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1月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 准教授 砂川 優

大腸癌

ハイリスクstage II結腸癌に対してのOxaliplatinベースの補助化学療法の治療期間(3ヵ月vs. 6ヵ月):無作為化第III相試験(ACHIEVE-2試験)


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Yamazaki K, et al.: Ann Oncol. 32(1): 77-84, 2021

 Stage III結腸癌の術後補助化学療法は標準治療として位置づけられている1-3)。しかしながら、stage II結腸癌における術後補助化学療法の有効性に関しては、いまだ結論が出ていない。

 Stage III結腸癌において、FOLFOXやCAPOXなどのOxaliplatinベースの術後補助化学療法は、5-FU+LVによる術後補助化学療法との比較で、有効性が報告されている4-7)。一方、stage II/III結腸癌を対象に術後の5-FU+LVに対するOxaliplatinの上乗せ効果を検討したMOSAIC試験のpost-hoc解析では、stage II結腸癌においてはOxaliplatinの上乗せ効果は認められなかった8)。しかし、再発危険因子を有するハイリスクstage IIの患者においては、FOLFOXの治療成績は5-FU+LVよりも良好な傾向を示しており、Oxaliplatinベースの補助化学療法はハイリスクstage II結腸癌の治療選択肢として検討される。しかし、6ヵ月間のOxaliplatinベースの術後補助化学療法は、多くの症例において末梢神経障害(PSN)が問題となり、減量や治療中止に至ることがある4,9)。またPSNはQOLの大幅な低下につながる。そのため、stage III結腸癌において術後補助化学療法の治療期間およびレジメンに関して検討が行われ、治療期間は6ヵ月間投与より3ヵ月間投与、レジメンはmFOLFOX6よりCAPOXのほうが長期に持続するPSNの発生率が有意に低いと報告されている10)

 このような背景から、ハイリスクstage II結腸癌に対してのmFOLFOX6/CAPOXの術後補助化学療法の3ヵ月投与と6ヵ月投与を比較するための非盲検多施設共同第III相試験であるACHIEVE-2試験が日本で行われた。本試験はInternational Duration Evaluation of Adjuvant Therapy(IDEA)collaborationの試験の一つであり、欧州で行われた3つの臨床試験(SCOT、TOSCA、HORG)と統合解析し、ハイリスクstage II結腸癌の術後補助化学療法の6ヵ月投与に対する3ヵ月投与の非劣性を検討する目的で計画された。

 本試験の対象は治癒切除が施行された再発危険因子を有するハイリスクstage II結腸癌であり、再発危険因子は、①T4、②消化管閉塞、③消化管穿孔・穿通、④郭清リンパ節個数12個未満、⑤低分化腺癌・印環細胞癌・未分化腺癌、⑥脈管侵襲とし、stage IIのうち、これらの再発危険因子の少なくとも1つ以上を有する症例がハイリスクstage IIと定義された。

 患者は無作為に6ヵ月投与群または3ヵ月投与群に1対1で割り振られ、担当医判断で選択されたmFOLFOX6またはCAPOXのいずれかのレジメンが施行された。層別化因子は、施設、レジメン(FOLFOX vs. CAPOX)、年齢(70歳未満vs. 70歳以上)、T因子(T3 vs. T4)、リンパ節郭清個数(12個未満vs. 12個以上)であった。

 主要評価項目は無病生存期間(DFS)であり、副次評価項目は、全生存期間(OS)、治療成功期間(TTF)、安全性、治療完遂率、相対用量強度、再発危険因子と予後の関係、PSNと手足症候群(HFS)の経過であった。本論文では、DFS、治療完遂率、相対用量強度、安全性について報告されている。

 再発はCTによって半年毎に評価された。有害事象はCTCAE v4.0によって、各治療サイクルの最後と、治療完遂時から4週間後に評価された。PSNとHFSは、登録後3年間は3ヵ月毎に、それ以降は6ヵ月毎に評価された。

 本試験はIDEA試験としてほかの3つの臨床試験との統合解析が予定されており、本試験においては仮設検定に基づいたサンプルサイズの計算は行われていない。

 2014年2月12日から2017年1月31日の期間に日本の102施設から計525例の患者が登録され、6ヵ月投与群と3ヵ月投与群に無作為に割り付けされた。そのうち11例が除外され(4例が同意撤回、3例が登録後2週間以内に治療開始できなかった、3例がその他の理由、1例が不適格)、514例の患者がmITT集団に含まれた。データのカットオフは2019年3月31日であり、追跡期間中央値は36.1ヵ月であった。

