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11月
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也

大腸癌

切除不能大腸癌に対して、一次治療としてのFOLFOXIRI+BevacizumabとDoublet+Bevacizumabを比較する個別患者データを用いたメタアナリシス


Chiara Cremolini, et al.: J Clin Oncol. 38(28): 3314-3324, 2020

 この10年間で、転移性大腸癌(mCRC)の患者に対する一次治療は、血管新生阻害剤であるBevacizumabや、抗上皮成長因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体であるCetuximabならびに Panitumumab(RAS野生型のみ)が出現したことで、より複雑なものとなった。またDoubletレジメン(主にFOLFOXもしくはFOLFIRI)と比較して、強化レジメンであるFOLFOXIRIの優越性がGruppo Oncologico del Nord Ovestによる第III相試験で実証された1)

 その後行われたいくつかの第II相および第III相試験では、FOLFOXIRI+BevacizumabはDoublet+Bevacizumabと比較して、消化管毒性や血液毒性は多く出現するものの、効果においては優越性を示している。そのため、FOLFOXIRI+Bevacizumabは、多くのガイドラインにおいて一次治療の選択肢として挙げられている。一方で、優越性が示された臨床試験では、主要評価項目が全生存期間(OS)以外の無増悪生存期間(PFS)などで評価されていることが多いこと、臨床的あるいは分子生物学的なサブグループ解析が不十分であることなど、懸念するべき点もある。例えば、TRIBE試験のサブグループ解析の結果を基に、FOLFOXIRI+Bevacizumabは、BRAF V600E変異陽性患者にしばしば使われているが、その他の試験でのサブグループ解析ではその再現性は得られてない。これらの疑問点を解消するために、個別患者データを用いた本メタアナリシスが立案された。

 対象として、2019年1月時点においてDoublet(FOLFIRI、XELIRI、FOLFOX、XELOX)+BevacizumabとFOLFOXIRI+Bevacizumabを比較した無作為化臨床試験がPubMed、Embase、Medline、Cochrane Library、ASCO学会抄録、およびESMO学会抄録から検索された。患者データとして年齢、性別、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)performance status(PS)、原発巣占拠部位、転移巣を有した時期(同時性vs. 異時性)、補助化学療法の有無と種類(Oxaliplatinベースvs. 非Oxaliplatinベース)、原発巣切除の有無、転移臓器の浸潤範囲、RASおよびBRAF変異の有無、RECIST評価、転移巣切除の有無および転帰(R0 vs. R1 vs. R2 vs.姑息的切除)、および治療群(Doublet+Bevacizumab群vs. FOLFOXIRI+Bevacizumab群)が収集された。

 各臨床試験の質はMethod for Evaluating Research and Guideline Evidence(MERGE)基準で評価された。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、奏効割合(ORR)、転移巣へのR0切除率、grade 3以上の有害事象発生率とされた。

 解析手法としては、観察期間中央値とそのinterquartile range(IQR)はreverse Kaplan-Meier法、OSおよびPFSはKaplan-Meier法により解析された。各試験によって層別化されたlog-rank検定は、治療群間の一次比較として使用された。各試験間の不均一性は、Higgins I2 indexを通じて均一化された。サブグループ解析は交互作用解析が用いられ、ORR、R0切除率、および毒性評価はMantel-Haenszel χ2検定で解析された。

 収集された101試験のうち、MERGE基準としてB1を満たした以下の5つの臨床試験が集積された:TRIBE試験2)、OLIVIA試験3)、CHARTA試験4)、STEAM試験5)、およびTRIBE2試験6)。無作為に割り当てられた1,797例の患者のうち1,705例(95%)がメタアナリシスの対象となり、個別患者データは1,697例の患者(99.5%)で利用可能であった。1,697例のうち、851例(50.1%)がDoublet+Bevacizumab群であり、846例(49.9%)がFOLFOXIRI+Bevacizumab群であった。前者のうち、595例(69.9%)がFOLFOX+Bevacizumabによる治療を受け、256例(30.1%)がFOLFIRI+Bevacizumabによる治療を受けていた。

