論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

最新の論文紹介一覧へ
2009年1月~2015年12月の論文紹介
2003年1月~2008年12月の論文紹介

6月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優

大腸癌

Stage III結腸癌に対するOxaliplatin併用術後補助化学療法の投与期間(3ヵ月vs. 6ヵ月)に関する無作為化第III相試験(ACHIEVE試験)


この論文は無料です


Yoshino T, et al.: J Clin Oncol. May 5, 2022
[Online ahead of print]

 Stage III結腸癌に対するOxaliplatin+フッ化ピリミジンによる6ヵ月間の術後補助化学療法は、無病生存期間(DFS)および全生存期間(OS)を延長することが示されており1-6)、2004年以降、術後の標準治療として確立していた。しかしながら、特にOxaliplatin長期投与に伴う持続的な末梢神経障害(PSN: peripheral sensory neuropathy)が臨床的に問題となることが多く、治療期間の短縮が望まれた。そこで、Stag III結腸癌を対象としたOxaliplatin併用術後補助化学療法に関して、6ヵ月間投与に対する3ヵ月間投与の非劣性(および毒性軽減)を検証する6つの前向き試験の統合解析を行う国際共同研究であるIDEA collaborationが計画された。

 ACHIEVE試験は、IDEA collaborationの6試験の1つで、Oxaliplatin併用術後補助化学療法の6ヵ月間投与に対する3ヵ月間投与の非劣性を検証した本邦で行われた非盲検無作為化第III相試験である。2019年に本試験の結果は論文報告されている7)が、本論文では長期フォローアップにおける最終解析結果が報告された。

 本試験の適格基準は、20歳以上、Stage III結腸癌(RS直腸癌を含む)の根治切除後、ECOG PS 0-1、体表面積≦2.2m2、臓器機能正常であった。主な除外基準は、grade 1以上のPSN、既知のDPD欠損、Oxaliplatinの前治療歴であった。

 対象患者は、Oxaliplatin併用術後補助化学療法6ヵ月群(標準治療群)および3ヵ月群(試験治療群)に1:1で無作為に割り付けされた。治療レジメンはmFOLFOX6(Oxaliplatin 85mg/m2[day 1]+bolus 5-FU 400mg/m2[day 1]+infusion 5-FU 2,400mg/m2[day 1-3]+l-LV 200mg/m2[day1]、2週間毎)もしくはCAPOX(Capecitabine 1,500-2,000mg/m2[day 1夕-day 15朝]+Oxaliplatin 130mg/m2[day 1]、3週間毎)のいずれかであり、主治医判断で選択可能であった。層別化因子は、リンパ節転移の個数、参加施設、治療レジメン、原発部位、年齢であった。

 主要評価項目はDFSで、副次評価項目にはOSや副作用が含まれた。サブグループ解析の項目は、IDEA collaborationにおいて事前設定され、治療レジメン(mFOLFOX6、CAPOX)、再発リスク(高リスク[T4もしくはN2]、低リスク[T1-3およびN1])が含まれた。本試験の主目的は、IDEA collaborationのプール解析においてアジア人のデータを提供することであり、非劣性マージン、有意水準、αエラー、検出力等の統計学的な事前設定はされておらず、仮説検定に基づくサンプルサイズの計算はされていない。3年間の登録期間における予想イベント数やIDEA collaborationにおける地域差の検証に1,000例以上が必要であることに基づいて、必要症例数は1,200例以上とされた。

 本報告では、DFSおよびOSのupdate、再発後の予後に関する事後解析、PSNおよび手足症候群に関する安全性データのupdateが報告されている。

 2012年8月1日から2014年6月30日に、本邦の244施設において計1,313例の患者が登録され、6ヵ月群、3ヵ月群にそれぞれ656例、657例が割り当てられた。最終的に、計1,291例(6ヵ月群641例、3ヵ月群650例)がITT解析の対象となった。本報告におけるフォローアップ期間の中央値は74.7ヵ月であった。全体における年齢の中央値は66歳であり、T1-3/T4は各々72%/28%、N1/N2は各々74%/26%であり、治療レジメンはCAPOXが75%、mFOLFOX6が25%であった。患者背景において両群間に明らかな背景の差は認めなかった。

