論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

最新の論文紹介一覧へ
2009年1月~2015年12月の論文紹介
2003年1月~2008年12月の論文紹介

4月
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也

胃癌 食道癌

FAST試験:1次治療におけるCLDN18.2陽性切除不能・進行再発胃癌/食道胃接合部腺癌に対するZolbetuximab(IMAB362)+EOX(Epirubicin、Oxaliplatin、Capecitabine)vs. EOXの無作為化第II相試験


この論文は無料です


Sahin U, et al.: Ann Oncol. 32(5): 609-619, 2021

 胃癌および食道腺癌の予後は不良である。切除不能胃癌に対する標準治療はプラチナ系薬剤とフッ化ピリミジン系薬剤をベースとしたレジメンであり、さまざまな分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの試験が行われてきた。しかしながら、2年以上生存できる患者は少なく、胃癌および食道腺癌の全生存期間の延長は非常に重要な課題である。

 クローディンはタイトジャンクション分子の一部であり、上皮層のバリア機能や透過性、極性の調整に関与している。正常組織において、クローディン18.2(CLDN18.2)は胃粘膜細胞のタイトジャンクションに選択的に発現しており、タイトジャンクションの超分子複合体内のCLDN18.2のエピトープへは血管内の抗体はほとんど到達しない。悪性腫瘍による細胞の極性が乱れることで、CLDN18.2のエピトープが分子標的薬と結合することが可能となる。胃癌や胃転移ではCLDN18.2の発現が保たれている。

 Zolbetuximabはfirst-in-classの薬剤である。CLDN18.2へ結合するモノクローナルIgG1抗体で、抗体依存性細胞傷害(ADCC: antibody-dependent cellular cytotoxicity)や補体依存性細胞傷害(CDC: complement-dependent cytotoxicity)により細胞死を引き起こす。ZolbetuximabはCLDN18.2陽性の既治療胃癌患者を含む第I相試験では単剤での効果、安全性が示唆されている1)。前臨床の検討ではZolbetuximabと殺細胞薬との強い相乗効果が認められている2)。最近では第IIa相試験であるMONO試験の結果、CLDN18.2陽性胃癌に対する安全性、有効性が示されている3)。今回報告されたFAST試験は1次治療におけるCLDN18.2陽性胃癌/食道胃接合部腺癌、食道腺癌に対するEpirubicin、Oxaliplatin、Capecitabine併用療法(EOX)へのZolbetuximab併用効果の安全性と有効性を評価した。

 本試験は6ヵ国、49施設で行われた国際共同無作為化第II相試験である。割り付けにおいては腫瘍細胞におけるCLDN18.2の陽性率(40~69% vs. ≧70%)とRECIST v1.1での測定可能病変の有無が層別化因子とされた。登録開始より15ヵ月が経過した時点でプロトコール改訂が行われ、3群目の探索的コホートとしてEOXとZolbetuximabの高用量(1,000mg/m2)併用の群が加えられた。改訂時点で2群には予定登録症例数の80%が登録されていたため、その後の割り付けは1:1:7とされた。

 主な適格基準は18歳以上、進行・再発切除不能胃癌もしくは食道癌である、CLDN18.2陽性であること、などとされた。CLDN18.2の発現はCLAUDETECT18.2を用いて40%以上の腫瘍細胞が2+もしくは3+で染色された場合に陽性とされた。

 化学療法は21日間を1サイクルとし、Epirubicin 50mg/m2とOxaliplatin 130mg/m2を1日目に投与し、Capecitabine 625mg/m2を1日に2回、21日間内服とされ、最大8サイクル行うこととされた。Zolbetuximabは1サイクル目の1日目に800mg/m2をloading doseとしてEOXの前に投与され、2サイクル目以降は600mg/m2を各サイクルの1日目に投与することとされた。ZolbetuximabはEOXが8サイクル完遂した後は維持療法として3週おきに腫瘍進行が認められるまで、同意撤回があるまで、許容できない毒性が出現するまで投与が継続された。EOXの毒性による用量調整は許容された。各サイクル開始から3日間は予防制吐剤の処方が推奨された。加えて、粘膜保護目的にプロトンポンプ阻害薬を内服していた。Zolbetuximabの効果を低下させる可能性を避けるために、予防制吐剤もしくは対症療法としてのステロイドの使用は禁忌であった。有害事象はCTCAE v3.0を用いて評価された。

