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12月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 教授 砂川 優

大腸癌

TP53およびRASに変異を有する転移性大腸癌にWEE1阻害は有効:Adavosertib(AZD1775)とアクティブモニタリングを比較した無作為化試験(FOCUS4-C)


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Seligmann JF, et al.: J Clin Oncol. 39(33): 3705-3715, 2021

 DNA損傷応答を標的とする治療は、卵巣癌や膵臓癌などの癌種において有効な治療戦略となっている1,2)。WEE1はG2/Mチェックポイント制御など細胞周期の調整に中心的な役割を果たす核内チロシンキナーゼであり、WEE1阻害によってS期におけるDNA損傷の蓄積などが発生し、G1/Sチェックポイントへの依存度が上昇する3)。Adavosertib(AZD1775)はWEE1キナーゼを阻害する初の小分子化合物である4)

 TP53は、G1/Sチェックポイントの中心的な制御因子であり5)、機能喪失によってDNA損傷の検出と修復においてS期とG2/Mチェックポイントへの依存度が高まる6)RAS変異は、MAPK-AKTシグナル伝達経路を活性化する一方で、細胞周期の進行を促進し、S期における複製ストレスを惹起する7)。また、RAS変異はCDK4やCDK6複合体の制御を介して細胞をS期に移行させ、持続的なCDK2活性を介して、持続的な分裂促進シグナルを誘導する。これらの効果はチェックポイント活性化を含む複製ストレス応答を活性化する8)

 上述の理論的背景から、RASおよびTP53変異陽性(RAS/TP53-mut)の腫瘍は、Adavosertibに対して非常に脆弱であると考えられる。

 FOCUS4試験プログラムでは、転移性大腸癌と診断された患者が登録され、16週間の初回化学療法後に、患者を分子サブタイプ別(BRAFPIK3CARAS/TP53-mutなど)の各副試験に登録する英国のアンブレラ試験である9)。FOCUS4-C試験はRAS/TP53-mutの切除不能大腸癌患者を対象に、Adavosertibの有効性と安全性をアクティブモニタリングと比較した無作為化比較試験である。

 主な適格規準は、16週間の導入療法終了時点のCT評価で病勢制御が得られていること、十分な肝機能と腎機能を有すること、ECOG PSが0~1、心電図でQT延長を認めないことであった。

 登録患者は、Adavosertib群(Adavosertib 250mg/日[試験開始から21例まで]~300mg/日[以後の23例]、day 1-5、day 8-12、内服、3週サイクル)またはアクティブモニタリング群に2:1で無作為に割り付けられた。

 主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)とされ、無作為化割付日を起算日としてRECIST v1.1に基づく病勢進行もしくはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。腫瘍縮小効果判定は8週毎にRECIST v1.1に基づいてCT画像で評価された。導入化学療法中で使用した化学療法の再開が推奨される増悪がみられるまで、試験治療は継続された。

 有害事象や症状はCTCAE v3.0に基づいて4週毎に評価された。

 FOCUS4-C試験は2017年4月から2020年3月まで実施され、この期間中にFOCUS4試験には817例の患者が登録され、そのうち718例がバイオマーカー解析に成功した。RAS/TP53-mut腫瘍を有する割合は34%(274例)であった。これらの患者のうち、151例は16週間の導入化学療法後に病勢制御が得られ、69例がAdavosertib群(44例)、アクティブモニタリング群(25例)に割り付けられた。

 Per-protocol解析集団において、主要評価項目のPFS中央値は、Adavosertib群3.61ヵ月、アクティブモニタリング群1.87ヵ月(調整ハザード比[HR]=0.35、95% CI: 0.18-0.68、p=0.0022)と、Adavosertib群で統計学的に有意なPFSの延長を認めた。Intention-to-treat集団において、全生存期間(OS)の中央値は、Adavosertib群14.0ヵ月、アクティブモニタリング群12.8ヵ月(調整HR=0.92、95% CI: 0.44-1.94、p=0.93)と、統計学的な有意差は認められなかった。Adavosertib群はアクティブモニタリング群と比較して病勢制御割合が高く(47% vs. 28%)、部分奏効を示した患者が1例含まれていた。

 原発占居部位が右側のサブグループでは、両群間でPFSの差が認められなかったが(PFS中央値:Adavosertib群1.87ヵ月、アクティブモニタリング群1.91ヵ月[HR=1.02、95% CI: 0.41-2.56])、左側のサブグループでは、Adavosertib群でPFSの延長を認めた(PFS中央値:Adavosertib群 3.61ヵ月、アクティブモニタリング群1.87ヵ月[HR=0.24、95% CI: 0.11-0.51]、相互作用p=0.043)。原発占居部位が右側のサブグループでは、OS中央値は、Adavosertib群6.5ヵ月、アクティブモニタリング群15.5ヵ月(HR=6.5、95% CI: 0.72-6.43)とAdavosertib群で不良であったが、左側のサブグループでは、Adavosertib群14.1ヵ月、アクティブモニタリング群11.3ヵ月(調整HR=0.37、95% CI: 0.15-0.87)とAdavosertib群で良好であった(相互作用p=0.0032)。

