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4月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

大腸癌

TRICOLORE試験:転移を有する大腸癌に対する一次治療のS-1・Irinotecan併用+BevacizumabとmFOLFOX6もしくはCapeOX+Bevacizumabの無作為化非盲検第III相非劣性比較試験


Yamada Y, et al.: Ann Oncol. 29(3): 624-631, 2018

 転移性病変を伴う大腸癌の一次治療として、FOLFOX、CapeOX、FOLFIRIのいずれかにBevacizumabの併用が広く使用されている1,2)。FOLFIRIと比較して脱毛や消化器毒性が軽いことが多いため、FOLFOXやCapeOXのようなOxaliplatinベースのレジメンが日本や米国を含む多くの国々で一般臨床として使用されていることが多い。しかし、Oxaliplatinによる末梢神経障害は治療の中断につながることが多く、治療の継続性に対して負の一面をもつ。さらに、末梢神経障害は遷延することが多く、患者の日常生活の妨げになりQOLを低下させることもある1,3)。また、経口フッ化ピリミジン系薬剤とIrinotecanによる併用療法は大腸癌に対する一次治療としてまだ十分に評価されていない4)

 経口フッ化ピリミジン系薬剤であるS-1は日本で承認されており、European Medicines Agencyは胃癌で承認している。S-1は5-FUのプロドラッグであるTegafurとモジュレーターであるGimeracilとOteracil Potassiumの合剤である5)。大腸癌に対する二次治療において、S-1・IrinotecanはFOLFIRIに対して非劣性を示している6,7)。大腸癌一次治療において、S-1・IrinotecanとBevacizumab併用の3週1コースと4週1コースの二つの第II相試験において、有望な結果が報告されている8,9)

 これらの臨床試験に基づき、大腸癌の一次治療として、S-1・Irinotecan+BevacizumabがmFOLFOX6/CapeOX+Bevacizumabに対して無増悪生存期間(PFS)で非劣性を証明できるか検証した。

 TRICOLORE試験は前治療歴のない転移を有する大腸癌に対する日本で行われた非盲検多施設共同無作為化第III相試験である。

 主な適格基準は、組織学的に大腸腺癌であること、切除不能な転移を有する大腸癌、20歳以上、ECOG PS 0または1、化学療法もしくは放射線療法の治療歴なし、など。主な除外基準は、感覚性神経障害を有する、コントロール不能な下痢、消化管通過障害、症候性の腹膜播種、登録前6ヵ月以内の消化管穿孔歴、などであった。

 試験参加者は、mFOLFOX6/CapeOX+Bevacizumab(コントロール群)または3週もしくは4週毎のS-1・Irinotecan+Bevacizumab(試験治療群)に1:1で無作為に割り付けされた。施設毎に、試験参加時に事前にmFOLFOX6+BevacizumabもしくはCapeOX+Bevacizumabを、3週もしくは4週毎のS-1・Irinotecan+Bevacizumabを選択した。施設、術後補助化学療法の有無(なし、Oxaliplatinを含む、Oxaliplatinを含まない)、転移臓器数(0、1、2つ以上)を層別因子として、最小化法を用いて無作為化が行われた。

 mFOLFOX6+BevacizumabはBevacizumab(5 mg/kg)、Oxaliplatin(85 mg/m2)とL-Leucovorin(200 mg/m2)の同時投与、5-FU(400 mg/m2)のボーラス投与、5-FU(2,400 mg/m2)の持続静注を2週毎に投与した。CapeOX+BevacizumabはBevacizumab(7.5 mg/kg)とOxaliplatin(130 mg/m2)を3週毎にday1に投与し、Capecitabine 1,000 mg/m2をday1の夕食後からday15の朝食後まで1日2回内服し、7日間の休薬期間とした。3週毎のS-1・Irinotecan+Bevacizumabは、Bevacizumab(7.5 mg/kg)とIrinotecan(150 mg/m2)を3週毎にday1に投与し、S-1 40 mg/m2をday1の夕食後からday15の朝食後まで1日2回内服し、7日間の休薬期間とした。4週毎のS-1・Irinotecan+Bevacizumabは、Bevacizumab(5 mg/kg)とIrinotecan(100 mg/m2)をday1とday15に投与し、S-1 40 mg/m2をday1の夕食後からday15の朝食後まで1日2回内服し、14日間の休薬期間とした。mFOLFOX6+BevacizumabとCapeOX+BevacizumabはOxaliplatinによる感覚性神経障害を考慮して、Oxaliplatinの総投与量が600 mg/m2に達した時点で投与中止も可能とされた。

