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5月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

胃食道腺癌

EGFR増幅陽性胃食道腺癌(GEA)におけるEGFR阻害:国際的な使用経験の後方視的検討


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Maron SB, et al.: J Clin Oncol. March 29, 2022
[Online ahead of print]

 The Cancer Genome Atlasにおいて、HER2やEGFR、MET、FGFR2等の受容体型チロシンキナーゼの増幅に関与する染色体不安定性を胃食道腺癌(GEA)の約62%で認めた1)。GEAの中で、EGFR過発現は約半数、EGFR増幅は約6%に認められ、予後不良である2)

 GEAにおける3つの第III相試験(EXPAND3)、REAL34)、COG5))では、EGFR阻害薬の有効性は示されなかった。しかし、事後のバイオマーカー解析では、EGFR高発現例やEGFR増幅陽性例でEGFR阻害薬による生存期間延長効果が示唆された6-8)。そこで今回、GEAに対して臨床試験もしくは適応外使用でEGFR阻害薬が投与された症例を後方視的に検討した。

 対象は腫瘍組織またはctDNAのNGS法(各検査法で定められたEGFR増幅判定で陽性)または腫瘍組織のFISH法(EGFR/CEP7≧2.1もしくはEGFR/CEP7≧2.0かつ解析した10%以上の細胞でEGFR遺伝子クラスターが存在)でEGFR増幅陽性の切除不能GEA 症例とした。また、米国のFlatiron Health-Foundation Medicine Clinico-Genomic Database(FH-FMI CGDB)に登録されている、2011年1月から2020年12月までに治療を受け、包括的がんゲノムプロファイリングが施行された2,724例のGEAから対照群としての症例を抽出した。

 無増悪生存期間(PFS)はEGFR阻害薬を含む治療開始から増悪(PD)または死亡までの期間、全生存期間(OS)は同開始より死亡までの期間とした。PD判定は、担当医判断による、画像PDもしくは臨床的PDとした。PFSとOSはKaplan-Meier法を用いて推定し、群間比較はlog-rank検定を用いた。事前に設定された患者背景や治療方法とPFSとの関連はCox回帰分析が用いられた。単変量解析でp≦0.2であった項目を変数として多変量解析を行った。比例ハザード性の確認はSchoenfeld検定を用いた。

 2014年から2021年までに世界の15施設で遠隔転移を有するEGFR増幅陽性GEA 60例にEGFR阻害薬が投与された。患者背景は、年齢中央値58歳(範囲22-85)、男性80%、ECOG PS 2 20%、胃原発33%、低分化型腺癌70%、HER2陽性10%、CPS≧5(PD-L1) 35%、MSI-H 0%、治療ライン数≧3 43%であった。抗EGFR抗体薬(Cetuximab、Panitumumab、ABT-806)が84%、EGFR-TKIが13%、抗EGFR抗体薬+EGFR-TKI併用療法が4%であった。抗EGFR抗体薬+化学療法が48%、抗EGFR抗体薬単独療法が27%、EGFR-TKI単独療法が12%であった。15%(9例)において後治療でEGFR阻害薬の投与が行われた。追跡期間中央値は7.7ヵ月であった。

 解析時点で5例(8%)が治療継続中であった。PFS中央値は、全症例で4.6ヵ月(95% CI: 3.5-6.4)、化学療法併用例で6.0ヵ月(95% CI: 4.6-9.0)、EGFR阻害薬単独療法例は3.0ヵ月(95% CI: 2.2-6.0)であった。6ヵ月PFSは22例(37%)で得られ、そのうち7例がEGFR阻害薬単独療法であった。測定可能病変を有する症例における奏効割合は43%(24/56例)、化学療法併用例の奏効割合は57%、EGFR阻害薬単独療法例は29%であった。奏効期間中央値は3.6ヵ月であった。

 PFSに関する多変量解析では、EGFR阻害薬の種類(抗EGFR抗体薬、EGFR-TKI、それらの併用)に有意差は認めなかった。EGFR増幅陽性の診断がFISH(HR=6.58、p=0.002)もしくはctDNA(HR=3.73、p=0.016)が有意なPFSの不良因子であった。ECOG PS 2(HR=2.38、p=0.058)や4次治療以降におけるEGFR阻害薬投与(HR=2.01、p=0.2)は有意ではないもののPFSが不良な傾向であった。

