10月
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也
大腸癌
RAS変異陽性の切除不能大腸癌肝限局転移を対象とした1次治療におけるmFOLFOX6+Bevacizumab療法とmFOLFOX6の無作為化比較試験(BECOME試験)
Tang W, et al.: J Clin Oncol. 38(27): 3175-3184, 2020
近年、切除不能の大腸癌肝限局転移例に対してOxaliplatinまたはIrinotecanベースの化学療法に分子標的薬を併用することで、肝転移の縮小を得られ切除可能となり、根治切除が行われるようになっている1)。Bevacizumabは血管内皮増殖因子に対するヒト化モノクローナル抗体であり、切除不能進行・再発大腸癌の1次治療におけるFluorouracilとIrinotecanとの併用において生存延長を示している2)。しかしながら無作為化比較試験において、2剤併用療法へのBevacizumabの上乗せによる奏効割合の上昇は示されていない3,4)。加えて、RAS変異陽性の大腸癌肝限局転移に対する術前治療として計画された無作為化比較試験の報告はない。
いくつかの非無作為化第II相試験において、切除不能の大腸癌肝限局転移例に対してBevacizumabと2剤または3剤併用療法により高い奏効および高い肝転移切除割合を認めたことが報告されている5,6)。本試験は、RAS変異陽性の切除不能大腸癌肝限局転移例に対して、mFOLFOX6にBevacizumabを上乗せすることで肝切除割合が上昇するかを検証する単施設無作為化比較試験である。
主な適格基準は、少なくとも3名の肝臓外科医、1名の放射線診断医を含む集学的医療チームにより切除不能と判断された肝限局転移を有するRAS変異型、BRAF野生型の大腸癌で組織学的に腺癌と診断されていること、年齢が18歳以上75歳以下であること、測定可能病変を有すること、ECOG performance status(PS)0または1であること、3ヵ月以上の予後が見込まれること、臓器機能正常であることであった。大腸癌に対する化学療法や放射線治療の既往がある症例、肝臓以外の遠隔転移を有する症例、および、5年以内の重複癌の既往がある症例は除外された。患者はmFOLFOX6+Bevacizumab併用群とmFOLFOX6単独群に1:1で割り付けられた。
治療は14日間を1サイクルとしてmFOLFOX6(Oxaliplatin 85mg/m2、Leucovorin 400mg/m2、5-FU急速静注400mg/m2、5-FU 46時間持続静注2,400mg/m2)に加えてBevacizumab併用群ではBevacizumab 5mg/kgが投与された。治療は肝転移に対する手術が可能となるまで腫瘍縮小を得られるか、病勢増悪、治療困難な有害事象が出現するまで継続された。
主要評価項目は肝転移切除割合で、集学的医療チームにより12サイクルまで4サイクル毎に評価された。肝転移の切除可能性は切除断端陰性を得られること、隣接した2区域が残ること、血流および胆汁排泄が維持されること、術後に30%以上の正常残肝が残ることの4つの基準をもとに判断された。客観性を得るため、放射線画像は試験治療を知らされていない1名の放射線科医および3名の肝臓外科医に提示され、2名以上の肝臓外科医が切除可能と判断した場合に切除可能の判断となった。切除可能の判断に至った場合、Bevacizumab併用群は6週間後(Bevacizumabを除いた化学療法を2サイクル施行後)、mFOLFOX6単独群は2週間後に手術が予定された。病勢増悪を認めた場合は2次治療が行われ、切除可能に至らず、12サイクル投与後病勢が安定している場合は、Oxaliplatinを除いた維持療法が行われた。肝転移切除後、術前治療と合わせて計12サイクルになるまで術前治療と同様の治療レジメンが実施された。副次評価項目はRECIST v1.1に基づく奏効割合、全生存期間(Overall Survival: OS)、無増悪生存期間(Progression Free Survival: PFS)、有害事象(NCI-CTCAE v3.0)、術後合併症(Clavien-Dindo分類)であった。
統計学的設定として、肝転移切除割合がBevacizumab併用群で15%、mFOLFOX6単独群で5%と仮定し、両群1:1割り付けで、検出力80%、片側検定の有意水準0.05%の設定で10%の脱落を想定し、必要症例数は各群120例と算出された。
2013年10月から2017年12月の間に445例がスクリーニングされ、241例が無作為化された。そのうちBevacizumab併用群に121例、mFOLFOX6単独群に120例が登録された。11例が治療4サイクルに至る前に早期脱落した(Bevacizumab併用群6例、mFOLFOX6単独群5例)。両群の患者背景には大きな偏りを認めなかった。2019年6月のカットオフの時点で、観察期間の中央値は37.0ヵ月であった。
Intention to treat(ITT)集団全体のPFS中央値は7.2ヵ月、OS中央値は22.5ヵ月、3年OS割合は23.5%であった。Bevacizumab併用群の28例、mFOLFOX6単独群の8例が肝転移切除の適応と評価された。しかしながら両群ともに1例ずつ手術拒否があり、Bevacizumab併用群で27例、mFOLFOX6単独群で7例がR0切除を受けた。肝転移R0切除割合はBevacizumab併用群で22.3%、mFOLFOX6単独群で5.8%となり、Bevacizumab併用群で有意に良好な結果であった(p<0.001)。
肝切除前のBevacizumab投与サイクルの中央値は4サイクル(範囲3~10)であった。
Bevacizumab併用群の切除27例のうち、12例(44.4%)は肝部分切除、10例(37.0%)は肝区域切除、5例(18.5%)は肝右葉切除が行われ、17例の原発未切除例では10例が同時切除、7例が二期的切除を行われた。mFOLFOX6単独群の切除7例全例で肝区域切除が行われ、3例の原発未切除では2例が同時切除、1例で二期的切除が行われた。肝切除に伴う重大な術後合併症は認めなかったが、Bevacizumab併用群の3例でGrade 3の有害事象(胸水貯留2例、横隔膜滲出液貯留1例)、mFOLFOX6単独群の2例でGrade 3の有害事象(横隔膜滲出液貯留1例、横隔膜滲出液貯留および発熱1例)を認めた。