 全体の年齢中央値は61歳(IQR: 53-67歳)であり、ほとんどの患者は、ECOG PSは0(78.3%)で、同時性転移巣(84.7%)を有していた。34.8%は右側原発の腫瘍であり、32.7%は肝転移のみを有していた。RASおよびBRAF遺伝子変異のデータを入手できた1,316例の患者のうち、RASおよびBRAF変異がそれぞれ65%および9%であった。FOLFOXIRI+Bevacizumab群で右側原発(37.3% vs. 32.3%)および病変が肝転移のみ(35.6% vs. 29.9%)の患者の割合が高い以外には両治療群の患者背景に有意な違いは認めなかった。

 観察期間中央値は39.9ヵ月(IQR: 30.1-49.9ヵ月)(Doublet+Bevacizumab群で40.8ヵ月、FOLFOXIRI+Bevacizumab群で38.9ヵ月)であり、1,697例の患者のうち1,118例(66%)が死亡した(Doublet+Bevacizumab群で69%、FOLFOXIRI+Bevacizumab群で62%)。

 OS中央値はFOLFOXIRI+Bevacizumab群で28.9ヵ月(95% CI: 27.3-30.4ヵ月)、Doublet+Bevacizumab群で24.5ヵ月(95% CI: 23.0-25.9ヵ月)であった(HR=0.81、95% CI: 0.72-0.91、p<0.001)。5年生存率は、FOLFOXIRI+Bevacizumab群で22.3%(95% CI: 18.0-26.6%)、Doublet+Bevacizumab群で10.7%(95% CI: 6.6-14.8%)であった(p<0.001)。

 解析された5試験には有意な不均一性は認めなかった(p=0.39、I2=2%)。

 治療効果は、解析されたサブグループ間で一貫していたが、Oxaliplatinベースの補助化学療法施行歴ありにおいては、FOLFOXIRI+Bevacizumab群はDoublet+Bevacizumab群と比較して、有意な交互作用はないものの有効性は得られなかった(PFS中央値:12.6ヵ月vs. 11.2ヵ月、HR=1.34、95% CI: 0.70-2.56、Pinteraction=0.058)(OS中央値:26.9ヵ月vs. 40.1ヵ月、HR=1.44、95% CI: 0.66-3.14、Pinteraction=0.104)。また、BRAF V600E変異陽性例においても、FOLFOXIRI+Bevacizumab群は、有意な交互作用はないものの有効性は得られなかった(PFS:HR=0.84、95% CI: 0.56-1.25、Pinteraction=0.567)(OS中央値:13.6ヵ月vs. 14.5ヵ月、HR=1.14、95% CI: 0.75-1.73、Pinteraction=0.337)。

 1,489例(88%)の患者にPD(Doublet+Bevacizumab群で761例[89%]、FOLFOXIRI+Bevacizumab群で728例[86%])を認め、PFS中央値はFOLFOXIRI+Bevacizumab群で12.2ヵ月(95% CI: 11.6-12.8ヵ月)、Doublet+Bevacizumab群で9.9ヵ月(95% CI: 9.5-10.3ヵ月)であった(HR=0.74、95% CI: 0.67-0.82、p<0.001)。

 RECISTで評価可能な1,695例(99.9%)のうち、ORRはFOLFOXIRI+Bevacizumab群で64.5%(545/845例)、Doublet+Bevacizumab群で53.6%(456/850例)であった(オッズ比[OR]=1.57、95% CI: 1.29-1.91、p<0.001)。

 転移性腫瘍については、FOLFOXIRI+Bevacizumab群の139例(16.4%)およびDoublet+Bevacizumab群の100例(11.8%)に対して、R0切除が行われた(OR=1.48、95% CI: 1.12-1.95、p=0.007)。