 主要評価項目は無増悪生存期間(PFS: progression-free survival)で、副次評価項目は全生存期間(OS: overall survival)、無増悪期間、奏効割合、病勢制御割合、治療奏効期間、安全性であった。

 PFS、OSはカプランマイヤー法を用いて評価された。CLDN18.2の陽性細胞の割合(40~69% vs. ≧70%)と測定可能病変の有無により比較をされた。化学療法のPFSの中央値を6ヵ月と想定し、Zolbetuximabの併用によりハザード比を0.725と仮定し、片側α=0.10、検出力70%として各群70例が必要と判断された。

 2012年7月~2014年6月まで730例がスクリーニングされ、686例が免疫染色での評価が可能であった。686例のうち334例(49%)で腫瘍細胞の40%以上でCLDN18.2の中等度から強度の発現が認められ、適格基準を満たした。334例のうち82例はその他の理由で除外され、252例が登録されたが、6例は治療を受けなかった。EOX群 84例、EOX+Zolbetuximab群77例、EOX+高用量Zolbetuximab群85例であった。EOX群の62%(52/84)、EOX+Zolbetuximab群の55%(42/77)が8サイクル以内に治療中止となった。治療中止の理由は病勢増悪(EOX群25%[21/84]、EOX+Zolbetuximab群25%[19/77])、有害事象(EOX群4%[3/84]、EOX+Zolbetuximab群5%[4/77])であった。

 EOX群とEOX+Zolbetuximab群で患者背景として年齢の中央値(57歳vs. 59歳)、ECOG PS 0(29.8% vs. 29.9%)、転移臓器個数(3個vs. 3個)など両群に有意差は認められなかった。腫瘍細胞の70%以上でCLDN18.2が発現している割合は両群で高かった(70.2% vs. 74.0%)。化学療法のサイクル数や減量を要した症例数は両群とも差はなかった。次治療への移行はEOX群36.9%(31/84)、EOX+Zolbetuximab群で44.2%(34/77)であった。次治療としてはEOX群でIrinotecan(5例)、5-FU(5例)が最も多く、EOX+Zolbetuximab群ではPaclitaxel(5例)、Oxaliplatin(5例)、5-FU(5例)が最も多かった。FAS解析では、EOX+Zolbetuximab群のEOX群に対する無増悪生存期間(PFS)の有意なリスクの低下が示された(7.5ヵ月vs. 5.3ヵ月、ハザード比[HR]=0.44、95%信頼区間[95% CI]0.29-0.67、p<0.0005)。全生存期間(OS)においても同様の傾向であった(13.0ヵ月vs. 8.3ヵ月、HR=0.55、95% CI: 0.39-0.77、p<0.0005)。12ヵ月、18ヵ月、24ヵ月時点でのPFS(32.5% vs. 4.2%、27.5% vs. 2.1%、15.0% vs. 0%)、OS(52.9% vs. 27.4%、39.0% vs. 10.0%、28.9% vs. 7.5%)はそれぞれEOX+Zolbetuximab群で高かった。

 腫瘍細胞の70%以上でCLDN18.2の発現が認められている症例ではEOX+Zolbetuximab群でのPFS(9.0ヵ月vs. 5.7ヵ月、HR=0.38、95% CI: 0.23-0.62、p<0.0005)、OS(16.5ヵ月vs. 8.9ヵ月、HR=0.50、95% CI: 0.33-0.74、p<0.0005)の改善がより明確に認められる。しかし、CLDN18.2の発現が腫瘍細胞の40~69%で認められている症例ではPFS(4.3ヵ月vs. 4.1ヵ月、HR=0.71、95% CI: 0.32-1.57、p=0.497)とOS(8.3ヵ月vs. 7.4ヵ月、HR=0.78、95% CI: 0.40-1.49、p=0.401)の統計学的な延長が認められなかった。

