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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

5月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

胃癌食道胃接合部癌

遠隔転移を有する胃腺癌または食道胃接合部腺癌における1次治療としてのRamucirumab、Cisplatin、フッ化ピリミジン併用療法:無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(RAINFALL試験)


Fuchs CS, et al.: Lancet Oncol. 20(3): 420-435, 2019

 遠隔転移を有する胃腺癌および食道胃接合部腺癌における1次治療においてプラチナ製剤とフッ化ピリミジン系薬剤の併用が最も頻用され、HER2陰性に限った場合、生存期間は8〜10ヵ月である1-4)

 VEGFとVEGF受容体2(VEGFR-2)によるシグナルと血管新生が胃癌の増殖において重要な役割を果たしており、腫瘍のVEGF濃度は腫瘍の悪性度と予後に相関する5-8)。RamucirumabはVEGFR-2に対するモノクローナル抗体であり、VEGFR-2を阻害することで腫瘍による血管新生を阻害する9,10)

 胃腺癌および食道胃接合部腺癌の2次治療において、Ramucirumabは単剤およびPaclitaxelとの併用において生存を延長させることが示されている11,12)

 本RAINFALL試験は、進行胃腺癌および食道胃接合部腺癌の1次治療においてフッ化ピリミジン+CisplatinにRamucirumabを併用した場合の安全性と有効性を検討した無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験であり、20ヵ国126施設で行われた。

 主な適格基準は、組織学的に遠隔転移を有する胃腺癌および食道胃接合部腺癌と診断されていること、ECOG performance status(PS)0または1、12週以上の予後が見込まれること、臓器機能正常、HER2陰性であった。3ヵ月以内にGrade 3以上の消化管出血や6ヵ月以内に動脈塞栓イベントがあった症例、コントロール不良の高血圧を有する症例は除外された。

 患者はCisplatinとフッ化ピリミジンに加えてRamucirumab投与群とプラセボ投与群に1:1で割り付けられた。層別化因子はECOG PS(0 vs. 1)、原発部位(胃vs.食道胃接合部)、測定可能性(測定可能vs.測定不能)、地域(日本vs.他国)であった。フッ化ピリミジンはCapecitabineまたは5-FUが使用された。

 治療は21日間を1サイクルとして1日目にCisplatin 80mg/m2、1-14日目にCapecitabine 2,000mg/m2(5-FUの場合1-5日目に800mg/m2)、1, 8日目にRamucirumab 8mg/kgまたはプラセボが投与された。治療は病勢増悪、継続困難な有害事象の出現、患者の同意撤回のいずれかが起こるまで継続された。2次治療としては盲検化を継続した状態でRamucirumabを含めた治療を選択することとされた。

 主要評価項目は担当医の評価した無増悪生存期間(PFS、RECIST v1.1)であり、副次評価項目は全生存期間(OS)、安全性(NCI-CTCAE v4.0)、二次治療までのPFS(PFS2)、無増悪期間(TTP)、奏効割合、病勢制御割合、奏効期間、薬物動態、QOL(EORTC QLQ-C30)であった。腫瘍画像評価は無作為化した日から6週毎に、画像における増悪が確認されるまで実施された。

 PFS中央値の5.6ヵ月から8.0ヵ月への延長(HR=0.70)を示すために、検出力90%、両側検定の有意水準0.05%の設定で、必要症例数は508例(346イベント)と算出された。またOS中央値の10ヵ月から13ヵ月への延長(HR=0.77)を示すために、検出力80%、両側検定の有意水準0.05%の設定で、必要症例数は616例(467イベント)と算出された。

 PFSはそのうち最初に登録された508例を用いて、担当医および中央判定にて評価された。

 2015年1月28日から2016年9月16日の間に817例の症例がスクリーニングされ、645例が登録された。その内326例がRamucirumab投与群に、319例がプラセボ投与群に割り付けられた。

 2017年1月17日のPFSのカットオフの時点で、508例中359例のイベントを認め、2017年11月6日のOSのカットオフの時点で645例中470例のイベントを認めた。治療期間中央値はRamucirumab群で19週、プラセボ群で18.8週であり、相対用量強度はRamucirumab群で90.3%、プラセボ群で92.4%であった。

 担当医の評価したPFS中央値はRamucirumab群で5.7ヵ月(95% CI: 5.5-6.5ヵ月)、プラセボ群で5.4ヵ月(95% CI: 4.5-5.7ヵ月)であり、Ramucirumab群で良好な結果が得られた(HR=0.753、95% CI: 0.607-0.935、p=0.011)。しかし、画像の中央判定で評価されたPFS中央値はRamucirumab群5.5ヵ月(95% CI: 4.2-5.8ヵ月)、プラセボ群5.4ヵ月(95% CI: 4.4-5.7ヵ月)で、両群間で有意差を認めなかった(HR=0.961、95% CI: 0.768-1.203、p=0.74)。OSはRamucirumab群で11.2ヵ月(95% CI: 9.9-11.9ヵ月)、プラセボ群で10.7ヵ月(95% CI: 9.5-11.9ヵ月)であり、両群間で有意差を認めなかった(HR=0.962、95% CI: 0.801-1.156、p=0.6757)。OSにおけるサブグループ解析においても、いずれのグループにおいてもRamucirumab群とプラセボ群で差は認めなかった。

