転移病変切除後の化学療法regimen
転移病変切除後の化学療法の効果を検討する臨床試験は、行われていますか。
はい。術後にFOLFOX regimenと何も行わなかった患者を比較した試験があります。以前は、肝転移巣切除後は肝動注用ポンプからFUDRを投与しましたが、今はFOLFOX、FOLFIRI、cetuximab、bevacizumabといったよい全身化学療法があるので、動注ポンプを用いた治療は人気がありません。日本ではどうですか。
持続静注ポンプはあまり使われませんが、動注ポンプはよく使われます。ところで、米国での化学療法の投与スケジュールを教えていただけますか。5-FUはbolus投与と持続静注の両方が行われていると聞いていますが、それは変わっていませんか。
そうですね。米国の腫瘍専門医は、Dr. de Gramontのデータを信じて5年間も de Gramont regimenでLV/5-FU投与を行っているので経験豊富です。ですから、FOLFOX 4、FOLFOX 6、FOLFIRIのような24時間、48時間の5-FU持続静注には習熟しています。また、FOLFOX 4 は1日目、2日目、3日目と患者さんを診なければならないのに対し、FOLFOX 6 は2日目の5-FU bolus投与が省略されているため、患者さんはインフューザーポンプをセットして帰宅し、2日後に再度受診すればよいのです。ですから、最近はFOLFOX 6がよく実施されています。
次に登場したのは、薬物動態特性が5-FUの持続静注に似ているcapecitabineです。Capecitabineは経口剤なので投与がとても楽なのです。確かに、L-OHPベースのregimen、XELOX(CapOx) regimen、CapIri regimenのようなCPT-11ベースのregimenは効果的な治療法です。しかしその一方で、capecitabineは初期用量での毒性が強いことが判明しています。患者さんにとって不快な手足症候群などの副作用に対応するためには、capecitabineの減量投与を考慮すべきかもしれません。
経口剤は静注製剤に比べて毒性が低いのではないかと思われがちですが、実際は異なります。米国で行われた最初の試験では、毒性が強すぎるということで L-OHPと capecitabineの用量はいずれも減量されました。確かに XELOX regimenは人気が高く、今後も使われ続けると思われますが、米国の腫瘍専門医はインフューザーポンプやカテーテルの使用を問題視していませんし、患者さんもよく受け入れているのが現状です。
FOLFOX 4 とFOLFOX 6 あるいはFOLFOX 7では、毒性に違いはなかったのですか。
ありませんでした。FOLFOX 6は持続静注が長く、便利なのでよく実施されていますが、FOLFOX 7はそれほど一般に実施されていません。
それ以外に関心が高いのは、OPTIMOX試験です。これは、FOLFOX 7(L-OHPの併用あり)6サイクルとsLV5FU2(併用なし)12サイクルを交互に実施する群と、FOLFOX 4を実施する対照群とを比較したものです。L-OHPの問題点は神経毒性で、FOLFOXに奏効する患者を3〜5ヵ月間治療すると神経毒性があらわれます。このため、服のボタンがかけられないなどの問題を受け入れるか、あるいはそれを防ぐための治療戦略をとる必要が出てくるのです。OPTIMOX試験では、FOLFOX 7の実施が順調なら、L-OHPを外して sLV5FU2を実施し、1年くらいして癌が進行し始めたら再び L-OHPを追加します。一般に、強い神経毒性があらわれる前にL-OHPを中止することが可能なので、患者さんにとってよい戦略です。
FOLFOXが奏効しわずかな転移があるだけの患者さんには、外科的切除、ラジオ波凝固療法(RFA:radiofrequency ablation)、経皮的エタノール注入療法、凍結療法などが行われます。
直腸癌の治療戦略
直腸癌に対する米国の治療戦略はどのようなものですか。
直腸癌治療は、2つの観点から変化しているので興味深いですね。米国の外科医は今、直腸間膜全切除術(TME)が最もよいと確信しており、若手の外科医は皆、TMEの訓練を受けています。
かつて、米国では、切除後の高リスク直腸癌患者に対する標準治療は5-FUと放射線療法の併用でした。それにより再発が減少し、生存率が改善することに疑いはありませんが、今は術前のchemoradiation に対する関心が高いのです。米国では、術前chemoradiation と術後 chemoradiationの無作為比較試験が何度も行われていますが、すべて失敗に終わっています。
NSABP R-03ですね。
はい。外科医の多くは、患者が3〜5ヵ月ほど待たなければいけないという理由で術前治療は好みません。
手術がいっそう難しくなりますしね。
その通りです。それで、自分の患者がそうした臨床試験に参加することを承認しないのだと思います。ご承知のように、ドイツの無作為比較試験がN Engl J Med誌に発表され、最終成績ではありませんが、術前放射線化学療法が術後補助放射線化学療法より局所再発の点で良好な成績を示すことが示唆されています。