 EOX+高用量Zolbetuximab群においても全体症例ではEOX群と比較してPFSの延長が認められたが(7.1ヵ月vs. 5.3ヵ月、HR=0.58、95% CI: 0.39-0.85、p=0.0114)、OSの有意な延長は認められなかった(9.6ヵ月vs. 8.3ヵ月、HR=0.75、95% CI: 0.55-1.04、p=0.1292)。腫瘍細胞の70%以上でCLDN18.2の発現が認められている症例ではEOX+高用量Zolbetuximab群においてPFS(6.3ヵ月vs. 5.7ヵ月、HR=0.68、95% CI: 0.44-1.05、p=0.1285)、OS(9.4ヵ月vs. 8.9ヵ月、HR=0.82、95% CI: 0.57-1.18、p=0.390)の延長は認められなかった。奏効割合は、EOX+Zolbetuximab群で39.0%、EOX群で25.0%とEOX+Zolbetuximab群で有意に良好であった。

 Grade 3以上の有害事象はEOX群で64.3%、EOX+Zolbetuximab群で70.1%に認められた。全gradeでもっとも多く認められた有害事象は嘔気(EOX群76.2% vs. EOX+Zolbetuximab群81.8%)、嘔吐(EOX群54.8% vs. EOX+Zolbetuximab群67.5%)であった。EOX+Zolbetuximab群では嘔気の発現割合が、胃切除された患者は胃切除されていない患者よりも低かった(38.1% vs. 78.6%)。一方で、EOX群では嘔気の発現割合が、胃切除された患者と胃切除されていない患者で同程度であった(52.2% vs. 55.7%)。もっとも多く認められた、その他の非血液毒性は全gradeで体重減少(EOX群31.0% vs. EOX+Zolbetuximab群32.5%)、疲労(EOX群20.2% vs. EOX+Zolbetuximab群31.2%)、脱毛(EOX群20.2% vs. EOX+Zolbetuximab群28.6%)、無力症(EOX群22.6% vs. EOX+Zolbetuximab群24.7%)、食思不振(EOX群22.6% vs. EOX+Zolbetuximab群19.5%)、下痢(EOX群36.9% vs. EOX+Zolbetuximab群18.2%)、頭痛(EOX群21.4% vs. EOX+Zolbetuximab群15.6%)が多く認められた。

 血液毒性は、grade 3以上の好中球数減少はEOX群で21.4%、EOX+Zolbetuximab群で32.5%に認められた。発熱性好中球減少症はEOX群で2例、EOX+Zolbetuximab群で2例に認められた。その他、貧血はEOX群で35.7%、EOX+Zolbetuximab群で45.5%に認められ、血小板数減少はEOX群で10.7%、EOX+Zolbetuximab群で15.6%に認められた。

 EOXの減量はEOX群で28.6%、EOX+Zolbetuximab群で32.5%に必要であった。

 CLDN18.2陽性の切除不能・進行再発胃癌/食道胃接合部腺癌もしくは食道腺癌に対するZolbetuximab(800/600mg/m2)と化学療法の併用療法はPFS、OSともに改善が認められる。安全性も問題なく治療可能であった。現在第III相試験が行われており、結果が待たれる。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 緒方 貴次



監訳者コメント:
胃癌/食道胃接合部癌/食道癌に対する抗CLDN18.2抗体であるZolbetuximabに期待

 胃癌におけるCLDN18.2発現は70~90%に認められる。TCGA分類ではいわゆるGS typeの特徴の一つとされる。本試験では、化学療法単独に対して、CLDN18.2に対する抗体薬であるZolbetuximabと化学療法の有効性・安全性が示唆された。

 奏効割合は、既報の1次化学療法の成績よりもやや悪い傾向にある(コントロール群で25.0%、Zolbetuximab併用群で39.0%)。あるメタアナリシスでは、CLDN18.2発現症例は予後不良因子とは結論づけられておらず4)、本試験のみでCLDN18.2発現例が化学療法の感受性が元来不良かどうかの結論はつけられない。従来から、胃癌に対する抗体薬の開発は成功してきたとはいえず、CLDN18.2が新たな胃癌の治療標的となるかどうかは、現在進行中の第III相試験であるSPOTLITE試験の結果に注目されたい。

監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 成田 有季哉

論文紹介 2021年のトップへ

このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場