副作用対策講座 |

免疫関連有害事象(irAE)  監修:室圭先生(愛知県がんセンター中央病院)
各irAEに共通した管理のポイント

 免疫チェックポイント阻害剤の投与開始前にPerformance Status(PS)、呼吸状態、排便状態、食欲、倦怠感の有無、自己免疫疾患の既往の有無を確認する。
 irAEの早期発見のためには、定期的な検査に加えて、患者の主訴を傾聴したうえで、適時検査を行っていくことが重要である。したがって、irAEの自覚症状を患者に十分に理解してもらうための患者指導が、副作用管理には非常に重要である。特にirAEによる倦怠感や体重減少の自覚症状は、癌に起因する全身症状にも類似しているため、注意が必要である。

irAEごとの管理のポイント

①Infusion reaction
[主な自覚症状]
 発熱、そう痒症、発疹、高血圧、低血圧、呼吸困難
[対策]
 軽症〜中等症の場合は上限90分を目安に、注入時間を緩めるか、もしくは投与を中止する。症状が改善しない場合、解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、副腎皮質ステロイドなどを投与する。次回投与時には解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン剤の予防投与を考慮し、必要に応じて副腎皮質ステロイドも併用する。重症の場合は投与を直ちに中止し、酸素吸入、アドレナリン、気管支拡張薬、副腎皮質ステロイド、昇圧薬の投与など、適切な処置を行う。重篤なinfusion reactionが発現した場合、原則次の投与は実施しない。
[管理のポイント]
 投与中および投与後の患者状態を確認する。投与翌日の発熱の可能性について患者指導を行う。2回目以降に初めて重度のinfusion reactionが発現することもあるので、毎回患者の状態に注意する。

②皮膚障害
[主な自覚症状]
 皮疹、水疱形成、紅斑、びらん、掻痒など
[Grade分類]表1

表1:Grade分類[有害事象共通用語規準(CTCAE)v5.0日本語訳JCOG版より引用]
表1

[管理のポイント1)
 Grade 1の皮疹については、抗ヒスタミン剤または外用の副腎皮質ステロイドで治療する。また、患者に対しては皮膚刺激性物質の使用および日光の曝露を避けるように指導する。

③下痢、大腸炎
[主な自覚症状]
 持続する腹痛、下痢、血便、タール便
[Grade分類]表2

表2:Grade分類[有害事象共通用語規準(CTCAE)v5.0日本語訳JCOG版より引用]
表2

[管理のポイント]
 Grade 1の下痢であれば、症状悪化に対するモニタリングを行いつつ、患者に対して症状悪化の際には速やかに病院に連絡するように指導する。Grade 2の発症が疑われる場合には投与を中断し、血液検査、CTや内視鏡検査を実施し、感染性、虚血性腸炎や炎症性腸疾患との鑑別を行う。また、副腎皮質ステロイドによる治療の開始を検討する。

④肝機能障害
[主な自覚症状]
 全身倦怠感、黄疸、悪心・嘔吐、皮膚そう痒感
[Grade分類]表3

表3:Grade分類[有害事象共通用語規準(CTCAE)v5.0日本語訳JCOG版より引用]
表3

[管理のポイント]
 臨床検査は、AST、ALT、総ビリルビン、ALP、γ-GTPのモニタリングを行う。
 Grade 1であれば、週1〜2回の臨床検査のモニタリングが推奨される。
 Grade 2以上を認めた場合、投与を中断し、irAE以外の要因の可能性を除去するために画像検査や血液検査を実施する。なお、重症度に応じて、1〜2mg/kg/日のメチルプレドニゾロン(または同力価のステロイド)の投与が行われるが、ステロイド治療に不応の場合は肝障害についてはミコフェノール酸モフェチル1g 1日2回の追加投与を検討する。インフリキシマブについては自己免疫性肝障害の発現が報告されており、使用は推奨されていない1)

⑤間質性肺疾患
[主な自覚症状]
 息切れ、呼吸困難、乾性咳嗽、胸痛、喘鳴、血痰
[Grade分類]表4

表4:Grade分類[有害事象共通用語規準(CTCAE)v5.0日本語訳JCOG版より引用]
表4

[管理のポイント]
自覚症状や胸部画像検査、血清マーカー(KL-6、SP-D)、SpO2のモニタリングを行う。
 発症が疑われる場合には、胸部X線の画像所見やマーカーの確認を行い、呼吸器感染症(ニューモシスチス肺炎)や肺水腫との鑑別を行う。
 間質性肺炎ではGrade 1であっても免疫チェックポイント阻害剤の投与は中止し、症状の改善がない場合は副腎皮質ステロイドによる治療を検討する。

⑥甲状腺機能障害
[主な自覚症状]
 甲状腺機能低下症:倦怠感、浮腫、寒がり、動作緩慢
 甲状腺機能亢進症:発汗増加、体重減少、頻脈、動悸、手指振戦
[Grade分類]表5