奏効割合はBevacizumab併用群で54.5%、mFOLFOX6単独群で36.7%であり、Bevacizumab併用群で有意に良好な結果であった(p<0.001)。OS中央値はBevacizumab併用群で25.7ヵ月、mFOLFOX6単独群で20.5ヵ月、3年OS割合はBevacizumab併用群で25.5%、mFOLFOX6単独群で20.5%とBevacizumab併用群で有意に良好な結果であった(HR=0.71、p=0.031)。PFS中央値はBevacizumab併用群で9.5ヵ月、mFOLFOX6単独群で5.6ヵ月であり、Bevacizumab併用群で有意に良好な結果であった(HR=0.49、p<0.001)。また、サブグループ解析において、肝転移切除割合は原発巣の部位および原発巣の有無にかかわらず、Bevacizumab併用群で良好な結果であった。
Bevacizumab併用群の肝転移のR0切除を受けた27例は、観察期間中央値が26.0ヵ月の段階で、無病生存期間(Disease Free Survival: DFS)中央値は7.8ヵ月(95% CI: 5.4-10.2)、OS中央値は37.8ヵ月(95% CI: 28.9-46.7)であった。21例(77.8%)が再発を認め、内訳は15例(55.6%)が残肝再発、4例(14.8%)が肺再発、1例(3.7%)が残肝と肺同時再発、1例(3.7%)が後腹膜リンパ節再発であった。21例の再発例のうち5例は再切除が行われ、4例にはラジオ波焼灼術が行われた。
Grade 3/4の有害事象はBevacizumab併用群で39.7%、mFOLFOX6単独群で26.7%とBevacizumab併用群で有意に多かった(p=0.032)。最も頻度の高い有害事象は白血球数減少・好中球数減少であり(Bevacizumab併用群vs. mFOLFOX6単独群=14.1% vs. 12.5%、p=0.723)、蛋白尿(各々9.9% vs. 3.3%、p=0.040)および高血圧(各々8.3% vs. 2.5%、p=0.048)に関してはBevacizumab併用群で有意に多かった。Bevacizumab併用群の出血および血栓症はともに3.3%の頻度であった。有害事象によりBevacizumab併用群の12.4%、mFOLFOX6単独群の10.8%で治療中止となった。治療関連死は両群ともに認めなかった。
以上、RAS変異陽性の切除不能大腸癌肝限局転移に対するmFOLFOX6+Bevacizumab併用療法は、mFOLFOX6単独療法と比較して肝転移切除割合および奏効割合、PFS、OSを改善することが示された。
日本語要約原稿作成:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 伏木 邦博
監訳者コメント:
RAS変異陽性の切除不能大腸癌肝限局転移例に対するBevacizumabの上乗せによる有効性が示された
切除不能大腸癌肝限局転移例を対象にした前向き試験としては、BaroneらがFOLFIRI療法(奏効割合47.5%、R0切除割合33%)7)、AlbertsらがFOLFOX4療法(奏効割合60%、肝転移切除割合40%)8)の結果を報告している。また同対象へのFOLFOX6+Cetuximab療法(奏効割合68%、R0切除割合38%)、FOLFIRI+Cetuximab療法(奏効割合57%、R0切除割合30%)の第II相試験であるCELIM試験9)、CAPOX+Bevacizumab療法の第II相試験であるBOXER試験(奏効割合78%、40%の対象で切除可能と判断)10)、FOLFOXIRI+Bevacizumab療法(奏効割合81%、R0切除割合49%)、FOLFOX+Bevacizumab療法(奏効割合62%、R0切除割合23%)の第II相試験であるOLIVIA試験5)が実施され、本邦においてもup-front surgeryが不適と考えられる大腸癌肝限局転移例へのmFOLFOX6+Bevacizumab療法の有効性を探索する第II相試験であるTRIC0808試験(R0切除割合44.4%、切除不能肝転移例における肝転移切除割合32.5%)6)や、RAS変異野生型の切除不能大腸癌肝限局転移例に対するmFOLFOX6+Bevacizumab療法(奏効割合68.4%、R0切除割合43.9%)、mFOLFOX6+Cetuximab療法(奏効割合84.7%、R0切除割合37.3%)の第II相試験であるATOM試験11)が実施されている。
しかしながらいずれも第II相試験であり、本試験は切除不能大腸癌肝限局転移例を対象とした初めての第III相試験として意義のある試験となった。本試験の結果をもってRAS変異陽性の切除不能大腸癌肝限局転移例における、殺細胞性抗癌薬へのBevacizumabの上乗せによる、R0切除割合および生存延長の効果が明確に示された。また、厳密には対象が異なるもののNO16966試験3)で証明されなかった、フッ化ピリミジン+Oxaliplatin併用化学療法へのBevacizumab上乗せによるOS、奏効割合の有意な改善が認められたという点でも意義のある試験と考えられる。
切除不能大腸癌肝限局転移例に関して今後は、OLIVIA試験で報告されたTripletレジメンの使いどころや、RAS変異野生型の切除不能大腸癌肝限局転移例に対する血管新生阻害薬と抗EGFR抗体薬の治療選択など検証すべき課題も残されており、さらなる治療開発に期待したい。
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監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 白数 洋充
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