 R0切除群では、OS中央値はFOLFOXIRI+Bevacizumab群で64.0ヵ月、Doublet+Bevacizumab群で52.6ヵ月(HR=0.79、95% CI: 0.50-1.24)であったが、非切除群ではOS中央値はそれぞれ25.7ヵ月と22.3ヵ月であった(HR=0.84、95% CI: 0.74-0.95)。

 1,674例(98.6%)で安全性が評価され、FOLFOXIRI+Bevacizumab群では、Doublet+Bevacizumab群と比較して、以下のgrade 3または4の有害事象の発生率が有意に高かった:好中球減少症(45.8% vs. 21.5%、p<0.001)、発熱性好中球減少症(6.3% vs. 3.7%、p=0.019)、悪心(5.5% vs. 3.0%、p=0.016)、粘膜炎(5.1% vs. 2.9%、p=0.024)、下痢(17.8% vs. 8.4%、p<0.001)。死亡率の有意な増加は報告されなかった(2.3% vs. 1.4%、p=0.277)。

 本メタアナリシスではDoublet+Bevacizumab群と比較して、FOLFOXIRI+Bevacizumab群での、OS中央値の4.4ヵ月延長、5年生存率の11.6%の相対的増加により、19%の死亡リスクの減少が示された。また、PFS、ORR、およびR0切除率に関しても優越性を示した。

 FOLFOXIRI+Bevacizumab群ではgrade 3以上の消化管毒性(下痢、粘膜炎、悪心)および血液毒性(好中球減少症、発熱性好中球減少症)の発生率は高いものの、Bevacizumab関連の毒性ならびに致死的有害事象は増加しなかった。

 結論として、本メタアナリシスによって、FOLFOXIRI+BevacizumabはECOG PSが良好な症例において、臨床的に意味のある生存へのベネフィットが得られることを示した。なかでも、若年者で、Oxaliplatinベースの補助化学療法の施行歴がなく、右側原発かつ/あるいはRAS変異陽性の患者に対して、特に良い適応になるかもしれない。一方で、左側原発やRAS野生型腫瘍に対してのBevacizumabと抗EGFR抗体のFOLFOXIRIへの上乗せ効果の比較検討は今後必要である。


日本語要約原稿作成:筑波大学附属病院 消化器内科 廣瀬 優



監訳者コメント:
FOLFOXIRI+Bevacizumabが期待される臨床像がみえてきた。BRAF V600E変異陽性例には期待薄?

 FOLFOXIRI+BevacizumabはFOLFIRI+Bevacizumabとの比較試験(TRIBE)において高い有効性を示し、その後もさまざまな比較試験で検討されてきた。しかし、BRAF V600E変異陽性例を含むサブグループ解析が不十分であることから本メタアナリシスが実施された。本メタアナリシスは一般的に行われている試験レベルでのメタ解析のみならず、個別患者データレベルでの解析を行っており、その信頼性は高い。結果として、FOLFOXIRI+BevacizumabはDoublet+Bevacizumabに比し生存期間を含む全ての有効面において上回ることが示された。一方で、消化管毒性や血液毒性の発生率は予想通り高かった。

 本メタアナリシスの重要な目的の一つであるサブグループ解析においては、BRAF V600E変異例やOxaliplatinベースの補助化学療法例への有効性は小さく、右側原発、RAS変異陽性例などに良い適応になることを示唆する結果であった。改めてTRIBE試験のサブグループ解析の結果をみてみると、FOLFOXIRI+Bevacizumab群に右側原発例が多かったことから、それが勝因であったのではと勘ぐらせる7)。衝撃的だったのはBRAF V600E変異陽性例には有効性が乏しいことが示されたことだ。そもそも低いエビデンスレベルの結果をもとに推奨されていたこともあり、本メタアナリシスの結果を真摯に受け止める必要があるだろう。今後本邦のガイドライン上の位置付けがどうなるのか気になるところである。

 今回のメタアナリシスからFOLFOXIRI+Bevacizumabが期待できる臨床像がみえてきた。今後は、その適応となる症例をより一層明確にしていく必要があるだろう。

監訳・コメント:筑波大学附属病院 消化器内科 森脇 俊和

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