 画像診断による腫瘍評価は8週毎に行われ、RECIST version 1.1によって効果判定が行われた。有害事象はCTCAE v4.0によって評価された。FACT-C TOIスケールとFACT/GOG-Ntxスケールによって、治療開始時と16週・24週目にQOL調査が行われた。

 主要評価項目はPFS、副次評価項目は、全生存期間、治療成功期間(TTF)、奏効率、有害事象、QOL、QALYs、費用対効果、バイオマーカー解析であった。

 過去の試験の結果に基づき、PFS中央値は、コントロール群は11ヵ月、試験治療群は12ヵ月と見積もられた(ハザード比[HR]0.917)。主要評価項目のPFSに関して、HRの上限を1.25とし、検出力85%、片側αエラー0.025、予定集積期間を36ヵ月、追跡期間を18ヵ月とすると、必要症例数は434(必要イベント発生数374)となった。不適格な症例を見込んで、目標登録症例数は450とされた。HRの95%信頼区間(CI)の上限が1.25未満となれば、試験治療群のコントロール群に対する非劣性が証明されることとした。非劣性が証明された際には、優越性の検定も行うこととされた。主解析はITTに基づく最大の解析対象集団に対して行われた。

 本試験はUMIN-CTRに登録されている(000007834)。

 2012年6月1日から2014年9月16日までの間に、53施設から487例の症例が登録され、コントロール群に244人、試験治療群に243人が割り付けられた。無作為化の後で、大腸腺癌ではないことが2例で確認され、1例は同意を撤回したため、それらの症例は解析から除外された。患者背景は両群で偏りがなかった。

 PFS中央値は、コントロール群で10.8ヵ月(95% CI: 9.6-11.6ヵ月)、試験治療群で14.0ヵ月(95% CI: 12.4-15.5ヵ月)であった(HR=0.84、95% CI: 0.70-1.02)。PFSにおけるHRの上限は、設定した非劣性マージンである1.25を下回った(非劣性におけるp<0.0001、優越性におけるp=0.0815)。

 治療成功期間中央値は、コントロール群で7.7ヵ月(95% CI: 7.1-8.2ヵ月)、試験治療群で9.6ヵ月(95% CI: 8.2-11.0ヵ月)であった(HR=0.71、95% CI: 0.59-0.85、p=0.0002)。奏効率は、コントロール群で70.6%、試験治療群で66.4%であった(p=0.34)。治癒切除率はコントロール群で8.6%、試験治療群で12.4%であった(p=0.17)。全生存期間の解析は484例中218例(45%)でイベントが発生した時点で行われた。生存期間中央値は、コントロール群で33.6ヵ月(95% CI: 29.8-40.1ヵ月)、試験治療群で34.9ヵ月(95% CI: 31.9-42.4ヵ月)であった(HR=0.86、95% CI: 0.66-1.13)。

 有害事象は、grade 3以上の白血球数減少、好中球数減少、発熱性好中球減少症、血栓塞栓症、下痢の頻度がコントロール群よりも試験治療群で有意に高頻度であった。事後の解析では、CCr 70 mL/分以上と70 mL/分未満に分けたときに、grade 3以上の下痢はコントロール群では6.7%と6.5%だが、試験治療群では11.5%と19.6%であった。Grade 3以上の感覚性神経障害手足症候群、麻痺性イレウスが試験治療群よりもコントロール群で有意に多かった。CapeOXで1例、S-1・Irinotecanで4例、治療関連死亡を認めた。

 治療開始前時点で、436例(90.6%)でQOL質問票の回答が得られた。経過中、コントロール群と試験治療群でFACT-C TOIスコアに統計学的に有意な差は認めなかった。しかし、FACT/GOG-Ntxスコアは、試験治療群で有意に良い傾向を示した(p<0.01)。

 データカットオフの時点で試験治療を終了していた症例は、コントロール群で235例、試験治療群で226例であった。二次治療に移行したのは、コントロール群で206例(87.7%)、試験治療群で198例(87.6%)であった。コントロール群ではOxaliplatinは12例(5.8%)、Irinotecanは125例(60.7%)、Bevacizumabは111例(53.9%)、EGFR抗体薬は26例(12.6%)で投与され、試験治療群ではOxaliplatinは112例(56.6%)、Irinotecanは22例(11.1%)、Bevacizumabは106例(53.5%)、EGFR抗体薬は20例(10.1%)で投与されていた。また、試験治療群の106例(53.5%)が経口フッ化ピリミジン系薬剤の投与を受けていた。

