8月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優
大腸癌
TRIPLETE試験:RAS野生型・BRAF野生型未治療切除不能進行・再発大腸癌に対するmFOLFOXIRI+PanitumumabとmFOLFOX6+Panitumumabの無作為化第III相比較試験
Rossini D, et al.: J Clin Oncol. 40(25): 2878-2888, 2022
FOLFOXまたはFOLFIRIと抗EGFR抗体薬の併用療法は、RAS野生型・BRAF野生型未治療切除不能進行・再発大腸癌(metastatic CRC: mCRC)の標準治療である1,2)。TRIBE試験の結果、FOLFOXIRI+Bevacizumabは進行・再発大腸癌に対する1次治療の標準治療の1つとなっている3)。これまでFOLFOXIRI+抗EGFR抗体薬の有効性は報告されているが、まだ確立されたものではない。またFOLFOXIRI原法との併用では強い消化器毒性のためFluorouracil(5-FU)、Irinotecanを減量することの安全性が報告されている。
本試験は、イタリアの57施設で行われたRAS遺伝子、BRAF遺伝子野生型未治療mCRCを対象にした前向き、非盲検、多施設、無作為化第III相試験である。患者は、ECOG PS(0-1または2)、主病変の局在(右側または左側:右側は盲腸-横行結腸、左側は脾湾曲部-直腸と定義)、肝転移の有無を層別化因子として、modified FOLFOX6(mFOLFOX6)+Panitumumab(対照群)とmodified FOLFOXIRI(mFOLFOXIRI)+Panitumumab(試験治療群)に1:1に割り付けられた。主な適格基準は、組織学的に結腸直腸腺癌と診断された、RAS(KRASおよびNRASエクソン2、3、4)およびBRAFコドン600がともに野生型の、RECIST評価で測定可能病変を有する、主な臓器機能に問題のない患者である。Panitumumabは両群ともに6mg/kg、mFOLFOXIRI群はOxaliplatin 85mg/m2、Irinotecan 150mg/m2、持続静注5-FU 2,400mg/m2/48時間で投与された。両治療ともにinduction治療としてmFOLFOXIRIまたはmFOLFOX6+Panitumumab併用療法を最大12サイクル投与後、maintenance治療として5-FU+Leucovorin+Panitumumabを不応、不耐または同意撤回となるまで継続した。治療の奏効により切除に至った症例では、術前、術後合わせて最大12サイクルinduction治療を行った。
本試験の主要評価項目はRECIST v1.1に準拠した主治医判定の全奏効割合(ORR)であり、副次評価項目は安全性、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、中央判定におけるORR、early tumor shrinkage(ETS)割合(投与前と比較して投与後8週時点においてRECIST評価で20%以上腫瘍縮小した患者の割合)、deepness of response(DoR)、R0切除割合である。
ORRはχ2検定を用い、対照群のORR推定値を60%、試験治療群の期待ORRを75%とし、両側α=0.05、検出力90%とした場合、432例のサンプルサイズが必要とされた。R0切除割合、ETS、DoRはχ2検定、またはMann-Whitney検定で比較され、オッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)はロジスティック回帰分析で解析された。
2017年9月から2021年9月までに435例が登録された。対照群には217例、試験治療群には218例が割り付けられた。431例(試験治療群218例、対照群213例)で少なくとも1サイクル以上の投与が行われ安全性が評価された。データカットオフは2022年3月7日である。患者背景は両群ともに差はなく、全例コーカソイド、年齢中央値は59歳、82%がECOG PS 0、左側大腸原発が88%、38%に転移性肝腫瘍が認められた。投与サイクルの中央値は両群ともに9サイクルであった(IQR: 6-12)。