 TTP、奏効期間はRamucirumab群で長かったものの、PFS2、奏効割合、病勢制御割合では有意差を認めなかった。

 重篤な有害事象はRamucirumab群で160例(50%)、プラセボ群で149例(47%)に認められた。

 Grade 3-4の有害事象で最もよくみられたものは好中球減少(Ramucirumab群26%、プラセボ群27%)、貧血(Ramucirumab群12%、プラセボ群14%)、高血圧(Ramucirumab群10%、プラセボ群2%)であった。高血圧手足症候群、血小板減少症、出血はRamucirumab群でプラセボ群より10%以上発生頻度が高く、消化管出血もRamucirumab群で多かった(Ramucirumab群4%、プラセボ群1%)。Ramucirumab群、プラセボ群のいずれも7例ずつ、治療関連死を認めた。

 後治療は治療内容、割合ともにRamucirumab群、プラセボ群の間に差は認めなかった。

 バイオマーカー研究として、治療前のVEGF-A、VEGF-C、VEGF-D、VEGFR-1、VEGER-3が測定された。VEGF-A濃度が中央値よりも低い群はRamucirumab投与でPFSの延長を示した。しかし、より詳細に検討が行われたところ、VEGF-A濃度とPFSとOSの間に一貫性がないことが示された。

 以上、胃癌の1次治療におけるCisplatin+フッ化ピリミジンに対するRamucirumabの上乗せは、主要評価項目である研究者評価のPFS中央値において有意差は認めたものの0.3ヵ月の延長に留まり、中央判定によるPFS中央値では差を示すことができず、OSの延長も示すことができなかったことから、推奨できないとされた。


日本語要約原稿作成:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 伏木 邦博



監訳者コメント:
Bevacizumabと同様に胃癌1次治療においてRamucirumabの有用性は示されなかった

 胃癌1次化学療法におけるBevacizumabの上乗せ効果を検証したAVAGAST試験はnegativeな結果だったが、アジア以外の地域ではBevacizumab治療群に良好な結果が示されていた13)。予後因子の偏りや後治療導入割合が異なることが、その要因と考えられ、試験デザイン次第でpositiveな結果も得られた可能性が示唆されていた。

 一方、血管新生阻害薬として後発のRamucirumabはVEGFR-2を標的としており9,10)、2次化学療法においてPaclitaxelへの上乗せ効果12)のみならず、単剤でもプラセボと比較しOSで優越性を示した11)ことから、1次治療においてBevacizumabとは異なる効果が期待された。さらに本試験では2次化学療法の試験で得られた暴露-反応関係解析結果14)から、Ramucirumabの投与法を変更し、より高い効果を期待した。また上乗せ効果が少ない可能性のある日本からの登録数を制限し、欧州からの登録割合を増やした。

 結果は残念ながらAVAGAST試験同様にOSで有効性に差を認めなかったのに加え、研究者評価PFS中央値で0.3ヵ月の延長しか認めず、中央判定では治療群で差が認められなかったことから、単純にRamucirumabの追加効果がなかったと結論づけられる。

 AVAGAST試験のサブ解析から血清VEGF-A高値群での高い効果も期待されたが本試験では再現されず、地域毎でも効果に有意差がなかった。また2次治療での解析結果と異なり、暴露-反応関係解析でも有効性の違いは認められなかった。本試験を含む5試験で再現性をもって血管新生阻害薬の上乗せ効果を証明できず、有効性のバイオマーカーを同定できていない状況では、今後1次化学療法に対し血管新生阻害薬による単純な上乗せ効果を期待する試験は実施されないだろう。

 Ramucirumabについては筆者らが述べているとおり、免疫チェックポイント阻害薬のimmunomodulatorとしての位置づけが今後のトピックになると思われる。また本試験において1次治療でRamucirumabが投与された患者のうち、2次治療以降でPaclitaxel+Ramucirumab治療を受けた群とPaclitaxel単剤治療を受けた群ではOS中央値がそれぞれ9.6ヵ月と6.4ヵ月(HR=0.735[範囲0.428-1.263]、p=0.26)と、前者でOSが長い傾向にあった。このことから、後方治療におけるRamucirumab再投与の意義を検証するRINDBeRG試験の結果に期待したい。

  •  1) Wagner AD, et al.: Cochrane Database Syst Rev. 8: CD004064, 2017 [PubMed]
  •  2) Ajani JA, et al.: J Natl Compr Canc Netw. 14(10): 1286-1312, 2016 [PubMed]
  •  3) Smyth EC, et al.: Ann Oncol. 27(suppl 5): v38-v49, 2016 [PubMed]
  •  4) Shen L, et al.: Lancet Oncol. 14(12): e535-e547, 2013 [PubMed]
  •  5) Kim SE, et al.: Gut Liver. 3(2): 88-94, 2009 [PubMed]
  •  6) Lieto E, et al.: Ann Surg Oncol. 15(1): 69-79, 2008 [PubMed]
  •  7) Maeda K, et al.: Cancer. 77(5): 858-863, 1996 [PubMed]
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  •  10) Spratlin JL, et al.: J Clin Oncol. 28(5): 780-787, 2010 [PubMed]
  •  11) Fuchs CS, et al.: Lancet. 383(9911): 31-39, 2014 [PubMed]
  •  12) Wilke H, et al.: Lancet Oncol. 15(11): 1224-1235, 2014 [PubMed]
  •  13) Ohtsu A, et al.: J Clin Oncol. 29(30): 3968-3976, 2011 [PubMed]
  •  14) Tabernero J, et al.: Mol Cancer Ther. 16(10): 2215-2222, 2017 [PubMed]

監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 町田 望

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