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11月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

未治療の切除不能転移性大腸癌に対する高用量ビタミンCとFOLFOX±Bevacizumab併用療法の無作為化非盲検多施設共同第III相試験(VITALITY試験)


Feng Wang, et al.: Clin Cancer Res. 28(19): 4232-4239, 2022

 40年以上前の2つの後ろ向き試験で進行癌患者に対する高用量ビタミンC静脈内投与の生存期間の延長が示された1,2)。前臨床試験において、ビタミンCがさまざまな癌細胞を効果的に殺傷し、正常細胞には大きな影響を与えないことが観察されており、ビタミンCの静脈注射がマウスの腫瘍増殖を抑制することも示されている3,4)。また高用量ビタミンCがKRASあるいはBRAF変異を有する培養ヒト大腸癌細胞を選択的に殺傷し、Apc/KrasG12D変異マウスにおける大腸癌の進行を抑制することも観察されている5)。卵巣癌を対象に行われた第I/II相試験では、ビタミンCを標準化学療法に併用することでOSの改善傾向が示された。別の第II相臨床試験では、高齢の急性骨髄性白血病患者において、低用量ビタミンCとDecitabineの併用はDecitabine単独よりもOSを延長することが示された6,7)。現在までのところ、ビタミンCと化学療法併用の安全性と有効性を比較した第III相試験の報告はない。そこで、転移性大腸癌患者の第一選択治療として、高用量ビタミンC点滴静注+FOLFOX±Bevacizumab療法とFOLFOX±Bevacizumab療法の有効性と安全性を比較する無作為化多施設共同第III相臨床試験であるVITALITY試験が実施された。

 対象は18歳以上75歳以下で、RECIST ver1.1による測定可能病変を有する切除不能で転移巣に対する治療歴がないstage IV大腸癌患者であった。その他の適格基準にはECOG PS 0-2、G6PD値が正常、臓器機能が正常であることが含まれていた。大腸癌に対する術前および術後補助化学療法の既往のある患者も無作為化の12ヵ月以上前に治療が終了している場合は対象となった。2017年7月から2019年12月にかけて中国全土の14施設から患者が登録された。

 層別ブロック無作為化法により、患者は対照群とビタミンC群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化のための層別化因子は(i)Bevacizumab投与があるか否か、(ii)原発巣の位置(左側か右側か)、の2つであった。右側結腸は盲腸、上行結腸、横行結腸とし左側結腸は脾弯曲、下行結腸、S状結腸、直腸とした。

 ビタミンC群は、高用量ビタミンC(1.5g/kg/日をday 1からday 3まで3時間かけて静脈内投与)とmFOLFOX6(±Bevacizumab)が投与された。対照群ではOxaliplatin(85mg/m2、day 1)、Leucovorin(400mg/m2、day 1)、5-FU(400mg/m2、day 1+2,400mg/m2、46~48時間持続点滴)、±Bevacizumab(5mg/kg、day 1)が2週間毎に投与された。

 治療は最大12サイクルとし、病勢進行、許容できない毒性、医師または患者による試験からの離脱が決定されるまで継続された。12サイクル終了後、維持療法として5-FUまたはCapecitabineとBevacizumab(Bevacizumabによる治療歴のある患者のみ)を継続するかどうかは患者との相談により決定された。ビタミンCは12サイクル後に中止された。

 主要評価項目はPFSであり、副次評価項目はOS、RECIST ver1.1に基づくORR、および安全性であった。

 対照群のPFS中央値を8ヵ月、ビタミンC群の推定PFS中央値を11ヵ月とした。本試験は有意水準0.025の片側log-rank検定を用いて、PFSの改善を検出する検出力が80%となるようにデザインされた。登録期間は24ヵ月、追跡期間は12ヵ月と推定された。追跡期間中に失われる患者の割合を10%とすると1群あたり最低216例、合計432例の患者が必要であった。

 2017年7月から2019年12月にかけて442例の患者が登録された。全コホートの年齢中央値は57歳(範囲:18~75歳)であった。319例(72.2%)が左側原発で、RAS変異型が203例(45.9%)、BRAFV600E変異型が14例(3.2%)であった。無作為化以降の追跡期間中央値は24.5(範囲:0.73~42.5)ヵ月であった。各群の合計221例の患者が、割り当てられた治療を少なくとも1回受けた。治療期間中央値は、各群とも4.5ヵ月であった。ビタミンC群70例(31.7%)、対照群69例(31.2%)の合計139例(31.4%)が維持療法を受けた。

 ITT集団のPFS中央値は、ビタミンC群で8.6ヵ月(95% CI: 7.7-10.0)、対照群で8.3ヵ月(95% CI: 7.9-9.1)であった。全体として高用量ビタミンCによる治療はPFSを延長する傾向を示したが、対照群に対する優越性は統計基準を満たさなかった(HR=0.86、95% CI: 0.70-1.05、p=0.1)。

 RASまたはBRAFの状態に基づいたサブグループ解析では、RAS変異を有する患者はビタミンC群でPFSが有意に改善した(9.2ヵ月 vs. 7.8ヵ月、HR=0.67、95% CI: 0.50-0.91、p=0.01)。多変量解析では、化学療法に高用量のビタミンCを追加することがRAS遺伝子変異患者のPFSを延長する独立した因子であることが示された(HR=0.64、95% CI: 0.47-0.87、p=0.004)。さらに55歳以上ではビタミンC群のPFSは対照群より長いことも確認された。

