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9月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

胃癌

進行胃癌を対象とした一次治療としてのS-1+Leucovorin+Oxaliplatin vs. S-1+Cisplatin(SOLAR):非盲検無作為化比較第III相試験


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Kang YK, et al.: Lancet Oncol. 21(8): 1045-1056, 2020

 切除不能進行再発胃癌・食道胃接合部癌に対する初回化学療法はフッ化ピリミジン系薬剤と白金製剤の2剤併用療法(HER2陽性例ではTrastuzumabを追加)が多くの治療ガイドラインにおいて推奨されている。2剤併用療法には、いくつかのオプションがあるが、効果はいずれもほぼ同等である。DocetaxelとCisplatin、Fluorouracilによる3剤併用療法が生存の延長を示したが1)、その毒性から広くは使用されていない。HER2陽性例に対するTrastuzumabの上乗せ効果が示された以外は、この10年間において、進行胃癌に対する初回化学療法の治療成績はあまり進歩していない。

 大腸癌ではFluorouracilにホリナートカルシウムであるLeucovorinをしばしば上乗せしているが、3,000例以上を対象としたメタアナリシスでもFluorouracilとLeucovorinの併用は、Fluorouracil単剤よりも奏効割合(ORR)と生存を改善させることが報告されている2)。同様に、S-1へのLeucovorinの上乗せも大腸癌や膵癌で抗腫瘍効果の増強が認められた3,4)。進行胃癌を対象とした、S-1+Leucovorin+OxaliplatinとS-1+Cisplatinの無作為化比較第II相試験では、ORR(66% vs. 46%)、無増悪生存期間(PFS)(HR=0.60[95% CI: 0.35-1.02])、全生存期間(OS)(HR=0.59[95% CI: 0.37-0.93])のいずれもS-1+Leucovorin+Oxaliplatin群で良好な成績を示した5)

 TAS-118はS-1とLeucovorinを含有する新規経口薬である。今回、進行胃癌を対象としてTAS-118+OxaliplatinとS-1+Cisplatinの有効性と安全性を比較する第III相試験を行った。

 今回の非盲検無作為化比較第III相試験には、日本から52施設、韓国から10施設が参加した。主な適格基準は、組織学的に腺癌と診断された転移性または再発胃癌・食道胃接合部癌、RECIST version 1.1において測定可能または評価可能病変を有する、HER2は陰性または不明、胃癌に対する治療歴がない(再発から180日以前に終了しているプラチナ製剤を含まない術後補助化学療法は許容)、ECOG PS 0または1、年齢20歳以上、臓器機能が保たれている、90日以上の予後が見込める、経口摂取が可能、であった。主な除外基準は、S-1やLeucovorinに対して重篤な過敏反応がある、無作為化4週以内に他の治験薬の投与を受けている、無作為化2週以内に血液製剤の投与を受けている、無作為化前の外科的処置の合併症がある、Flucytosineの投与を受けている、そのほかの併存症がある等であった。

 登録症例はTAS-118+Oxaliplatin群とS-1+Cisplatin群に、PS(0/1)、測定可能病変の有無、国(日本/韓国)を層別化因子として1:1で割り付けられた。治療スケジュールが異なることから、盲検化はされなかったが、独立中央判定委員会による画像の中央判定は盲検化の上施行された。

 S-1とTAS-118(S-1に換算)の投与量はそれぞれ体表面積あたり1.25m2未満で40mg、1.25m2以上1.5m2未満で50mg、1.5m2以上で60mgを1日2回であった。TAS-118+Oxaliplatin群は、2週を1コースとしてTAS-118を1日2回、7日間内服、day 1にOxaliplatin 85mg/m2を点滴静注した。S-1+Cisplatin群は、5週を1コースとしてS-1を1日2回、21日間内服し、日本はday 8に、韓国ではday 1にCisplatin 60mg/m2を点滴静注した。

 主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、治療成功期間(TTF)、ORR、病勢制御割合(DCR)、安全性とした。安全性と抗腫瘍効果以外の評価項目は無作為化時点で胃癌と診断され、少なくとも1回薬剤投与を受けた集団をFull Analysis Set(FAS)として解析を行った。2018年3月に効果安全性評価委員会よりFASから不適格症例を除外することが勧告された。

 主解析は不適格症例を除外したFASで行い、奏効はFASのうち、測定可能病変をもち、試験治療中に少なくとも1回病勢評価を行った症例で評価した。安全性の評価は不適格症例も含めて、試験治療を1回でも受けた症例を対象とした。

 検出力0.85、有意水準両側0.05として437の死亡イベント数を要すると算出した。S-1+Cisplatin群のOS中央値を14.5ヵ月、TAS-118+Oxaliplatin群のOS中央値を19.3ヵ月、HR=0.75と仮定して、686例の登録を予定した。後治療のRamucirumabやNivolumabの影響を考慮して、中間解析前にプロトコール改訂を行い、予定登録数は変更せずに、OS中央値期待値をそれぞれS-1+Cisplatin群15.5ヵ月、TAS-118+Oxaliplatin群20.3ヵ月と変更し、491の死亡イベントが発生した時点で主解析を行うこととなった。

 2015年1月から2016年12月までに、794例のスクリーニングを行い、711例が登録され、TAS-118+Oxaliplatin群に356例、S-1+Cisplatin群に355例が割り付けられた。TAS-118+Oxaliplatin群で4例、S-1+Cisplatin群で7例の計11例が試験治療を行わず、as-treated集団はそれぞれ352例と348例であった。

