8月
監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優
胃癌 食道胃接合部癌
切除可能な胃・食道胃接合部癌に対するDurvalumab+FLOT療法のランダム化第III相試験(MATTERHORN試験)
Yelena Y. Janjigian, et al.: N Engl J Med. 393(3): 217-230, 2025
切除可能な局所進行胃癌・食道胃接合部癌に対しては、欧米では、FLOT4試験1)の結果から、周術期FLOT療法(Fluorouracil、Leucovorin、Oxaliplatin、Docetaxel)が標準治療として確立されたが、それでも再発率は高く、さらなる生存向上のための治療開発が試みられてきた。一方、転移性胃癌・食道胃接合部癌では、免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor: ICI)と化学療法の併用が有効であることが報告されている2,3)。今回、抗PD-L1抗体薬であるDurvalumabを周術期FLOT療法に併用する意義を検証した国際共同プラセボ対照二重盲検ランダム化第III相試験であるMATTERHORN試験の結果が報告された。
本試験には日本を含むアジア、欧州、北米、南米の計20か国、147施設が参加した。対象は、18歳以上で癌に対しての治療歴がなく、PS 0-1で遠隔転移のない切除可能なstage II-IVA(AJCC 8th edition)の胃腺癌または食道胃接合部腺癌患者が登録された。周術期化学療法は4週間を1サイクルとして、FLOT療法(2週間毎に投与)に加え、4週間毎にDurvalumab 1,500mgを投与される群(Durvalumab併用群)とプラセボを投与される群(プラセボ群)に1:1でランダムに割り付けられた。両群ともに術前、術後に2サイクルずつ施行し、その後はDurvalumabもしくはプラセボを10サイクル継続投与された。手術は術前化学療法の最終投与日から4~8週で行われ、術後化学療法は手術日から4~12週で開始された。術前化学療法最終投与日から8週(56日)以上経過した場合を手術遅延と定義した。層別化因子には、地域(アジアまたは非アジア)、リンパ節転移の有無、PD-L1発現(Tumor Area Positivity[TAP]スコア≧1% vs. <1%)が設定された。PD-L1 TAPスコアは腫瘍面積を分母とし、腫瘍細胞+腫瘍関連免疫細胞の面積を分子とした割合と定義された。PD-L1発現の評価は中央判定で行われ、染色にはVENTANA PD-L1(SP263)アッセイが用いられた。
主要評価項目は、無イベント生存期間(event-free survival: EFS)であり、重要な副次評価項目として全生存期間(overall survival: OS)と病理学的完全奏効(pathological complete response: pCR)率が設定された。その他の副次評価項目は、無病生存期間(disease-free survival: DFS)、手術の完遂率、R0切除率、無転移生存期間(metastasis-free survival)、疾患特異的生存期間(disease-specific survival)、QOLが設定された。主要解析は全ランダム化集団を対象とし、層別化ログランク検定によりDurvalumab併用群がプラセボ群に対して優越性を示すかが検証された。試験全体のαエラーは両側5%に制御され、pCR率に0.1%、EFSに4.9%としてαが分配された。pCR率の解析は既に行われており、第2回中間解析におけるEFSの有意水準はO’Brien-Fleming法により両側検定で2.39%(p<0.0239)とされた。今回は、予定イベント数の41%に達した時点での第2回中間解析結果が報告された。
1,258例がスクリーニングされ、計948例(Durvalumab併用群474例、プラセボ群474例)が解析対象症例としてランダム化された。追跡期間の中央値は31.5か月であった。周術期化学療法や手術の完遂率、R0切除率、患者背景は両群でほぼ同様であった。約3割が食道胃接合部原発であり、2割程度がアジアからの参加であった。
主要評価項目であるEFS中央値は、Durvalumab併用群で未到達(95%信頼区間[confidence interval: CI]40.7~未到達)、プラセボ群で32.8か月(95% CI: 27.9~未到達)であり、ハザード比(hazard ratio: HR)0.71(95% CI: 0.58~0.86)、p<0.001とDurvalumab併用群で統計学的に有意なEFSの改善が認められた。24か月EFS率は、それぞれ67%、59%であった。サブグループ解析では、Durvalumab併用群の有効性を認めたが、女性、アジア地域、リンパ節転移なし、PD-L1 TAPスコア<1%、びまん性組織型では治療効果がやや劣る傾向を認めた。OSに関しては、OS中央値はDurvalumab併用群で未到達、プラセボ群で47.2か月(45.1~未到達)、p=0.03であった。OSについて事前に規定された有意水準はp<0.0001であるが、こちらは最終解析で正式に評価される予定である。また、pCR率はDurvalumab併用群で19.2%(95% CI: 15.7~23.0)、プラセボ群で7.2%(95% CI: 5.0~9.9)、相対リスク2.69(95% CI: 1.86~3.90)であり、Durvalumab併用群で高かった。