 EGFR増幅陽性GEAにおける1次治療開始からのOS中央値は、EGFR阻害薬投与群で20.6ヵ月(95% CI: 13.5-NR)、EGFR阻害薬非投与群(FH-FMI CGDB登録例)で11.2ヵ月(95% CI: 8.7-14.2)であり、EGFR阻害薬投与群のOSが良好であった。EGFR阻害薬の投与ライン別のOS中央値は、2次治療で9ヵ月、3次治療で8.4ヵ月であった。EGFR阻害薬の投与ライン別のPFS中央値は、1次治療で6.9ヵ月、2次治療で5.2ヵ月、3次治療で6.6ヵ月であった。

 腫瘍組織によるNGS法もしくはFISH法とctDNAによるNGS法の両検査が施行された28例において、EGFR増幅陽性の検出が腫瘍組織とctDNA(18例)、腫瘍組織のみ(7例)、ctDNAのみ(3例)の症例におけるPFS中央値は、それぞれ6.7ヵ月(95% CI: 4.6-14.1)、6.4ヵ月(95% CI: 6.0-NR)、1.7ヵ月(95% CI: 1.6-NR)であった。いずれかの時点で腫瘍組織もしくはctDNAによるNGS法が施行された51例におけるMETERBB2RAFRAF1/BRAF)、RASKRAS/NRAS)、PI3KPIK3CA/B/G/PIK3R1)の遺伝子異常の頻度は、それぞれ14%、16%、16%、16%、14%であり、FH-FMI CGDBにおける頻度と同程度であった。METRASの遺伝子異常は相互排他的であり、RASERBB2の遺伝子異常の共存は比較的高頻度であった。腫瘍組織のEGFR copy numberや治療前のRASPI3KRAFERBB2METの遺伝子異常とPFSに関連は認めなかった。一方で、いずれかの時点におけるMET増幅陽性例はPFSが不良な傾向であった(p=0.1)。6例のPD-1阻害薬未投与例においてPD-1阻害薬とEGFR阻害薬の併用療法が施行され、全例でCPS≧1であったにもかかわらず、PFS中央値は2.0ヵ月(95% CI: 0.6-NR)であった一方で、PD-1阻害薬非併用例のPFS中央値は 5.0ヵ月(95% CI: 3.6-6.6)であった(p=0.04)。

 有害事象は、皮膚障害を52%(31例)に認め、うち1例でgrade 3の皮疹を認めた。また、8%(5例)でgrade 1-2の下痢を認め、数例において治療関連の倦怠感低Mg血症を認めた。減量を要した症例は1例のみであった。

 FH-FMI CGDBに登録されたGEA 2,662例のうち6.8%(182例)で腫瘍組織においてEGFR増幅陽性(copy number≧8)であった。そのうちの5%の症例でしかEGFR阻害薬が投与されていなかった。

 本研究のlimitationは、後方視的検討であることから画像の中央判定がされていないこと、EGFR増幅陽性の診断が複数の検査方法によるものであることが挙げられる。

 以上より、EGFR増幅陽性GEAにおいて、EGFR阻害薬が有効であることが示唆された。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 若林 宗弘



監訳者コメント:
EGFR増幅陽性胃食道腺癌に対するEGFR阻害薬開発の可能性

 これまでに、EGFR増幅陽性胃食道腺癌に対してEGFR阻害薬が有効であるという前臨床データや少数例の報告は散見された。しかし、本論文はEGFR阻害薬非投与例との比較、多数例によるEGFR阻害薬単独療法の有効性が示されている点が既報とは異なり、同対象に対するEGFR阻害薬の開発を支持する重要なrationaleと言える。一方で、本論文におけるMET増幅だけではなく、KRAS増幅を有する症例にはEGFR阻害薬が無効であることが報告されており、適切な対象を検討する上でco-alterationの存在を考慮する必要がある。これらの症例を開発対象から除外するのか、他剤との併用により克服を目指すのか、さらには開発対象として適切なEGFR copy numberのcut-offはいくつなのかなど、検討するべき課題はたくさんある。しかし、胃食道腺癌においてHER2、VEGFR-2に続く、新たな標的として薬剤開発が進むことが期待される。

 EGFR増幅陽性固形癌に対するEGFR阻害薬の有効性は、胃食道腺癌だけではなく臓器横断的に報告されており、さらには予後不良であることが複数の癌種で報告されている。今後、この予後不良な対象に対する臓器横断的な開発もしくは胃食道腺癌を含む複数の癌種における開発も検討され得ると考える。

監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 舛石 俊樹

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