 2018年3月に独立中央判定委員会でベースラインの画像評価を行ったところ、TAS-118+Oxaliplatin群で5例、S-1+Cisplatin群で14例の計19例が不適格と判定され、この19例を主解析へ含めないことを勧告された。As-treated集団から、この19例が除外され、681例(TAS-118+Oxaliplatin群347例、S-1+Cisplatin群334例)が主解析の対象となった。

 2018年8月29日をデータカットオフ日として主解析を行った。追跡期間中央値は26.0ヵ月であった。TAS-118+OxaliplatinはS-1+Cisplatinに対してOSを有意に延長させた(OS中央値16.0ヵ月[95% CI: 13.8-18.3]vs. 15.1ヵ月[95% CI: 13.6-16.4]、HR=0.83[95% CI: 0.69-0.99]、p=0.039)。サブグループ解析においても、ほとんどのサブグループで同様の傾向であった。

 PFSもTAS-118+Oxaliplatin群がS-1+Cisplatin群よりも長かった(中央値7.1ヵ月[95% CI: 6.8-8.3]vs. 6.4ヵ月[95% CI: 5.6-6.9]、HR=0.79[95% CI: 0.66-0.93]、p=0.0045)。

 測定可能病変を有する423例において、ORRはTAS-118+Oxaliplatin群(73%、95% CI: 67.0-79.3)がS-1+Cisplatin群(50%、95% CI: 43.1-56.9)よりも高かった。TTF中央値はTAS-118+Oxaliplatin群6.1ヵ月(95% CI: 5.6-6.7)、S-1+Cisplatin群5.3ヵ月(95% CI: 4.7-6.2)とTAS-118+Oxaliplatin群で長かった(HR=0.82[95% CI: 0.70-0.96]、p=0.011)。

 カットオフ時点で、TAS-118+Oxaliplatin群95%、S-1+Cisplatin群97%が試験治療を終了していた。治療中止理由は病勢進行(TAS-118+Oxaliplatin群77% vs. S-1+Cisplatin群79%)、有害事象(7% vs. 10%)、患者希望または担当医判断(11% vs. 8%)、外科的切除(5% vs. 3%)、その他(1% vs. 0%)であった。

 後治療はそれぞれTAS-118+Oxaliplatin群82%、S-1+Cisplatin群86%で行われた。

 相対用量強度中央値はTAS-118+Oxaliplatin群で、TAS-118 79.6%、Oxaliplatin 68.3%、S-1+Cisplatin群で、S-1 86.7%、Cisplatin 91.6%であった。薬剤の減量を要した症例はTAS-118が50%、Oxaliplatin 48%、S-1 34%、Cisplatin 28%であった。

 頻度の高いgrade 3以上の有害事象(TAS-118+Oxaliplatin群vs. S-1+Cisplatin群)は貧血(16% vs. 18%)、好中球減少(15% vs. 25%)、食思不振(15% vs. 13%)、下痢(9% vs. 4%)、末梢性感覚神経障害(9% vs. <1%)であった。発熱性好中球減少症は両群とも2%であった。TAS-118+Oxaliplatin群で2例(肺結核と単純ヘルペス肺炎)の治療関連死を認めた。

 TAS-118+OxaliplatinはS-1+Cisplatinと比較して切除不能進行再発胃癌症例のOS、PFS、ORRを改善させた。また、ほとんどの症例で毒性のマネジメントも良好であった。アジア人集団において、TAS-118+Oxaliplatinは進行胃癌に対する初回化学療法のオプションの一つと考えられる。


日本語要約原稿作成:大分大学医学部腫瘍・血液内科学講座 小森 梓



監訳者コメント:
TAS-118+Oxaliplatin併用療法は、S-1+Cisplatin療法に勝った幻の治療法か?

 2008年以降、切除不能再発胃癌に対する一次治療の第III相試験においてOSの延長を示した試験は、SPIRITS試験とHER2陽性胃癌に対するToGA試験のみである。

 そのような中、S-1+Leucovorin療法の開発が進み、第II相試験5)ではS-1+CDDP療法に対して、S-1+Leucovorin+Oxaliplatin療法のOS、PFS、ORRにおいて良好な成績が示され、大きな期待とともに進んだ第III相試験がSOLAR試験であった。

 本試験は19例の不適格例を除くなど、解析対象に関する議論があるかもしれないが、主要評価項目のOSを10年ぶりに延長したポジティブ試験である。

 この結果を受けて、TAS-118は承認申請に進むはずであったが、残念ながら開発中止となった。大鵬薬品工業株式会社の親会社である大塚ホールディングスのホームページ上の決算関連資料(https://www.otsuka.com/jp/ir/library/earnings.php)の2020年12月期(第13期)には、試験中止・開発中止プロジェクトとしてTAS-118が挙げられている。開発中止の理由として、質疑応答要旨に「申請には、追加試験の必要性がでてきた」ためと短く記載されていた。

 切除不能・再発胃癌に対する化学療法は今や多くの薬剤が使用可能となり、一次治療の第III相試験のOSはついに15ヵ月を超えた。長期にわたる王者であるS-1+CDDP療法に対して、唯一OS延長を示した TAS-118+Oxaliplatin療法が幻の治療法になることは非常に残念である。今後、本邦やアジアでは一次治療におけるOSの延長を示すことは非常に困難と考えられるが、そのような薬剤の登場を切に願う。

監訳・コメント:大分大学医学部腫瘍・血液内科学講座 廣中 秀一

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