表5:Grade分類[有害事象共通用語規準(CTCAE)v5.0日本語訳JCOG版より引用]
表5

[管理のポイント]
 甲状腺機能低下症の検査所見として、FT4の低下やTSHの上昇があり、甲状腺機能亢進症の臨床所見として、頻脈(心房細動)がある。投与期間中は定期的(月1回程度)にTSH、FT3、FT4の測定を行うが、患者の自覚症状や検査所見に応じて、適時実施する。副腎機能低下症を併発する場合があるので、特に倦怠感が出現した際には甲状腺検査と併せてACTHやコルチゾールの追加測定を検討する。
 甲状腺機能障害に伴う症状の有無を確認し、FT4<0.9ng/dLもしくはTSH>10μU/mLを示した場合や、2回連続して異常値の場合、ホルモン補充療法としてレボチロキシンNa水和物25μg/日からの開始を検討する。しかし、副腎機能障害を合併している場合には、甲状腺ホルモンの補充のみを行うと、副腎不全を悪化させることがあるため、このような症例に対しては副腎皮質ホルモンの補充を先行する。
 甲状腺機能亢進症では、軽度であれば経過観察し、全身症状が強い場合は対症療法としてβ遮断薬の使用を検討する。重症の場合はステロイドの使用を検討する。

⑦副腎障害
[主な自覚症状]
 倦怠感、意識障害、思考散乱、悪心、低血圧
[Grade分類]表6

表6:Grade分類[有害事象共通用語規準(CTCAE)v5.0日本語訳JCOG版より引用]
表6

[管理のポイント]
 検査所見として、低血圧、低血糖、低Na血症、高K血症、貧血、低コレステロール血症、好酸球増加がある。これら自覚症状や、検査所見異常があれば、ACTH、コルチゾールを測定する。
 コルチゾールは日内変動があるため、測定は早朝空腹時に安静条件で実施することが望ましく、早朝空腹時で4μg/dL未満で副腎不全の可能性が高く、18μg/dL以上でほぼ否定的である。
 無症候であれば自覚症状をモニタリングし経過観察するが、症状を認める場合は、症状が安定するまで免疫チェックポイント阻害剤の投与中止を検討し、適切なホルモン補充療法を開始する。また、必要に応じてプレドニゾロン(5〜10mg/日)の投与開始を考慮する。重症例については初期治療として、静注ヒドロコルチゾン100〜200mgを速やかに投与後、以降は6時間ごとに25〜100mgを投与するか、100〜200mg/日の持続投与を行う。同時に輸液(Naとブドウ糖の補充)も1L/hrで開始し、3〜4L/日を目安に継続する。
 甲状腺機能障害を合併している場合には、甲状腺ホルモンの補充のみを行うと、副腎不全を悪化させることがあるため、このような症例に対しては副腎皮質ホルモンの補充を先行する。
 維持治療としてはヒドロコルチゾンを生理的補充量である10〜20mg/日投与する。

⑧1型糖尿病
[主な自覚症状]
 高血糖症状:口渇、多飲、多尿、体重減少
 糖尿病性ケトアシドーシス:著しい倦怠感、悪心・嘔吐
[糖尿病のGrade分類1)
 Grade 1:無症状または軽度な症状;空腹時血糖>ULN〜160mg/dL
 Grade 2:中等度の症状;空腹時血糖>160〜250mg/dL
 Grade 3:重度の症状;空腹時血糖>250〜500mg/dL
 Grade 4:重度の症状;空腹時血糖>500mg/dL
[管理のポイント]
 自覚症状や血糖値が空腹時126mg/dL以上、あるいは随時200mg/dL以上を認めた場合は注意が必要である。
 血糖値が300mg/dL以上など1型糖尿病を疑う血糖上昇を認めた場合は、インスリン治療の開始を検討のうえ、血清Cペプチド、尿ケトン体を検査する。糖尿病性ケトアシドーシスの場合には、輸液、電解質補充、速効型インスリン持続静注などの適切な処置を行う。
 劇症1型糖尿病発症時のHbA1cはあまり上昇しておらず、糖尿病関連自己抗体も原則として陰性である。

⑨腎機能障害
[主な自覚症状]
浮腫、頭痛、尿量減少、食欲不振
[管理のポイント]
 臨床検査は、血清クレアチニンのモニタリングを行う。
 ベースラインより1.5〜2倍の上昇を認めた場合にはirAE以外の要因の可能性も評価し、免疫チェックポイント阻害剤の一時的な中止を検討する。
 ベースラインより2〜3倍の上昇を認めた場合は、副腎皮質ステロイドの開始を考慮する。

※その他のirAE(神経障害、静脈血栓塞栓症、脳炎、重症筋無力症、心筋炎、血液毒性など)についても注意が必要である。

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