長期フォローアップにおけるDFS
 5年DFSは、3ヵ月群で75.2%、6ヵ月群で74.2%(HR=0.95、95%信頼区間[CI]: 0.77-1.18、p=0.64)であった。治療レジメン別の5年DFS(3ヵ月群vs. 6ヵ月群)は、mFOLFOX6群で各々68.6%、69.7%(HR=1.04、95% CI: 0.71-1.54、p=0.82)、CAPOX群で各々77.4%、75.8%(HR=0.91、95% CI: 0.71-1.18、p=0.49)であった。また、再発リスク別の5年DFS割合(3ヵ月vs. 6ヵ月)は、低リスク群で各々86.5%、84.8%(HR=0.85、95% CI: 0.59-1.23、p=0.39)、高リスク群で各々60.7%、61.5%(HR=1.04、95% CI: 0.80-1.35、p=0.75)であった。

 再発リスク別/治療レジメン別のDFSに関するサブグループ解析では、低リスク群において3ヵ月のmFOLFOX6は、6ヵ月のmFOLFOX6と比較して悪い転帰である可能性が示唆された(HR=1.41、95% CI: 0.68-2.91、p=0.35)。一方、低リスク群における3ヵ月のCAPOXは、6ヵ月のCAPOXと比較して良好な転帰である可能性が示唆された(HR=0.70、95% CI: 0.45-1.09、p=0.11)。高リスク群においては、いずれの治療レジメンでも3ヵ月群と6ヵ月群で概ね同等の転帰であった(mFOLFOX6[HR=1.01、95% CI: 0.63-1.60、p=0.98]、CAPOX[HR=1.07、95% CI: 0.78-1.46、p=0.70])。

 DFSに関する多変量解析では、T4(vs. T1-3、HR=2.46)、N2(vs. N1、HR=2.21)、郭清リンパ節12個以上(vs. 12個未満、HR=0.72)、CAPOX(vs. mFOLFOX6、HR=0.75)がDFSの独立した予後因子であった。

OS
 5年生存率は、3ヵ月群で87.0%、6ヵ月群で86.4%(HR=0.91、95% CI: 0.69-1.20、p=0.51)であった。治療レジメン別の5年生存率(3ヵ月vs. 6ヵ月)は、mFOLFOX6群で各々83.2%、84.6%(HR=0.99、95% CI: 0.61-1.60、p=0.95)、CAPOX群で各々88.3%、87.0%(HR=0.87、95% CI: 0.62-1.22、p=0.42)であった。また、再発リスク別の5年生存率(3ヵ月vs. 6ヵ月)は、低リスク群で各々92.7%、91.8%(HR=0.86、95% CI: 0.53-1.37、p=0.52)、高リスク群で各々79.8%、79.8%(HR=0.96、95% CI: 0.68-1.35、p=0.82)であった。

 再発リスク別/治療レジメン別のOSに関する解析では、低リスク群において3ヵ月のmFOLFOX6は、6ヵ月のmFOLFOX6と比較して悪い転帰である可能性が示唆された(HR=1.26、95% CI: 0.54-2.94、p=0.60)。一方、低リスク群における3ヵ月のCAPOXは、6ヵ月のCAPOXと比較して良好な転帰である可能性が示唆されており(HR=0.71、95% CI: 0.40-1.26、p=0.24)、いずれもDFSの解析と同様の傾向を認めた。高リスク群においては、いずれの治療レジメンでも3ヵ月と6ヵ月で概ね同等の転帰であった(mFOLFOX6[HR=0.91、95% CI: 0.50-1.65、p=0.75]、CAPOX[HR=0.99、95% CI: 0.65-1.50、p=0.95])。

 OSに関する単変量解析では、CAPOX(vs. mFOLFOX6、HR=0.66)、ECOG PS 1(vs. 0、HR=1.78)、T4(vs. T1-3、HR=2.47)、N2(vs. N1、HR=2.21)、高リスク(vs.低リスク、HR=2.58)、原発左側(vs.右側、HR=0.72)が有意な予後因子であり、多変量解析ではT因子、N因子、治療レジメン、原発部位が独立した予後因子であった。

再発に関する事後解析(post hoc analyses)
 3ヵ月群、6ヵ月群において、それぞれ145例(22%)、148例(23%)が再発した。再発後の5年生存率(3ヵ月群vs. 6ヵ月群)は各々39.6%、37.7%であり、再発後のOS中央値は各々46.1ヵ月、40.2ヵ月(HR=0.91、95% CI: 0.67-1.23、p=0.53)であった。

 試験登録から6ヵ月以内の早期再発患者(3ヵ月群vs. 6ヵ月群)について、再発後の5年生存率は各々17.9%、8.7%、再発後のOS中央値は各々25.8ヵ月、28.6ヵ月(HR=0.88、95% CI: 0.49-1.60、p=0.68)であった。試験登録から6ヵ月以降の再発患者(3ヵ月群vs. 6ヵ月群)について、再発後の5年生存率は各々45.5%、44.1%、再発後のOS中央値は各々56.8ヵ月、45.1ヵ月(HR=0.87、95% CI: 0.61-1.25、p=0.46)であった。

