11月監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健
胃癌
術前化学療法後に外科的切除を施行した切除可能胃癌に対する術後化学療法と術後化学放射線療法の第III相比較試験:CRITICS試験
Cats A, et al.: Lancet Oncol. 19(5): 616-628, 2018
胃癌は全世界の癌死亡率の第5位に挙げられ、欧米諸国での局所進行胃癌の成績は手術療法単独のみではほとんどの症例で2年以内に再発する1)。また、拡大リンパ節郭清は生存予後を向上させるが、相対的に手術合併症や死亡率が高くなることが知られている2,3)。これまでの研究では、米国において胃癌治癒切除後にフッ化ピリミジン製剤(5-FU)をベースにした術後化学放射線療法と手術単独群を比較した第III相無作為化試験(Intergroup 0116試験)が行われた。2001年の解析では術後化学放射線療法群において局所制御率および全生存(OS)期間の有意な改善が報告され4)、10年以上の追跡期間を経た最終解析においてもその効果が持続することが確認された5)。一方、欧州で行われたMAGIC試験では、切除可能胃癌に対してEpirubicin、Cisplatin、5-FU(ECF)による術前術後の周術期化学療法が手術単独群と比較して有意な腫瘍縮小とOSの改善を認めた6)。術前化学療法を含めた周術期治療において、術後補助療法としての化学療法と化学放射線療法のどちらが優れているかは現在のところ明らかではない。本試験は切除可能胃癌患者に対して、周術期治療としての術前化学療法後に術後化学療法と術後化学放射線療法の有効性を比較検討した初の多施設共同無作為化比較第III相試験(CRITICS)である。
対象は、オランダ、スウェーデン、デンマークの56施設において組織学的に腺癌と診断されたstage IB〜IVAの18歳以上でPS 0/1、治療歴を有さない耐術能のある胃癌もしくは胃食道接合部癌患者(Siewert type Iは除外)である。T1N0症例や治療に影響のある合併症を有する患者は除外された。対象患者は術前化学療法(Epirubicin 50mg/m2+Cisplatin 60mg/m2, day1+Capecitabine 2,000mg/m2, day1-14あるいはEpirubicin 50mg/m2+Oxaliplatin 130mg/m2, day1+Capecitabine 1,250mg/m2, day1-14、3週毎、3サイクル)を施行後に手術(胃切除術+D1郭清以上)を行い、術後4〜12週以内に術後化学療法(術前と同様のレジメン)と術後化学放射線療法(Capecitabine 1,150mg/m2, week day+Cisplatin 20mg/m2, day1/every week+放射線45Gy, 25Fr)を施行する群に術前治療開始前に1:1で無作為に割り付けられた。割り付けの層別因子は組織型(Lauren分類:intestinal vs. diffuse vs. mixed vs. unknown)、主占拠部位(胃食道接合部vs. 胃上部vs. 胃体部vs. 幽門部)、施設であった。
主要評価項目はOS期間であり、副次評価項目は無イベント生存期間、安全性、QOLとされた。化学療法群の5年OS割合を40%、化学放射線療法群を50%と見積もり、両側α=0.05、検出力80%で仮定した場合、405イベントが必要であり、必要症例数は780例と設定された。
2007年1月11日〜2015年4月17日の間に788例が化学療法群393例、化学放射線療法群395例に割り付けられた。術前化学療法後、化学療法群では372例(95%)、化学放射線療法群では369例(93%)が手術を施行された。そのうち潜在的根治切除を達成した症例は化学療法群で310例(79%)、化学放射線療法群で326例(83%)であった。外科医によって根治切除と判断された636例のうち66例(10%)がR1(顕微鏡的遺残)であった。また、37例(6%)がpathological CRを達成した。
手術中および術後入院期間における手術関連の感染症や合併症は全例で22〜28%認め、化学療法群と化学放射線療法群の両群間において発生頻度の差はなかった。また、外科的手術を施行された636例のうち14例(2%)が術後30日以内に死亡し、その内訳は化学療法群10例、化学放射線療法群4例であった。
術後治療は化学療法群で233例(59%)、化学放射線療法群で245例(62%)がそれぞれ術後治療を施行された。手術後からの術後治療開始期間中央値は化学療法群で7週(四分位範囲[IQR]:6〜9週)、化学放射線療法群で8週(IQR: 7〜10週)であった。術後治療の完遂割合は化学療法群で180例(46%)、化学放射線療法群で197例(50%)、観察期間中央値は61.4ヵ月であった。主要評価項目であるOS期間の中央値はintention-to-treat解析が行われ、化学療法群43ヵ月(95% CI: 31-57)、化学放射線療法群37ヵ月(95% CI: 30-48)であり、両群間において統計学的な有意差は認めなかった(HR=1.01、95% CI: 0.84-1.22、p=0.90)。また、5年OS割合は化学療法群42%、化学放射線療法群40%であった。解析時点で、788症例において474イベントが発生し、無イベント生存期間は化学療法群28ヵ月(95% CI: 20-42)、化学放射線療法群25ヵ月(95% CI: 19-39)であった(HR=0.99、95% CI: 0.82-1.19、p=0.92)。再発形式は化学療法群、化学放射線療法群においてそれぞれ、局所再発が15%、11%、腹膜播種再発が25%、22%、遠隔転移再発が21%、27%であった。