 患者背景は治療期間(6ヵ月投与群vs. 3ヵ月投与群)、および治療レジメン(mFOLFOX6 vs. CAPOX)で偏りはなかった。mITT集団の84%(432/514)の患者がCAPOXによる術後補助化学療法を受けていた。最も頻度の高い再発危険因子は脈管侵襲陽性であり、3ヵ月投与群87%(221/255)、6ヵ月投与群88%(229/259)であった。次に頻度の高い危険因子はT4であり、両群ともに36%(3ヵ月投与群:92/255、6ヵ月投与群:92/259)であった。両群とも約半数の患者で、2つ以上の再発危険因子を有していた。

 mFOLFOX6において、Oxaliplatinの相対用量強度は3ヵ月投与群83.5%、6ヵ月投与群68.1%(p=0.0170)であり、5-FUの相対用量強度は、3ヵ月投与群85.1%、6ヵ月投与群74.2%(p=0.1933)であった。一方、CAPOXでは、Oxaliplatinの相対用量強度は3ヵ月投与群92.3%、6ヵ月投与群76.4%(p<0.0001)であり、Capecitabineの相対用量強度は3ヵ月投与群92.3%、6ヵ月投与群78.2%(p<0.0001)であった。mFOLFOX6の治療中止率は3ヵ月投与群10%、6ヵ月投与群31%であり、有害事象に関連する中止はそれぞれ10%と24%であった。CAPOXの治療中止率は3ヵ月投与群15%、6ヵ月投与群35%であり、有害事象に関連する中止は12%と31%であった。

 解析時点でのイベント数は60件(6ヵ月投与群29件、3ヵ月投与群31件)であった。3年DFS割合は3ヵ月投与群88.2%(95% CI: 83.3-91.8)、6ヵ月投与群87.9%(95% CI: 82.7-91.6)、HR=1.12(95% CI: 0.67-1.87)であった。mFOLFOXにおける3年DFS割合は3ヵ月投与群88.6%、6ヵ月投与群85.7%(HR=0.85、95% CI: 0.23-3.16)、CAPOXにおける3年DFS割合は3ヵ月投与群88.2%、6ヵ月投与群88.4%(HR=1.13、95% CI: 0.65-1.96)であった。T因子によるサブグループ解析では、T3の3年DFS割合は、3ヵ月投与群95.0%、6ヵ月投与群92.5%(HR=0.83、95% CI: 0.36-1.92)、T4の3年DFS割合は、3ヵ月投与群76.2%、6ヵ月投与群79.7%であった(HR=1.28、95% CI: 0.68-2.43)。事前に計画されたサブグループ解析では、治療期間と患者背景間で有意な交互作用は認めなかった。

 Grade 3以上の有害事象の発生頻度は、3ヵ月投与群のほうが6ヵ月投与群よりも低く、grade 3以上のPSNも3ヵ月投与群で有意に低い結果であった[1%(2/255)vs. 7%(18/259)、p=0.0003]。Grade 2以上のPSNの発生頻度も、3ヵ月投与群で有意に低く[16%(42/255)vs. 43%(111/259)、p<0.0001]、化学療法レジメン間でも同様に3ヵ月投与群で一貫して低い傾向が認められた[mFOLFOX6:3ヵ月投与群13%(5/40)vs. 6ヵ月投与群40%(17/42)、CAPOX:3ヵ月投与群17%(37/215)vs. 43%(94/217)]。Grade 2以上のHFSはCAPOX 3ヵ月投与群の3%(7/215)、CAPOX 6ヵ月投与群の15%(32/217)に認められた。本試験では治療関連死は認められなかった。

 本試験におけるDFSのカプランマイヤー曲線は3ヵ月投与群と6ヵ月投与群で近似しており、HR=1.12(95% CI: 0.67-1.87)であった。事前の非劣性マージンは定義していないものの、3年DFS割合では3ヵ月群でわずかに良い傾向であった。CAPOXの3ヵ月投与群と6ヵ月投与群のDFS解析では、HR=1.13であり、mITT集団の結果と類似した結果であり、3年DFS割合の差は両群間でわずか0.2%であった。3ヵ月投与群のmFOLFOX6の3年DFS割合は88.6%、6ヵ月投与群のmFOLFOX6の3年DFS割合は85.7%であり、HR=0.85(95% CI: 0.23-3.16)であった。しかしながら、最適な治療期間を検討するにあたりmFOLFOX6を受けた患者数は少数(82例)であった。DFSのサブグループ解析では、T4における3ヵ月投与群は6ヵ月投与群に対してHR=1.28(95% CI: 0.68-2.43)であり、治療成績は不良な傾向が認められた。