 KRAS codon 12/13変異を有するサブグループでは、Adavosertib群でPFSの延長(HR=0.19、95% CI: 0.07-0.50)を認めたが、他のKRAS変異またはNRAS変異を有するサブグループでは、両群間でPFSの明らかな差が認められなかった(HR=0.81、95% CI: 0.39-1.67、相互作用p=0.014)。

 原発占居部位が左側かつKRAS codon 12/13変異を有するサブグループでは、Adavosertibが有意に有効であり(HR=0.16、95% CI: 0.05-0.50)、原発占居部位が右側かつ他のKRAS変異またはNRAS変異を有するサブグループでは無効であった(HR=1.56、95% CI: 0.49-4.97)。以上の結果から、PFSに対するKRASサブタイプと原発占居部位の相互作用効果は相加的であると考えられた。

 アクティブモニタリング群と比較して、Adavosertib群で頻度が高いgrade 1以上の有害事象は、下痢(28% vs. 61%)、疲労(56% vs. 75%)、嘔気(32% vs. 68%)、嘔吐(4% vs. 41%)であった。大部分の有害事象は低gradeであった。Adavosertib群で頻度が高いgrade 3以上の有害事象は、下痢(9% vs. 0%)、疲労(11% vs. 0%)、嘔気(5% vs. 0%)、嘔吐(2% vs. 0%)であった。

 本試験では、試験途中でAdavosertibの投与量が250mg/日から300mg/日へ変更された。250mg/日投与群と300mg/日投与群の間で有意なPFSの差は認められなかったものの300mg/日投与群が良好な傾向にあった(PFS中央値:250mg/日投与2.2ヵ月、300mg/日投与群3.7ヵ月;HR=0.47、95% CI: 0.25-0.89、p=0.48)。一方、有害事象はgrade 3以上の下痢の頻度が300mg/日投与群で多かったものの(14% vs. 4%)、その他の有害事象の頻度は同様であった。

 以上のように、AdavosertibはRAS/TP53-mut転移性大腸癌に対して、アクティブモニタリングと比較して有望な活性を示した。本治療効果は、原発占居部位やKRASサブタイプに関連している可能性が示唆された。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 平野 秀和



監訳者コメント:
WEE1阻害薬であるAdavosertibはRAS/TP53ともに変異を有する大腸癌に対して有望であることが示唆された

 本試験において、主要評価項目であるPFSにおいて、Adavosertib群はアクティブモニタリング群に対し統計学的に有意に良好な結果が示されており、RAS/TP53ともに変異を有する大腸癌に対してWEE1阻害薬であるAdavosertibが有望な薬剤であることが示唆されたと言える。ただし、本試験の対象は一次治療中(多くがフッ化ピリミジン+Irinotecan/Oxaliplatinの2剤併用療法)に病勢制御が得られた患者であり、Adavosertibは維持療法の位置づけで投与されていることになる。アクティブモニタリングと比べAdavosertibの有効性が示唆されたものの、標準治療であるフッ化ピリミジン(+分子標的薬)療法と比べ有効であるかどうかは不明である。また、筆者らがdiscussionで述べている通り、本試験は非盲検で行われていたためAdavosertib群のPFSは過大評価されている可能性があり、結果の解釈には注意を要する。また、RASの変異部位、腫瘍占居部位によりAdavosertibの治療効果が大きく異なるといった大変興味深い結果も報告されているものの、そのメカニズムは不明であり、進行中の付随研究の結果が待たれる。

 他癌種ではあるものの、Adavosertibは他の抗癌剤との併用の有効性も示唆されている10)(膵癌におけるGemcitabineとの併用、卵巣癌におけるCarboplatin、Paclitaxelとの併用、PARP阻害薬抵抗性の卵巣癌におけるOlaparibとの併用)。また、免疫チェックポイント阻害薬との相乗効果が前臨床試験において示され、Adavosertibと免疫チェックポイント阻害薬との併用を評価する臨床試験も海外において進行中である。今後、大腸癌においてもAdavosertib単剤のみならず他の薬物療法との併用の治療開発が予想される。

 進行大腸癌の約半数がRAS変異を有しており、またRAS変異を有する場合は予後不良であることが知られている。近年、KRASG12C変異に対するSotorasib、Adagrasibの高い効果が報告され、また本試験においてRAS/TP53変異に対するAdavosertibの有効性が示されたことは、アンメット・メディカル・ニーズが高いRAS変異を有する大腸癌にとって福音である。早急に治療開発を進めることで、一日でも早くこれらの新薬の臨床応用が期待される。

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 髙島 淳生

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