 6ヵ月PFS率はビタミンC群と対照群の間で全コホート(70.0% vs. 70.5%、p=0.89)またはRAS突然変異を有する患者(66.6% vs. 63.6%、p=0.55)のいずれも統計的な差はなかった。

 ビタミンC群と対照群のITT集団のOS中央値はそれぞれ20.7ヵ月(95% CI: 18.6-23.0)および19.7ヵ月(95% CI: 18.2-23.0)であった(HR=1.04、95% CI: 0.81-1.33、p=0.7)。RAS遺伝子変異を有する患者ではビタミンC群は対照群よりもOSが長い傾向にあったが、その差は統計的に有意ではなかった(20.2ヵ月 vs. 16.8ヵ月、HR=0.79[95% CI: 0.55-1.13]、p=0.2)。

 ビタミンC群と対照群の奏効割合はそれぞれ44.3%(95% CI: 37.7-51.2)および42.1%(95% CI: 35.5-48.9)であった(p=0.9)。RAS遺伝子変異を有する患者においてもビタミンC群と対照群で統計的な差はなかった。

 Treatment-related adverse events(TRAE)はビタミンC群221例中192例(86.9%)、対照群221例中181例(81.9%)に発現した。Grade 3以上のTRAEはビタミンC群74例(33.5%)、対照群67例(30.3%)に発現した。ビタミンC群および対照群で最も多くみられたgrade 3以上のTRAEは、それぞれ好中球減少症(14.9% vs. 15.4%)、貧血(5.0% vs. 2.3%)、白血球減少(3.2% vs. 3.6%)、下痢(3.2% vs. 2.7%)、嘔吐(3.2% vs. 1.8%)、腸閉塞(2.3% vs. 4.5%)であった。ビタミンC群11例(5.0%)および対照群9例(4.1%)でTRAEによる治療中断が認められた。

 以上のように転移性大腸癌患者の一次治療として化学療法に高用量ビタミンCを追加してもPFSの有意な改善は認められなかったが、RAS遺伝子変異を有する患者には有益である可能性が示された。


日本語要約原稿作成:九州がんセンター 消化管・腫瘍内科 花村 文康



監訳者コメント:
切除不能大腸癌の一次化学療法において高用量ビタミンC併用の意義は示されず

 本研究は、大腸癌一次化学療法の標準治療であるFOLFOX±Bevacizumab療法において高用量ビタミンC点滴静注の併用効果を検証した第III相試験である。これまで化学療法に対する高用量ビタミンC併用の意義を検討した大規模な臨床試験が行われておらず興味深い論文である。

 主要評価項目であるPFSではビタミンC併用により有意な延長を認めず、高用量ビタミンC点滴静注併用の意義は示されなかった。副次評価項目であるORRやOSでも有意な改善がみられなかった。安全性ではコース毎のビタミンC併用による有意なgrade 3以上の有害事象の増加はみられなかった。

 KRAS遺伝子またはBRAF遺伝子変異を有する培養大腸癌細胞においてGLUT1グルコーストランスポーターを介してビタミンCの酸化型であるデヒドロアスコルビン酸(DHA)の細胞内取り込みが亢進し、細胞死を誘導することが報告されている5)。本研究のサブグループ解析では、RAS遺伝子変異症例に限るとビタミンC群で有意なPFSの延長を示したが、ビタミンC群のPFS中央値は9.2ヵ月であり約半数の症例にBevacizumabが併用されていないことを考慮してもやや物足りない結果に感じられた。また、RAS遺伝子野生型症例のPFSは、ビタミンC群8.3ヵ月、対照群9.7ヵ月(HR=1.18、95% CI: 0.88-1.59、p=0.3)(Supplementary data)とビタミンC群でやや不良であり気になるところである。さらにビタミンC群と対照群のOSについても20ヵ月前後と低調な結果であった。

 本研究のサブグループ解析では、RAS遺伝子変異症例で高用量ビタミンC併用の意義が示唆されたが、コース毎に3日間の静注が必要なため有害事象の明らかな上乗せがないとしても負担を強いるものであり、RAS遺伝子変異を有する大腸癌症例を対象とした一次化学療法の比較試験によりビタミンC併用の意義を検証する必要があると思われる。

  •  1) Cameron E, et al.: Proc Natl Acad Sci USA. 73(10): 3685-3689, 1976 [PubMed] 
  •  2) Cameron E, et al.: Proc Natl Acad Sci USA. 75(9): 4538-4542, 1978 [PubMed]
  •  3) Bram S, et al.: Nature. 284(5757): 629-631, 1980 [PubMed]
  •  4) Chen Q, et al.: Proc Natl Acad Sci USA. 102(38): 13604-13609, 2005 [PubMed]
  •  5) Yun J, et al.: Science. 350(6266): 1391-1396, 2015 [PubMed]
  •  6) Ma Y, et al.: Sci Transl Med. 6(222): 222ra18, 2014 [PubMed]
  •  7) Zhao H, et al.: Leuk Res. 66: 1-7, 2018 [PubMed]

監訳・コメント:宮崎大学医学部附属病院 臨床腫瘍科 細川 歩

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