6月監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎
結腸癌
Stage III結腸癌に対する術後補助化学療法の投与期間(IDEA collaboration)
Grothey A, et al.: N Engl J Med. 378(13): 1177-1188, 2018
2004年以来、フッ化ピリミジン系薬剤とOxaliplatinの併用は、stage III結腸癌に対する術後補助化学療法として標準治療となっている。しかし、Oxaliplatinの神経毒性は患者の日常生活に潜在的な影響を与える。Oxaliplatinの神経毒性のリスクは累積投与量に依存し、実際の治療期間を超えて長期間持続するため1)、経験的に投与量を個別化するのは困難である。そのため、術後補助化学療法の期間を短縮してもその有効性が維持されれば、患者にとって有益であり、医療資源の削減にもつながる。このような背景から、FOLFOXやCAPOXの3ヵ月間投与は、3年DFS割合において6ヵ月間投与に劣らないという仮説を検討するため、stage III結腸癌患者を対象とした術後補助化学療法に関する6つの臨床試験によって前向きに集積されたデータを統合解析するInternational Duration Evaluation of Adjuvant Therapy(IDEA)collaborationが計画された。本共同研究では、ハザード比の両側95%信頼区間(CI)の上限が1.12を超えない場合、6ヵ月間投与に対する3ヵ月間投与の非劣性を証明できるとした。この非劣性マージンは3年DFS割合の2.7%の低下(72%から69.3%)に相当しており、臨床的に受容可能であるとしてIDEA共同研究者間のコンセンサスによって決定された2)。
IDEAは、12ヵ国でstage III結腸癌患者を登録したCALGB/SWOG 80702、IDEA France、SCOT、ACHIEVE、TOSCA、およびHORGの6つの無作為化第III相試験の協力によって2006年に立ち上げられた。各試験では、Oxaliplatinベースの術後補助化学療法を受ける患者が、3ヵ月間または6ヵ月間の投与期間に無作為に振り分けられ、DFSに対する効果が検証された。6つの試験のうち5つでは、FOLFOX43)、FOLFOX64,5)またはCAPOX5,6)のいずれかが使用された。米国とカナダで実施された試験では、CAPOXではなくmFOLFOX6のみが使用された。治療方法は治療する医師によって無作為に選択された。6つの試験は無作為化した日から、最初の再発日、二次性大腸癌の診断日、または任意の原因により死亡した日のうち、いずれか最初に発生した日で定義されたDFSを主要評価項目とした。本試験では、事前に決定した片側I型エラー率0.025で、6ヵ月群において3年DFS割合72%の非劣性マージンが得られれば、再発または死亡が3,390件発生した場合に、検出力90%で6ヵ月間投与に対する3ヵ月間投与の非劣性を宣言すると定義した。また、深達度(T)、リンパ節転移(N)および化学療法レジメン(FOLFOXまたはCAPOX)に従って定義されたサブグループによる3ヵ月群 vs. 6ヵ月群の非劣性の解析も事前に計画された。
2007年6月から2015年12月までの期間に、stage III結腸癌患者13,025例が同時に実施された6つの第III相試験に登録され、これらの患者のうち12,834例が、intention-to-treat解析の基準を満たしていた。患者およびその腫瘍の特徴のほとんどは類似していたが、いくつかの違いが顕著であった。T4の割合は、12.1%(TOSCA)から29.5%(SCOT)まで違いがあった。N2腫瘍の患者の割合は、IDEA Franceでは25.2%、HORGでは32.5%であった。またおそらく最も重要な違いとして、CAPOXまたはFOLFOXの使用が大きく異なっていた。CALGB/SWOG 80702では治療をFOLFOXのみに限定し、IDEA Franceの患者ではCAPOXを受けたのはわずか10%であったが、SCOT(66.5%)およびACHIEVE(75.1%)の患者の大半にはCAPOXの投与が行われた。全体として、CAPOXが約40%、FOLFOXが約60%であった。