長期フォローアップにおける安全性評価
 治療期間中、3ヵ月群、6ヵ月群において、それぞれ73%、82%にany gradeのPSNが生じ(オッズ比[OR]=0.589、p<0.0001)、grade 2/3のPSNはそれぞれ13%/1%、30%/6%に生じた(OR=0.281、p<0.0001)。5年以上PSN(any grade)が持続した患者は、3ヵ月群、6ヵ月群で各々8%、16%(OR=0.424、p=0.0016)であり、6ヵ月群で有意に多かったが、治療レジメン別ではmFOLFOX6群で14%、CAPOX群で11%であり(OR=1.380、p=0.27)、mFOLFOX6群でやや多かった。

 手足症候群(HFS)(any grade)については、治療期間中、CAPOX群、mFOLFOX6群でそれぞれ45%、20%(OR=3.243、p<0.0001)に生じた。CAPOX 6ヵ月群において最も多く、3ヵ月治療群と比較して有意に頻度が高かった(any grade: 50% vs. 39%、OR=1.576、p=0.0005;grade 3: 3% vs. 0.8%、OR=0.3878、p=0.017)。

まとめ
 アジア人を対象として行われた本試験において、3ヵ月のOxaliplatin併用術後補助化学療法は、6ヵ月と比較して遜色ない臨床転帰が得られ、持続的なPSNの頻度が減ることが長期フォローアップにおいても一貫して示された。IDEA collaborationにおいて、6ヵ月群に対する3ヵ月群の非劣性は統計学的には示されていないものの、Stage III結腸癌に対する術後補助化学療法CAPOX 3ヵ月は、特に低リスクの患者において最適な治療である可能性が示唆された。


日本語要約原稿作成:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 久保田 洋平



監訳者コメント:
大腸癌術後補助化学療法のレジメ、投与期間の決定においてはshared decision makingの姿勢を

 大腸癌術後補助化学療法の至適投与期間を全世界レベルで検証したIDEA collaborationに参加したACHIEVE試験の長期フォローアップの結果である。論文の内容としては、①DFS、安全性のupdateと、②OSの追加である。

 まずDFSのupdateであるが、前回報告が3年DFS割合であったのが、今回は5年DFS割合が報告され、3ヵ月群、6ヵ月群を比較したときに全体集団では有意差は認めず、治療レジメ別、再発リスク別の解析でも有意差を認めなかった。次に、今回初めて報告されたOSであるが、全体集団、治療レジメ別、再発リスク別の解析のいずれにおいても有意差を認めなかった。IDEA collaboration全体では5年OSが3ヵ月群82.4%、6ヵ月群82.8%(HR=1.02、95% CI: 0.95-1.11、p=0.058)であり、その差は0.4%であるが統計学的には3ヵ月群の非劣性を証明できなかったこと、再発リスク別の検討において高リスク群では3ヵ月群72.0%、6ヵ月群74.1%と3ヵ月群の非劣性を証明できず、これらの部分はACHIEVEとの違いになる8)。この違いが日本、アジアという地域による特性なのか、症例数の問題なのかはデータからは判断はつかない。

 安全性のupdateでは前回報告の3年時点においてなんらかの末梢神経障害の症状が残っている症例が3ヵ月群10.0%、6ヵ月群23.3%であったのに対し、今回5年時点では3ヵ月群8%、6ヵ月群16%であり、6ヵ月群において高頻度に症状が遺残しており、患者のQOLに長期間影響しているであろうことが推測される。

 IDEA collaborationにアジアで唯一参加した臨床試験であるという事実は大腸癌治療開発における日本のプレゼンスを示すという意味で重要であり、また、本邦における大腸癌術後補助化学療法のメリットとリスクがエビデンスとして示された素晴らしい結果ではあるが、ACHIEVE試験単体とIDEA collaboration全体の比較、統計学的な正しさと臨床的な有用性の判断など、試験の解釈と臨床応用において非常に考えさせられる内容となっている。臨床現場においては患者、家族とこれらのエビデンスで得られたメリット、リスクを共有し、術後補助化学療法のレジメ、投与期間を決定していくshared decision makingの姿勢が必要である。

監訳・コメント:相澤病院 化学療法科 中村 将人

論文紹介 2022年のトップへ

このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場