主要評価項目であるRECIST評価における奏効は試験治療群の160例(73%)、対照群の165例(76%)で認められた(OR=0.87、95% CI: 0.56-1.34、p=0.526)。副次評価項目は、試験治療群/対照群におけるETS割合:57%/58%(p=0.878)、DoR:48%/47%(p=0.845)、R0切除割合:25%/29%(p=0.317)、PFS:median PFS 12.7ヵ月/12.3ヵ月(ハザード比[HR]=0.88、95% CI: 0.70-1.11、p=0.277)であり両群間に差は認められなかった。左側大腸のみに限るとORRは試験治療群で88%、対照群で76%と試験治療群で高い傾向は示されたが対照群は既報のPRIME試験の60%より高かった4)。
Grade 3-4の有害事象は試験治療群151例(69%)、対照群121例(57%)で認められた。Grade 3-4の有害事象(試験治療群/対照群)で多かったものは、好中球減少症(32%/20%)、下痢(23%/7%)、ざ瘡様皮疹(19%/29%)であった。重篤な有害事象は試験治療群の33%、対照群の21%で認められた。治療関連死は試験治療群の3例で認められ、1例が敗血症、2例が下痢によるものであった。対照群で治療関連死は認められなかった。
本TRIPLETE試験は、主要評価項目を満たさず、RASまたはBRAF野生型mCRCの1次治療としてPanitumumabの併用療法とした場合、mFOLFOX6と比較してmFOLFOXIRIは左側大腸でも期待された抗腫瘍効果を示さなかった。
日本語要約原稿作成:香川大学医学部 腫瘍内科 大北 仁裕
監訳者コメント:
RAS/BRAF野生型左側原発の進行再発大腸癌に対する初回薬物治療における抗EGFR抗体薬併用はDoublet療法で十分であることが示唆
国内臨床第III相試験であるPARADIGM試験の結果より、RAS野生型の左側原発進行再発大腸癌に対しては、Doublet+抗EGFR抗体併用療法による初回薬物療法が標準的な治療戦略と認識されている。一方、FOLFOXIRI療法に関しては、Doublet療法に比し良好な抗腫瘍効果およびそれに伴う生存延長効果により初回薬物療法における治療選択肢の一つと認識されているが、今回RAS/BRAF野生型大腸癌に対する一次治療でのPanitumumabとの併用において、mFOLFOX6と比較しmFOLFOXIRI療法は期待された抗腫瘍効果を示すことができなかった。
FOLFOXIRI療法と抗EGFR抗体薬との併用においては、消化器毒性や粘膜炎などの有害事象を強く認めることが報告されており、本試験においてもTriplet療法はIrinotecanおよび持続静注5-FUの用量がTRIBE原法よりmodificationされている。また、各治療群における導入療法の投与サイクル中央値はいずれも9サイクルではあるが、相対用量強度(RDI: relative dose intensity)はFOLFOX群で81%(持続静注5-FU: 82%、Bolus FU: 78%、Oxaliplatin: 82%)であったのに比し、mFOLFOXIRI群では75%(持続静注5-FU: 75%、Irinotecan: 72%、Oxaliplatin: 76%)であった。加えて、抗EGFR抗体薬であるPanitumumabの投与状況については報告されておらず、毒性により十分量の投与が試験治療群でなされなかった可能性がある。
本試験の結果からはRAS/BRAF野生型左側原発の進行再発大腸癌に対する初回薬物治療において、抗EGFR抗体薬との併用はDoublet療法で十分であることが示唆されたが、本邦で実施されたJACCRO CC-13(DEEPER試験)では、mFOLFOXIRI+Bevacizumab併用療法と比較してもmFOLFOXIRI+Cetuximab併用療法は良好な抗腫瘍効果が報告されており、同試験のPFSやOSといったsurvival dataに関する追加報告に注目したい。
- 1) Van Cutsem E, et al.: Ann Oncol. 27(8): 1386-1422, 2016 [PubMed]
- 2) National Comprehensive Cancer Network (NCCN) Guidelines: Colon Cancer Version 1.2022
- 3) Loupakis F, et al.: N Engl J Med. 371(17): 1609-1618, 2014 [PubMed]
- 4) Douillard J-Y, et al.: N Engl J Med. 369(11): 1023-1034, 2013 [PubMed]
監訳・コメント:高知大学医学部 腫瘍内科学講座 佐竹 悠良
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