治療アドヒアランスは、3ヵ月群より6ヵ月群で低かった。FluorouracilおよびCapecitabineについては、3ヵ月群では平均投与量はそれぞれ92.4%および91.2%であり、6ヵ月群ではそれぞれ81.6%および78.0%であった。Oxaliplatinについては、FOLFOXおよびCAPOXでの平均投与量はそれぞれ、3ヵ月群では91.4%および89.8%、6ヵ月群では72.8%および69.3%であり、両レジメンとも3ヵ月群と6ヵ月群の間に有意差が認められた(p<0.001)。
解析時点で、3,263件の再発または死亡(推定されたイベントの96.3%)が発生していた。この結果、非劣性解析では検出力は89%、追跡期間中央値が41.8ヵ月の時点で6ヵ月間投与に対する3ヵ月間投与の非劣性は確認されなかった[HR=1.07、95% CI: 1.00-1.15、p=0.11(3ヵ月群の非劣性)、p=0.045(6ヵ月群の優越性)]。3ヵ月群の3年DFS割合は74.6%(95% CI: 73.5-75.7)であったのに対し、6ヵ月群では75.5%(95% CI: 74.4-76.7)であった。
化学療法レジメンとは無関係に、補助化学療法の期間がより短いほうが有害事象の発生率が有意に低かった。治療期間中および治療休止後の期間におけるgrade 2以上の神経毒性は、6ヵ月群(FOLFOX 47.7%、CAPOX 44.9%)よりも3ヵ月群(FOLFOX 16.6%、CAPOX 14.2%)で有意に低かった。加えて、下痢、好中球減少症、血小板減少症、悪心、粘膜炎、疲労および手足症候群の発生率も治療期間が短いほど有意に低かった。
6ヵ月群に対する3ヵ月群の非劣性は集団全体では確認できなかったが、事前に規定されたサブグループ解析により、治療レジメン別の検証結果が明らかになった。FOLFOXにおいては、6ヵ月間投与は3ヵ月間投与よりも優れており(HR=1.16、95% CI: 1.06-1.26、6ヵ月間投与の優越性についてp=0.001)、3年DFS割合の差はすべてのstageを総合して2.4%(73.6% vs. 76.0%)であった。しかしCAPOXでは3ヵ月間投与のDFSのハザード比は0.95(95% CI: 0.85-1.06)であり、規定の非劣性マージンを満たしていた。CAPOXを用いた場合の3年DFS割合は、3ヵ月群と6ヵ月群でそれぞれ75.9%および74.8%であった。
N1(リンパ節転移が3個以下)およびN2(リンパ節転移が4個以上)を有する患者の間で、3ヵ月群 vs. 6ヵ月群のハザード比に有意差はなかった(HR=1.07、95% CI: 0.97-1.17)。T4の患者では、3ヵ月群は6ヵ月群よりも劣っていた(HR=1.16、95% CI: 1.03-1.31)。T1、T2、T3の全患者では、3ヵ月群の両側95% CIの上限は、規定の非劣性マージンよりも0.01高かった(HR=1.04、95% CI: 0.96-1.13)。また、T4またはN2の癌を有する患者は予後不良(3年DFS割合は約60%、他のstageでは約80%)であったため、低リスク(T1、T2、T3かつN1、全患者の58.7%)および高リスク(T4、N2、またはその両方、全患者の41.3%)各々における解析を探索的に行った。低リスク患者では、3ヵ月群は6ヵ月群に対して非劣性であり(HR=1.01、95% CI: 0.90-1.12)、3年DFS割合はそれぞれ83.1%と83.3%であった。しかし、高リスク患者では、3年DFS割合の絶対差が3ヵ月群(62.7%、95% CI: 60.8-64.6)と6ヵ月群(64.4%、95% CI: 62.6-66.4)で1.7%であったにもかかわらず、6ヵ月群は3ヵ月群よりも優れていた(HR=1.12、95% CI: 1.03-1.23、p=0.01)。なお、治療期間とリスクグループには有意な相互作用は認められなかった(p=0.11)。
