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4月
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也

胃癌

胃癌の家族歴とピロリ除菌療法


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Choi IJ, et al.: N Engl J Med. 382(5): 427-436, 2020

 ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)感染は、全世界で半数以上のヒトの胃に感染するよく知られた細菌感染症である1)。過去のコホート研究では、ピロリ菌感染と胃癌の関係性について報告されており2,3)、胃の萎縮が進行した症例においては、除菌することで異時性の胃癌発生リスクを半減させることも知られている4)。一方、一般人に対する胃癌予防のためのピロリ除菌療法については、個々の状況に合わせて検討すべきで、有効性や有害事象についてはさらなる検討が必要である5)

 胃癌患者とその親族は、ピロリ菌に暴露しやすい環境下にあること、ピロリ菌に対する免疫応答に関する遺伝的特徴があるなど危険因子を有しており、胃癌発生リスクは2~3倍に上昇する6)。胃癌患者の家族はピロリ菌感染率が高く、胃粘膜の前癌病変への変化はより強いことが知られているが7-11)、一次予防効果についてのエビデンスがないため、除菌することで胃癌発症リスクを減少させられるかどうかはわかっていない。

 本試験は、ピロリ除菌療法を行うことで、胃癌患者の第一親等の胃癌発症リスクを減少させられるか否かを検証する単施設二重盲検無作為化試験である。参加の適合基準は、40~65歳のピロリ菌陽性者で、第一親等に胃癌の既往がある者とした。すでに胃癌の既往がある者、消化性潰瘍がある者、他臓器癌の既往がある者は除外した。また、重篤な基礎疾患のある者、妊娠中の者も除外とした。参加者は、除菌治療群とプラセボ群に無作為に割り付けされた(この試験が計画された段階では、無症状者に対するピロリ除菌は標準治療ではなかった)。除菌治療群は、Amoxicillin 1,000mg、Clarithromycin 500mg、Lansoprazole 30mgを1日2回、7日間内服した。プラセボ群は、見た目も味も全く同じ錠剤を同日数内服した。サーベイランスの内視鏡検査は2年ごとに施行した。本試験の主要評価項目は『胃癌の発生』とし、ITT解析を行った。副次評価項目は、観察期間中のピロリ除菌後の胃癌の発生、全生存期間、胃腺腫の発生とした。全生存期間は、死因を問わず、登録日から死亡までの日数と定義した。

 2004年11月から2011年12月までに3,100例が登録され、1,239例が組み入れ基準を満たさず(ピロリ非感染963例を含む)、23例で同意が得られなかったため、残る1,838例が無作為化され、917例が除菌治療群、921例がプラセボ群に割り付けされた。両群間で患者背景に有意差はなかった。このうち、162例を除外(初回内視鏡で胃癌が発見された3例、ピロリ感染を認めなかった1例、内服しなかった8例、試験に登録したが来院しなかった150例)し、1,676例を主要評価項目のITT解析の対象とした。主要評価項目の観察期間中央値は9.2年(四分位範囲:6.2-10.6年、最大14.1年)、全生存期間の中央値は10.2年(四分位範囲:8.9-11.6年)であった。

 胃癌は除菌治療群では10例(1.2%)で発見され、プラセボ群では23例(2.7%)で発見された(p=0.03、log-rank検定)。これらの胃癌はすべて本試験のサーベイランス内視鏡で指摘された。プラセボ群と比較し、除菌群のハザード比は0.45(95%信頼区間[CI]:0.21-0.94)で治療必要数は65.7(95% CI:35.1-503.8)であった。発見された胃癌は、stage Iが30例、stage IIが3例であった。

 ピロリ菌は、除菌治療群では70.1%(551/786例)、プラセボ群では7.1%(57/801例)で除菌されており、残る979例で持続感染が確認された。33例の胃癌のうち、28例が持続感染者から発生(2.9%)、5例が除菌後の症例であった(0.8%)(ハザード比0.27[95% CI:0.1-0.7])。除菌成功後のほうが、持続感染者より胃癌発生率が低かった(0.94 vs. 3.41/1,000人)。除菌治療群に発生した胃癌10例のうち、5例は持続感染者、残る5例が除菌後症例であった。除菌治療後の持続感染者と、プラセボ群の持続感染者での胃癌発生率は同等であった。

 全死亡率は除菌治療群で1.7%(16例)、プラセボ群で2.0%(18例)であり、2群に有意差は認めなかった。死因はいずれの群においても他臓器癌や心疾患などで、胃癌関連死は認めなかった。胃腺腫の発生については、治療群では14例(1.7%)、プラセボ群では13例(1.5%)で同等であった。除菌薬による有害事象は有意に治療群で多かったが、味覚の変化、嘔気下痢、腹痛といった軽微なものであった。

 本試験の結果より、第一親等に胃癌患者がいる場合、除菌療法を受けることで胃癌の発生リスクはプラセボ群と比較し9.2年間で55%低下した。さらに、除菌失敗者と比較すると、除菌成功者は胃癌発生リスクが73%低下していた。この結果は、過去の報告でも推奨されているように12)、除菌後は除菌に成功したか確認すべきであることをも示している。また、過去の研究では除菌後にも胃癌関連死の報告があるが13,14)、本研究ではサーベイランスの間隔を2年とする15)ことで、全例stage II以内の早期で胃癌発見が可能であった。胃腺腫の発生については除菌療法による差は認めず、胃癌発生においてadenoma-carcinoma sequenceはピロリ菌によって活性化される経路ではない可能性が示唆された。

 結論:第一親等に胃癌患者がいる場合、ピロリ除菌治療は胃癌発生リスクを減少させる。


日本語要約原稿作成:京都府立医科大学大学院医学研究科 消化器内科学 安田 剛士



監訳者コメント:
胃癌の家族歴がある高リスク集団にはピロリ除菌が胃癌の1次予防効果をもつ

 本試験は、胃癌の家族歴がある非高齢者にピロリ除菌療法を行うことで、胃癌の1次予防になるかどうかを検証する単施設二重盲検無作為化試験である。韓国の単施設の研究であるが、1,600例以上、脱落者が10%未満、平均観察期間9年で解析されており、質の高い研究と言える。また、韓国の臨床試験であるため、日本とは除菌治療のレジメンが異なること、2004年から2011年という試験期間のため、除菌成功率が70%と良くないが、除菌不成功者とプラセボ群で差はないことからもデータとして信憑性がある。さらに、2年毎のサーベイランスの内視鏡検査で発見された胃癌は、全例stage I、stage IIのみで胃癌死がないことも内視鏡検査の質が担保されている。

 この試験の結果では、ピロリ除菌成功により胃癌のリスクが73%減少していることから、胃癌家族歴を有する高リスクな集団はピロリ除菌により胃癌のリスクを確実に減少させる、つまりピロリ除菌が確実な胃癌の1次予防効果をもつことが明らかになった。今後も一般集団同様に、積極的なピロリ菌感染のスクリーニング・除菌が勧められる。

 日本では地域によって、中高生からピロリ菌スクリーニングを行い、除菌療法を開始する試みがなされている。この試験の結果から、将来の胃癌撲滅に向けて、さらに若年者除菌が推進されることを期待する。

監訳・コメント:京都府立医科大学大学院医学研究科 消化器内科学 土肥 統

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