安全性に関しては、grade 3-4の治療関連有害事象は、Durvalumab併用群が340例(71.6%)、プラセボ群が334例(71.2%)と報告された。頻度の高いgrade 3-4の治療関連有害事象は、好中球減少、下痢、白血球減少、貧血であった。免疫関連有害事象はDurvalumab併用群で110例(23.2%)、プラセボ群で34例(7.2%)であった。有害事象による手術未施行例はDurvalumab併用群、プラセボ群でそれぞれ3例(0.6%)、2例(0.4%)であり、有害事象による手術遅延はそれぞれ11例(2.3%)、12例(2.6%)であった。主な有害事象のプロファイルも両群でほぼ一致しており、FLOT療法へのDurvalumab併用による新たな安全性上の懸念は認められなかった。
以上のMATTERHORN試験の中間解析結果より、切除可能な胃癌・食道胃接合部癌において、周術期FLOT療法へのDurvalumabの追加はEFSを統計学的に有意に延長し、新たな標準治療となる可能性を示した。
日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 消化管内科 宮下 優
監訳者コメント:
周術期免疫療法の新時代へ ―― MATTERHORN試験が示すFLOT+Durvalumabの可能性と今後の展望
MATTERHORN試験は、切除可能な胃・食道胃接合部腺癌に対し、周術期FLOT療法に抗PD-L1抗体Durvalumabを上乗せすることで、EFSとpCRの有意な改善を示した国際共同第III相試験である。OSについては現時点で統計学的有意差は認められていないが、15か月以降から生存曲線が離れてきており(HR=0.78)、最終解析の結果が待たれる。ATTRACTION-5試験が術後補助療法として化学療法へのICIの上乗せを示せなかったのに対し、本試験は非臨床でも示されている通り、術前からICIを導入することで多様なT細胞応答が誘導された可能性がある4)。また、非臨床で示されている通り、FLOTに含まれるOxaliplatinやDocetaxelが、KEYNOTE-585で使用されたCisplatinと比較して免疫環境を活性化し(免疫原性細胞死や抑制系免疫細胞の減少)、ICIとの相乗効果を発揮した可能性もある5)。KEYNOTE-585ではdMMR症例ではPembrolizumab群でEFS・OSともに良好な成績が示唆されたが、MATTERHORNではMSIはFoundationOne CDxを用いて測定され、評価不能・欠損も多く(約30%)、解析が不十分であった。今後の展望としては、FLOT+Durvalumab をバックボーンにCLDN18.2、HER2、FGFR2bといった標的治療との併用による個別化治療戦略も期待される。本邦での導入にはFLOTの毒性、術後治療完遂率、irAEへの対応体制など懸念はあるが、国内からのFLOT後方視的データにより一定の安全性が示されており6)、今後MATTERHORN試験の日本人サブグループ解析にも注目が集まる。MATTERHORN試験は免疫療法を含む周術期標準治療の再構築を促す意義深い成果である。
- 1) Al-Batran SE, et al.: Lancet. 393(10184): 1948-1957, 2019 [PubMed]
- 2) Janjigian YY, et al.: Lancet. 398(10294): 27-40, 2021 [PubMed]
- 3) Janjigian YY, et al.: N Engl J Med. 391(14): 1360-1362, 2024 [PubMed]
- 4) Versluis JM, et al.: Nat Med. 26(4): 475-484, 2020 [PubMed]
- 5) Liu P, et al.: Oncoimmunology. 11(1): 2093518, 2022 [PubMed]
- 6) Takei S, et al.: ESMO GO. 4(C): 100050, 2024 [ESMO GO]
監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 消化管内科 川添 彬人
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