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皮膚障害-1 分子標的薬の皮膚障害  監修:遠藤 一司先生(明治薬科大学)
対策 2)

予防

 皮膚障害は抗EGFR抗体薬投与時に高頻度で発現するため、予防は欠かせない。米国で実施されたSTEPP試験3) では、Panitumumabの投与前日から予防的治療 (保湿剤・日焼け止め・ステロイド外用薬塗布およびドキシサイクリン内服) を行った群では、皮膚障害の発現後に治療を行った群に比べてGrade 2以上の皮膚障害の発現頻度が低下したと報告されている。
 当院の実際の処方例を以下に示す (表2)。皮膚障害の予防的治療として抗EGFR抗体薬の治療開始日からミノサイクリン (例:ミノマイシン®カプセル) (100〜200mg、分2) の内服と保湿剤の塗布を開始する。ステロイド外用薬についても、抗EGFR抗体薬投与開始時にあらかじめ処方しておき、皮疹発現時から塗布を開始できるようにしている。

表2:国立がん研究センター東病院における治療開始時の処方セット
表2:国立がん研究センター東病院における治療開始時の処方セット

対症療法

1) 皮疹への対策

 主な薬物療法は、ミノサイクリン内服、ステロイド外用薬塗布である。
 ミノサイクリンは、抗菌作用以外に抗炎症作用を示すとされており、治療開始日からミノサイクリンの内服を開始する。服用期間はSTEPP試験3) に準じて6週間を目安とし、その後の継続は皮膚障害の状態により担当医判断とする。ただしミノサイクリンには肝障害やめまいなどの副作用があるため、留意する必要がある。
 抗EGFR抗体薬に伴うざ瘡様皮疹は、細菌感染を伴わない無菌性の炎症性皮疹であり、ステロイド外用薬の塗布が有効である。塗布に際しては、部位による薬剤吸収率を考慮する必要がある。顔面の吸収率は前腕の13倍高いため4)、ステロイド外用薬の強さのランクを顔面と体幹とで変更する。
 当院の実際の処方例 (図3) を以下に示す。顔面にはミディアムのヒドロコルチゾン酪酸エステル (例:ロコイド®クリーム)、体幹部にはベリーストロングのジフルプレドナート (マイザー®軟膏) を処方し、塗り分ける。原則1日2回とし、皮疹発現時から皮疹部のみに塗布を開始する。皮疹が頭皮に発現した場合には、ローション剤が使用しやすい。

図3:国立がん研究センター東病院におけるステロイド外用薬の塗り分け
図3:国立がん研究センター東病院におけるステロイド外用薬の塗り分け

2) 皮膚乾燥への対策

 皮膚乾燥に対しては、ヘパリン類似物質 (例:ヒルドイド®ローション) などの保湿剤が有効である。投与開始日から予防的に保湿を行い、最低でも1日2回塗布し、乾燥が強い場合は頻繁に十分量を塗布する。ただ、尿素製剤は刺激があり、亀裂を伴う場合には適さないことがあるため、注意が必要である。また、そう痒がある場合には、抗ヒスタミン薬の内服も行う。

3) 爪囲炎への対策

 ストロング以上のステロイド外用薬の塗布を行う。短期間であればストロンゲストの使用も考慮される。洗浄やテーピング (図4) も有効な手段である。爪囲炎の対応は難渋することも多く、早期に皮膚科医へコンサルトを行うことが望ましい。過剰な肉芽に対して液体窒素による凍結療法などの処置を要することもある。

図4:テーピング (スパイラルテープ法) の例
図4:テーピング(スパイラルテープ法)の例

減量・中止基準

 抗EGFR抗体薬による皮膚障害は適切に対処することで改善がみられるため、コントロールが難しい場合は一時休薬することも必要である。特にGrade 3以上の重度の皮膚障害が発現した場合には、抗EGFR抗体薬の投与を延期し、用量の調節を行う。また、必要に応じて短期間のステロイド内服[プレドニゾロン (例:プレドニン®) 10mg/日]も検討する。

抗EGFR抗体薬の皮膚障害と有効性

 抗EGFR抗体薬による皮膚障害は臨床効果と相関するとの報告5, 6) があり、安易な投与中止は避けなければならない。皮膚障害のGradeを適切に判定し、上手にコントロールしながら治療を継続することが患者のメリットにつながる。

管理のポイント

スキンケア

 皮膚を清潔に保つことと、皮膚への刺激を避けて保護することが基本となる。入浴の方法や洗顔方法、化粧・クレンジング方法など、日常生活のなかで毎日行うようなことから見直していくとよい。
 例えば入浴時には、熱いお湯の使用や長時間の入浴は避け、低刺激性の石鹸を使用したうえで、入浴後15分以内の保湿クリームの塗布が勧められる。外出時には日光による刺激を防ぐため、日焼け止め (SPF30程度) を使用し、日傘やつばの広い帽子を着用すると効果的である。なお、長時間の外出や汗をかく場合は、日焼け止めを何度か塗り直す必要がある。また、化粧はなるべく行わないことが好ましいが、もし化粧をする場合には低刺激性の化粧品を選び、目元や唇のポイントメイクにとどめることが望ましい。いずれにしても、患者の日常生活に合わせながら、皮膚への刺激を避けるように指導することが重要である。

ステロイドによる副作用について

 ステロイド外用薬による全身的な副作用は少ない。また、局所的な副作用も不可逆的なものは少なく、ステロイド外用薬の休止・変更などにより改善されることが多い。副作用への懸念から弱いステロイド薬を漫然と使用するのではなく、適切な強さのランクのステロイド薬を適切な量と期間に使用することが、皮膚障害の改善には効果的である。

ステロイド外用薬の服薬指導について

 外用薬は患者にとって比較的簡便に使用できるものの、意外に適切に使用できていない場合が多い。塗布方法だけでなく、塗布量についても十分指導する必要がある。
 軟膏・クリームの1回の外用に必要な量はFTU (finger tip unit:人差し指の先から第一関節まで) がよく目安にされる。1FTUは約0.5gであり、成人の手掌2枚分に対する適量である。また、ローションの約0.5gは1円玉大とされる。

Reference

  • 1) Lacouture ME.: Nat Rev Cancer. 6(10): 803-812, 2006 [PubMed
  • 2) 吉野孝之・山崎直也:パニツムマブの実臨床 ベクティビックスを正しく使いこなすコツ メディカルレビュー社 (2010年)
  • 3) Lacouture ME, et al.: J Clin Oncol. 28(8): 1351-1357, 2010 [PubMed
  • 4) アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2006
  • 5) Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 25(13): 1658-1664, 2007 [PubMed
  • 6) Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 30(23): 2861-2868, 2012 [PubMed
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