 以上、本試験では、転移を有する大腸癌における一次治療のPFSにおいて、S-1・Irinotecan+BevacizumabのmFOLFOX6またはCapeOX+Bevacizumabに対する非劣性が証明され、推奨される標準治療の一つに加わった。


日本語要約原稿作成:北海道大学病院 消化器内科 川本 泰之



監訳者コメント:
大腸癌一次治療:選択の幅が広がる!
Irinotecan/S-1+Bevacizumab療法が新たな標準治療に!

 ご存知のとおり、FOLFIRI/FOLFOX+Bevacizumab療法は、切除不能進行再発結腸直腸癌の標準的一次化学療法であるが、中心静脈ポート留置が必要不可欠であり、46時間の5-FU持続静注を要する。この中心静脈ポート留置や5-FU持続静注は少なからず患者さんの生活を制限するため、外来で経口剤併用レジメンも併せて提示すると「経口剤併用レジメン」を希望する方が多い。

 これまで、一次治療において経口剤併用レジメンは、Oxaliplatin併用のCapeOX/SOX+Bevacizumab療法のみが本邦の標準治療と位置づけられており、Irinotecan併用療法に関しては全てFOLFIRIをベースとしたレジメンのみが選択可能であり、経口剤併用レジメン=Oxaliplatinベースの図式となっていた。

 TRICOLORE試験は本邦で開発されたIrinotecan/S-1+Bevacizumab療法(IRIS/Bev・SIRB)のFOLFOX/CapeOX+Bevacizumab療法に対する非劣性検証を目的とした試験であるが、上述のごとく、見事に非劣性を示し、あと一歩のところで優越性をも示せそうな結果であった(主要評価項目:無増悪生存期間)。既にこの結果は、昨年11月にPublicationされたPan-Asian adapted ESMO consensus guidelinesにおいて、推奨するDoublet+Bevacizumabレジメンの一つとして明記され、研究者が長きにわたって待ち望んでいた標準治療の座を勝ち取った。

 実際に臨床の現場では、脱毛を嫌い、Oxaliplatin併用レジメンを選択する患者さんも存在する一方、末梢性感覚ニューロパチーで細かい手作業(パソコン業務や趣味の手芸など)に制限が生じることを恐れ、Irinotecan併用レジメンを選択する方も決して少なくない。これまでそのような患者さんにはFOLFIRIベースでの治療を提示していたが、本試験の結果より胸を張って「Irinotecan/S-1+Bevacizumab療法」をお勧めできるようになった。

 上記、Pan-Asian adapted ESMO consensus guidelinesにも明記されているが、今日の大腸癌一次治療はRAS/BRAF遺伝子変異状況、腫瘍占拠部位により治療戦略を組み立てていく。その中、治療決定に重要な因子の1つに患者希望が挙げられている。経口剤併用レジメン/持続静注療法、Oxaliplatin/Irinotecanベースはまさに患者さんの希望を優先に考えるべきポイントであり、本試験の結果が患者選択の幅を大きく広げたことは揺るぎもない事実である。

  •  1) Yamazaki K, et al.: Ann Oncol. 27(8):1539-1546, 2016 [PubMed]
  •  2) Cassidy J, et al.: J Clin Oncol. 26(12): 2006-2012, 2008 [PubMed]
  •  3) André T, et al.: J Clin Oncol. 27(19): 3109-3116, 2009 [PubMed]
  •  4) Fuchs CS, et al.: J Clin Oncol. 25(30): 4779-4786, 2007 [PubMed]
  •  5) Satoh T, et al.: Expert Opin Pharmacother. 13(13): 1943-1959, 2012 [PubMed]
  •  6) Muro K, et al.: Lancet Oncol. 11(9): 853-860, 2010 [PubMed]
  •  7) Schmoll HJ, et al.: Ann Oncol. 23(10): 2479-2516, 2012 [PubMed]
  •  8) Yamada Y, et al.: Invest New Drugs. 30(4): 1690-1696, 2012 [PubMed]
  •  9) Komatsu Y, et al.: Acta Oncol. 51(7): 867-872, 2012 [PubMed]

監訳・コメント:北海道大学病院 消化器内科 結城 敏志

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