 治療コンプライアンスに関して、両群および化学療法レジメン間のOxaliplatinと5-FUの相対用量強度や治療完遂率は、stage IIIの結腸癌に対してのmFOLFOX6/CAPOXの3ヵ月投与と6ヵ月投与を比較したACHIEVE試験の結果と一貫していた11)。またgrade 3以上の有害事象の頻度は6ヵ月投与群より3ヵ月投与群で低く、特にmFOLFOX6によるgrade 3の好中球減少、CAPOXによるHFS、両治療レジメンによるgrade 2のPSNの頻度が3ヵ月群で低かった。

 12,834例のstage III結腸癌を対象としたIDEA試験では3ヵ月投与の6ヵ月投与に対するOxaliplatinベースの術後補助化学療法の非劣性は証明されていない12)。しかしながら、stage III結腸癌を対象としたIDEA試験の結果は、Oxaliplatinベースの補助化学療法の最適な治療期間がレジメンや再発リスクによって異なることが示唆され、stage III結腸癌に対するCAPOXの3ヵ月投与、および、低リスクstage III結腸癌に対するFOLFOXの3ヵ月投与はNCCNガイドラインにおいてpreferredレジメンとして挙げられている。ハイリスクstage II大腸癌を対象とした4試験(本試験を含む)を統合解析したIDEA試験でも、ハイリスクstage II大腸癌において、全体集団では6ヵ月投与に対する3ヵ月投与のOxaliplatinベースの補助化学療法の非劣性を証明できなかった13)。化学療法レジメンによるサブグループ解析では、CAPOX群において80%信頼区間の上限(HR=1.02、80% CI: 0.88-1.17)は非劣性マージンを超えておらず、stage III結腸癌を対象としたIDEA試験と同様の結果であった。しかし、治療期間と治療レジメンにおいて有意な交互作用は認められなかった(p=0.07)。ACHIEVE-2試験において、CAPOXの3ヵ月投与と6ヵ月投与の3年DFS割合の差はわずか0.2%であり、HRでは1.13であった。サブグループ解析では、再発危険因子について一貫した結果が得られたが、各再発危険因子とその発生頻度は再発リスクに異なる影響を及ぼす可能性がある。これらの疑問を明らかにするために、IDEA試験のさらなる検討が望まれる。

まとめ
 ACHIEVE-2試験において、Oxaliplatinベースの補助化学療法の治療期間の短縮は、grade 2以上のPSNを有意に減少させ、そして、DFSは遜色のない結果であった。しかしながら、本試験はIDEA試験の一部として行われており、単独では、最適な治療期間を決める統計学的な検出力は有していなかった。本試験は、ハイリスクstage II結腸癌の患者、特にT4以外の再発危険因子を有するハイリスクstage II結腸癌において、治療選択肢としてCAPOXの3ヵ月投与が考慮される可能性を示唆している。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 消化管内科 由上 博喜



監訳者コメント:
再発高リスクstage II結腸癌において、3ヵ月投与は6ヵ月投与に対して「劣性」。しかし・・・

 Stage II結腸癌の術後補助化学療法に関しては、本邦の大腸癌診療ガイドライン2019年版において「再発高リスクの場合には補助化学療法を行うことを弱く推奨する」と記載されており、再発高リスク因子としてはASCOやESMOのガイドラインを参考にすることが言及されている。再発高リスクstage II結腸癌における術後補助化学療法の有効性を明確に示した臨床試験はないものの、MOSAIC試験においてstage IIIおよび再発高リスクstage IIにおいて良好な結果を示した6ヵ月間のOxaliplatin併用療法が世界的に広く普及している。

 このような背景で行われた本試験ならびにIDEA collaborationにおける統合解析であるが、結果として6ヵ月投与群に対する3ヵ月投与群の非劣性を示すことはできなかったことから、再発高リスクstage IIに対して一律に3ヵ月投与とすることは推奨されない。Stage IIIにおける統合解析では6ヵ月投与群に対する3ヵ月投与群の「非劣性が示されない」結果であったが、再発高リスクstage IIにおいては3ヵ月投与群の「劣性」が示されてしまった。しかし一方で、本試験においてT3症例に関しては3年DFSが近似しており(3ヵ月群95.0% vs. 6ヵ月群92.5%)、IDEA collaborationではCAPOX群で5年DFSが近似していた(3ヵ月群81.7% vs. 6ヵ月群82.0%)。Stage IIIにおけるIDEA collaborationの結果も合わせて考えると、T3症例かつCAPOXを用いる場合は臨床的には3ヵ月投与も選択肢と考えられる。

 現在、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いたリスクの層別化により、最適な周術期治療を検討するCIRCULATE-Japanプロジェクトが進行中である。臨床病理学的な再発予測のみでは限界があり、ctDNAなどの技術を用いることで、再発高リスク症例には十分な補助化学療法を、再発低リスク症例には不要な補助化学療法を減らすことで、周術期治療における個別化医療が進むことに期待したい。

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 消化管内科 小谷 大輔

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