サブグループ解析では性別以外でOSに寄与する明らかな予後因子の相関関係は認めなかった。
重篤な治療関連有害事象(grade 3以上)の頻度は、術前化学療法においては781例中511例(66%)で認め、術後化学療法では233例中135例(57%)、術後化学放射線療法では245例中111例(45%)であった。術後治療における重篤な血液毒性は非発熱性好中球減少が化学療法群(34%)、化学放射線療法群(4%)であり、化学療法群で多く認めた。重篤な非血液毒性(grade 3以上)は化学療法群では嘔気13例(6%)、下痢11例(5%)、嘔吐6例(3%)であり、化学放射線療法群では疲労10例(4%)、嘔気8例(3%)であった。
治療関連死亡は術前化学療法において13例(2%)認め、その内訳は下痢2例、ジヒドロピリミジン脱水素酵素欠損症1例、突然死1例、心血管イベント8例、腸閉塞1例であった。術後治療における治療関連死亡は化学療法群、化学放射線療法群ともに認めなかった。
以上より、術前化学療法および手術を施行された胃癌患者に対する術後化学放射線療法は術後化学療法と比較して、OS期間の改善を認めなかった。試験結果より、両方の治療群にける術後治療へのコンプライアンスが不良であり、同対象における治療開発は術前治療に焦点が当てられるであろう。
日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 青木 雅彦
監訳者コメント:
術前化学療法後の術後化学放射線療法はOSを改善せず
CRITICS試験は切除可能胃癌患者に対して、周術期治療としての術前化学療法後に根治切除を施行したのち、術後化学療法と術後化学放射線療法の有効性を比較した初の多施設共同無作為化比較第III相試験である。
本試験において、周術期治療としての術前化学療法後の術後化学放射線療法はその有効性を示すことができなかった。筆者らはその原因として、術後治療導入割合が低いことをその要因の一つとして挙げている。その背景から、術前治療の強化に着目したCRITICS-II試験が現在進行中である。この試験は、術前化学療法としてDocetaxel+Oxaliplatin+Capecitabine(DOC)療法を採用し、術前化学療法群と術前化学療法および術後化学放射線療法群と術前化学放射線療法群の3群比較の無作為化比較第II相試験である。
切除可能胃癌の周術期治療に関して、欧米ではMAGIC試験の結果に基づいて、周術期に術前、術後のECF療法(Epirubicin+Cisplatin+5-FU)を行うことが長らく標準治療となっていたが、ECFと比較して良好な治療成績を示したFLOT4試験の結果を受けてECF療法のEpirubicinに変えてDocetaxel、Cisplatinに変えてOxaliplatinを併用したFLOTレジメンが新たに標準治療となった。
一方で、本邦を含む東アジアにおいて、切除可能胃癌に対してはD2郭清を伴う胃切除術ならびに術後補助化学療法(S1、XELOX、Docetaxel+S1)が標準治療であり、RFSも7割前後と良好な成績である。本邦における新たな周術期の治療開発としては術前SOX療法の上乗せ効果を検討する第III相試験(JCOG1509試験)が現在進行中であり、その結果が期待される。また、胃癌における術後補助療法は治療コンプライアンスを保つことが困難であるため、術前化学療法の強化が着目されている。より予後の不良な集団についてはさらなる治療開発が必要であり、今後も術前化学療法の強化による治療成績向上を目指すという方向性は継続するであろう。
- 1) Torre LA, et al.: CA Cancer J Clin. 65(2): 87-108, 2015 [PubMed]
- 2) Songun I, et al.: Lancet Oncol. 11(5): 439-449, 2010 [PubMed]
- 3) Sasako M, et al.: N Engl J Med. 359(5): 453-462, 2008 [PubMed]
- 4) Macdonald JS, et al.: N Engl J Med. 345(10): 725-730, 2001 [PubMed]
- 5) Smalley SR, et al.: J Clin Oncol. 30(19): 2327-2333, 2012 [PubMed]
- 6) Cunningham D, et al.: N Engl J Med. 355(1): 11-20, 2006 [PubMed]
監訳・コメント:大阪医科大学 化学療法センター 山口 敏史
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