ケースカンファレンス〜トップオンコロジストはこう考える〜

監修中島 貴子 先生聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学

日常診療で遭遇する症例を取りあげ、トップオンコロジストが治療方針を議論するケースカンファレンスをお届けします。

CASE3

2017年8月開催

高齢、合併症を有する
HER2陽性胃癌に対する治療戦略

  • 砂川 優 先生砂川 優 先生
    聖マリアンナ医科大学
    臨床腫瘍学
  • 谷口 浩也 先生谷口 浩也 先生
    愛知県がんセンター
    中央病院 薬物療法部
  • 佐藤 武郎 先生佐藤 武郎 先生
    北里大学医学部
    下部消化管外科
  • 工藤 敏啓 先生工藤 敏啓 先生
    大阪大学大学院
    医学系研究科 先進癌薬物療法開発学寄附講座

ディスカッション 2 2nd-lineの治療選択肢Discussion 2

2nd-lineとしてどのような治療を選択するか?

PTX単剤で開始し、Ramucirumabの追加を検討

砂川本症例は結果的にCapecitabine+Trastuzumabで治療を開始しました。3コース施行後にCT所見でPRを達成しましたが、11コース施行後にPDとなっています。原発巣の縮小を認めましたが、出血はありません。PS 0、grade 1の末梢神経障害の発現、EF 62%、腎機能低下を呈するHER2陽性胃癌ということを考慮すると、本症例の2nd-lineとしてどのような治療を選択されますか。

工藤先生

谷口私はPTX+Ramucirumabを選択します。

砂川工藤先生はいかがですか。

工藤難しい選択ですが、ステント留置が1枝のみで3年間発作がないものの、尿蛋白が認められる症例ですからPTX単剤を選択して開始し、様子をみながら可能であればPTX+Ramucirumabに切り替えるのがよいと思います。仮に冠動脈3枝ともステント留置されているような症例だとすれば、やはり血管の傷み具合はそれ相応のものと考えられるため、血管新生阻害薬の使用にはやや慎重になります。

砂川谷口先生、ステントを留置していてもRamucirumabを使用して問題ないのでしょうか。

谷口最近発作が起きていないのであれば問題ないと思いますが、確かに尿蛋白2+という状況でRamucirumabを使用するかは迷います。「サイラムザ適正使用ガイド」の中にも、初回投与前に尿蛋白2+以上の場合には、24時間蓄尿又は尿中の蛋白/クレアチニン比による定量検査が推奨されています(2g/日未満)。工藤先生がお話しされたように、PTX単剤から開始してRamucirumabを追加していくほうがよいかもしれませんね。

工藤本症例は降圧薬を複数服用しているようですが、薬剤数が多いにもかかわらず血圧コントロール不良となると、Ramucirumabは使用しにくいかもしれませんね。そうなると、PTX単剤のほうが適切かもしれません。

砂川佐藤先生、大腸癌でもRamucirumabが使用できるようになりましたが、冠動脈疾患の既往がある症例やステント留置例、尿蛋白2+例にはどのような治療を選択されますか。

佐藤基本的にステント留置例だからといって治療を控えることはありません。大腸癌では、ステント留置後に発作が起きていなければ、留置から半年以上経過後に抗VEGF抗体を投与しています。蛋白尿2+の状態でRamucirumabを投与すると、尿蛋白量がさらに増加する可能性もあるので、現実的には使用は難しいと思います。降圧薬については、先ほど先生方がご指摘されていたように、Ramucirumabの投与を検討する際には、服用薬剤数とともに、浮腫の有無を確認することが重要です。

Trastuzumab Beyond Progressionの可能性

砂川先生

砂川切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法のアルゴリズム4)では、1st-lineに引き続き2nd-lineでも継続してTrastuzumabを投与する、いわゆる「Trastuzumab Beyond Progression」のエビデンスはないと記載されていますが、現在Trastuzumab Beyond Progressionを検証するWJOG7112G試験が進行しています。また、KSCC1105試験は、FU製剤およびTrastuzumabに不応となった進行・再発HER2陽性胃癌・食道胃接合部癌患者さんを対象に、PTX単独療法を受けた群またはPTX+Trastuzumab併用療法を受けた群の有効性と安全性をレトロスペクティブに解析した試験で、PTX+Trastuzumab併用療法群がPTX単独療法群よりもOS期間が有意に長いことが示されています5)。観察研究ですのではっきりしたことは言えませんが、HER2遺伝子発現量による転帰の違いも検討されているようですし、今後の発表に期待したいと思います。

谷口当院の後方視的検討ではHER2陽性、特に強陽性例に対するTrastuzumab継続投与によりPFS期間の延長傾向を確認していますが、基本はPTX+Ramucirumabだと思います。Ramucirumabが使用できない場合にはTrastuzumab継続を検討しますが、ガイドライン上は推奨されていませんね。

砂川現時点ではTrastuzumab併用療法継続のエビデンスがないため、実臨床ではほとんど施行されていないですかね。

工藤当院の状況も同じです。Trastuzumab Beyond Progressionの確固たるエビデンスが存在しないこと、2nd-lineとしてのRamucirumabによる奏効率が高いことを考慮し、BeyondでTrastuzumabは選択していません。

砂川例えば、WJOG7112G試験でTrastuzumab併用療法継続のポジティブな結果が出た場合、選択に悩まれますか。どの程度、ポジティブな結果が出るかにもよると思いますが。試験結果がポジティブでOSが少しだけ良好という結果でも、この試験の主要評価項目はPFSですし、Ramucirumabの優先度は変わらないですかね。

谷口同感です。第II相試験のWJOG7112G試験と違ってRamucirumabのOS延長は第III相試験で示されていますから、基本的にはRamucirumabが優先されると思います。Trastuzumabに関しては、継続だけでなくもっと後方ラインでの再投与の可能性にも注目したいところです。

工藤BeyondにおけるTrastuzumabの有効性が高いというエビデンスが得られましたら使用を検討しますし、そこまで高くなかったとしてもRamucirumabを使用できない症例に対する選択肢の一つになると思います。

砂川先生方、本日は活発な議論をありがとうございました。高齢で合併症のあるHER2陽性胃癌患者さんの1st-line、2nd-lineの治療選択肢について、さまざまな視点から議論いただきました。今後発表されるエビデンスにも注目しつつ、実臨床にお役立ていただければ幸いです。

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