今、多くのグループ、多くの外科医は、特に肛門縁に近い病巣では腫瘍縮小のための術前chemoradiation を好みます。ですから、標準的治療は変化しており、chemoradiation が手術前に行われるようになると思います。
かつて、chemoradiation における化学療法の標準は5-FUの持続静注でしたが、今はcapecitabineを放射線増感剤として用いることに関心が集まっています。また、FOLFOXを放射線療法と併行して実施する試みも実施されています。外科手術はまだ重要な役割を担っていると私は思いますが、術前治療は手術をいくぶん容易にし、予後を改善するかもしれないと思います。
海外の臨床試験成績を日本の癌治療に生かすには
Capecitabine、L-OHP、CPT-11のような重要な薬剤が日本でも臨床開発されましたが、capecitabine はまだ消化器癌への適応が認められておりません。L-OHPも最近まで承認されていませんでしたし、CPT-11は日本でそれほど多く使われていませんでした。そこで、これらの臨床試験から得た知見を日本の医師の日常臨床に発展させるためのアドバイスをお願いします。
CPT-11は米国で開発・承認された最初の抗癌剤で、5-FUに奏効しなかった進行結腸癌患者にもベネフィットがあることが明確に示されました。次にヨーロッパでL-OHPの研究が行われ、日本でも承認されました。Dr. de Gramontによる、L-OHPあるいはCPT-11を併用するFOLFOX とFOLFIRI は多くの医師に強い印象を与えました。
結腸癌は治療の選択肢の多い疾患ですが、それでもなお我々は新薬の開発にも興味を持っています。それによって、cetuximab や bevacizumab のようなオプションが増え続けます。日本ではcapecitabineが消化器癌の適応を得ていないということですが、米国ではUFTが承認されていません。UFTはcapecitabineと同じぐらい効果的であると個人的には思っているので、FDAがなぜ承認しないのか理由がわかりません。
米国と日本の違いの1つは、米国の医師と患者は、日本人よりも化学療法の毒性を受け入れる意志があることだと思います。例えばCPT-11による脱毛、骨髄機能抑制、神経毒性のリスクや重篤な下痢などです。それで、日本では患者の治療において、米国人ほど積極的な化学療法を望まないのかもしれません。私はそれが良いのか悪いのかわかりません。治癒が望める患者であれば、切除可能となるまで積極的な化学療法を行うことは有意義なことだと思います。しかし、治癒が望めない患者の命を少し延ばすために毒性の強い化学療法を行うことは、必ずしも必要だと思いません。
日本でも、結腸癌の臨床試験をしている医師のネットワークにとっては、今は非常にエキサイティングな時だと思います。例えばEGFRチロシンキナーゼ阻害薬である erlotinibは、非常に面白いと思います。また、PTK787/ZK222584 はこれまでに確認されている全てのVEGFレセプターを阻害し、結腸癌に有効です。さらに、SU11428 も VEGFレセプターを阻害する小分子化合物として期待されています。
早くこれらの薬剤が日本でも使用可能になるとよいですね。というのは、これらすべての選択肢を持つことで結腸癌に対する見方が変わるからです。予後はこれまでとまったく違ってきています。転移結腸癌に使用できる薬剤が5-FUしかなかった1990年代後半は生存期間中央値が12〜13ヵ月でしたが、現在は5-FU、L-OHP、CPT-11、bevacizumab、cetuximab を併用することによって25ヵ月以上に延長しています。
我々は、そのような大規模臨床試験の結果を実際の治療にブレークスルーさせることができなかったという日本の状況について少し心配しているのです。
どんな疾患でも、何を専門とする医師が実際に患者を治療するかが重要だと思います。米国の外科医は進行癌の患者を治療することはなく、腫瘍専門医に紹介します。腫瘍専門医は臨床研究プログラムで教育されているので、臨床試験に非常に興味を持ち、積極的に新しい治療に取り組んでいます。
一方、甲状腺癌の患者は腫瘍専門医ではなく内分泌科の医師が診ているので、甲状腺癌の臨床試験はあまり行われていません。腫瘍専門医は甲状腺癌の患者をあまり診ていないので、米国国立癌研究所(NCI)の臨床試験の登録を調べると、甲状腺癌患者は極めて少ないことがわかります。同様に、前立腺癌は泌尿器科医が治療していることが多く、腫瘍専門医はかなり進行した患者しか診ていないのです。
日本でも、進行・再発癌は外科医ではなく、腫瘍専門医に治療してもらう必要がありますね。
米国でも、都市部以外では腫瘍専門医の数が少なく外科医や一般医が癌患者を治療しています。抗癌剤の副作用などの知識に関するトレーニングを受けていないため用心深くなって、少量しか投与しない傾向があります。そうなれば、抗癌剤には dose effectがあるので、undertreatedとなり、まったく患者の助けにはなりません。
よくわかりました。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
<< 前のページへ 1 2 3
▲このページのトップへ