比べてPPI非使用患者で良好なPFS(5.7ヵ月vs. 4.2ヵ月、ハザード比[HR]1.55、95% CI: 1.29-1.81、p<0.001)、OS(11.3ヵ月vs. 9.2ヵ月、HR: 1.34、95% CI: 1.06-1.62、p=0.04)中央値を示した。

 対照的に、Lapatinib併用CapeOX群では、PPI非使用患者、PPI使用患者は、それぞれ、PFS中央値(6.8ヵ月vs. 5.7ヵ月、HR=1.08、95% CI: 0.82-1.34、p=0.54)、OS中央値(13.8ヵ月vs. 9.6ヵ月、HR=1.26、95% CI: 0.97-1.55、p=0.10)でありPFS、OSともに有意差は認めなかった。

 既知の予後因子を、多変量解析に含め解析を行った。特に年齢(60歳以上)、性別(男性)、びまん型、転移性、非アジア人種は、予後不良因子として考えられている8)。多変量解析では、CapeOX群では、PPIは、PFSとOSともに、有意な因子であった(HR=1.68、p<0.001およびHR=1.41、p=0.001)。Lapatinib群では、PPIはOS(HR=1.38、p=0.03)に影響を与えたが、PFSに影響はなかった(HR=1.14、p=0.33)。

 CapeOX群においてDCRがPPI非使用患者において、有意に高かった(82.5% vs. 71.2%、p=0.02)ことから、PPI非使用患者では、わずかにDCR(81.0% vs. 76.8%、p=0.24)が高かった。Lapatinib群のORRおよびDCRに有意差はなかった。

 PPI使用患者とPPI非使用患者の間で、CapecitabineまたはLapatinibの用量減少、grade 3以上の下痢、または発疹の発現率に統計学的な有意差は認めなかった。CapeOX群とLapatinib群の両方でPPI非使用患者における手足症候群の発現率が高いが、いずれの群も統計学的有意差は認めなかった(14.2% vs. 10.2%、p=0.32および20.8% vs. 18.0%、p=0.43)。

 RIO-013/LOGiC試験の2次解析は、PPIがCapecitabineの治療効果に影響を与えることを示唆した報告である。これまで制酸薬とのこのような薬物相互作用は、ErlotinibやSunitinibなどのTKIで知られていた。胃酸のpH上昇によるCapecitabineの溶解性低下が原因である可能性を考察しているが、薬物動態学的な検討が行われていないため、さらなる検証が必要である。


日本語要約原稿作成:がん研有明病院 薬剤部 青山 剛



監訳者コメント:
胃癌において胃切除歴を無視したPPI議論は意味なし

 切除不能・進行再発胃癌の予後不良因子として、胃切除歴がない(原発巣あり)が本邦から報告されている9,10)が、本報告は、胃切除歴については一切触れておらず、PPI内服の有無で後解析を行っている。通常、胃切除歴があればPPI内服は行わない。PPI非内服群がほぼ胃切除歴がある症例(予後良好群)であれば、PPI内服群(胃切除歴がない=原発巣あり)と比較して、予後良好となるのは、交絡因子を無視した解析の結果ということになる。

 一方、治療成績に影響を与える可能性があると引用されているこれまでのErlotinib(肺癌)6)や、Sunitinib(腎癌)の報告7)については、胃切除歴は問題にならないため、胃酸によって薬物動態が影響を受け、結果として治療成績に影響を与える可能性は否定できない。肺癌において、Erlotinibとコーラを同時に飲むとErlotinibの血中濃度が有意に上昇するという前向き試験の報告11)からも、胃切除歴が問題にならない疾患においては、胃酸濃度が薬物動態に影響を与える可能性は無視できないと考えられる。

 消化器疾患においては、比較的胃切除歴が問題にならない、大腸癌補助化学療法におけるCapecitabineとPPI内服の有無を検討した報告12)について言及されている。この報告は、小規模な後ろ向き解析であり断定的なことは言えず、実臨床においてPPIを避ける理由にはならないが、今後、Capecitabine内服の際に、酸性水溶液(コーラよりレモン水などがよいと思うが)を用いて、PK/PD試験を行い、胃酸濃度がCapecitabineの薬物動態に与える影響を前向きに検討していく必要があるかもしれない。

 最後に、現時点で胃酸濃度の影響を受ける可能性が指摘されているのであれば、製薬企業は胃酸濃度で薬物吸収に影響がでない薬剤開発をすべきであり、吸収効率を改善させるための努力(錠剤だけでなく、OD錠や、顆粒の開発)をすべきである。特に、胃癌・食道癌患者においては、大きな錠剤だけの薬剤はそもそも飲みづらく、ユーザー(患者)側の立場に立った薬剤開発とは程遠いと感じることが多々ある。

  •  1) Gravalos C, et al.: Ann Oncol. 19(9): 1523-1529, 2008 [PubMed]
  •  2) Bang YJ, et al.: Lancet. 376(9742): 687-697, 2010 [PubMed]
  •  3) Hecht JR, et al.: J Clin Oncol. 34(5): 443-451, 2016 [PubMed]
  •  4) McLeod HL, et al.: Clin Cancer Res. 5(10): 2669-2671, 1999 [PubMed]
  •  5) Budha NR, et al.: Clin Pharmacol Ther. 92(2): 203-213, 2012 [PubMed]
  •  6) Chu MP, et al.: Clin Lung Cancer. 16(1): 33-39, 2015 [PubMed]
  •  7) Ha VH, et al.: J Oncol Pharm Pract. 21(3): 194-200, 2015 [PubMed]
  •  8) Yang D, et al.: J Gastrointest Oncol. 2(2): 77-84, 2011 [PubMed]
  •  9) Takahari D, et al.: Gastric Cancer. 20(5): 757-763, 2017 [PubMed]
  • 10) Takahari D, et al.: Oncologist. 19(4): 358-366, 2014 [PubMed]
  • 11) van Leeuwen RW, et al.: J Clin Oncol. 34(12): 1309-1314, 2016 [PubMed]
  • 12) Sun J, et al.: Clin Colorectal Cancer. 15(3): 257-263, 2016 [PubMed]

監訳・コメント:がん研有明病院 消化器化学療法科 市村 崇

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