低リスクの患者ではCAPOXの3ヵ月群は6ヵ月群に対して非劣性であり、3年DFS割合は85.0% vs. 83.1%(HR=0.85、95% CI: 0.71-1.01)であった。高リスクの患者ではCAPOXの3ヵ月間投与は6ヵ月間投与と比較して良好であったにもかかわらず、おそらくグループの患者数によって、3年DFS割合が64.1% vs. 64.0%(HR=1.02、95% CI: 0.89-1.17)で非劣性マージンを超えた。リスクグループとは無関係に、FOLFOXでは3ヵ月群の結果は6ヵ月群よりも悪かった。高リスク患者ではFOLFOXの6ヵ月間投与は3ヵ月間投与よりも優れており、3年DFS割合は61.5% vs. 64.7%であった(HR=1.20、95% CI: 1.07-1.3)。
結論として、FOLFOXまたはCAPOXによる術後補助化学療法を受けたstage III結腸癌患者では、6ヵ月群に対する3ヵ月群の非劣性は確認されなかった。しかし、CAPOXを投与した患者では、3ヵ月間投与は特に低リスク群において6ヵ月間投与と同様に有効であった。FOLFOXを投与された患者では、6ヵ月間投与が特に高リスク群でより高いDFSが得られた。これらのデータから、治療レジメン、投与期間、患者背景と、Oxaliplatinベースの治療を長期間行うことで難治性の神経毒性などのリスクが増大することを、比較考量すべきことが示唆される。
日本語要約原稿作成:北里大学医学部下部消化管外科学 古城 憲
監訳者コメント:
IDEAは治療方法が決定した後に、治療期間のオプションが生まれてくることを教えてくれた試験
IDEAは、12ヵ国で行われた6つの無作為化第III相試験の統合解析である。各々の試験で共通しているのは、当然のことながら、FOLFOXとCAPOXの3ヵ月治療の3年DFSが、標準治療である6ヵ月治療に劣らないという仮説を検討していることである。一方で、CALGB/SWOG 80702では治療をFOLFOX療法のみに限定し、IDEAフランスの患者ではCAPOXを受けたのはわずか10%であったが、SCOTおよびACHIEVEの患者の大半にはCAPOXが行われており、CAPOXとFOLFOXの使用が大きく異なっていたのを知っておくことが肝要である。
これだけ多くの国、施設が参加した大規模な研究で、全体として、統計学的にはNegative Studyとなったことは事実である。しかし、本研究では、我々が今まで知らなかった事実も種々教示してくれている。例えば、FOLFOX療法とCAPOX療法は、投与経路のみが違う同じ治療と考えていたが、補助療法では違うパワーのものかもしれないことが示された。またリスク分類も、より単純に分けられる可能性も示唆された。
IDEAでは、FOLFOXとCAPOXの両治療の良し悪しを決めているわけではない。元来、この2つの治療は同じ治療効果と考えてきたので、治療を施す側の好みが両治療の選択に大きくかかわっていた。現在、まず3ヵ月、6ヵ月の選択をどう考えるべきかを議論することが多いが、高リスクと低リスクだけではなく、患者さんの生活習慣やバックグラウンド、性格を加味して、まず治療(投与)方法を推奨し、相談した上で、治療(投与)方法を決定するほうが良いのではないかと考える。3ヵ月、6ヵ月を念頭におくと、治療方法がおのずと決定されてしまいかねない。少なくとも、どちらの治療においても3ヵ月間の全力治療は、アドヒアランスや有害事象をみても治療成績に影響を与えることは間違いないことである。治療方法が決定したその後に、治療期間のオプションが生まれてくることを教えてくれた試験と考えると、臨床学的に理解しやすいのではないだろうか。
- 1) Grothey A.: Semin Oncol. 30(4 Suppl 15): 5-13, 2003 [PubMed]
- 2) André T, et al.: Curr Colorectal Cancer Rep. 9: 261-269, 2013 [PubMed]
- 3) André T, et al.: N Engl J Med. 350(23): 2343-2351, 2004 [PubMed]
- 4) Alberts SR, et al.: JAMA. 307(13): 1383-1393, 2012 [PubMed]
- 5) de Gramont A, et al.: Lancet Oncol. 13(12): 1225-1233, 2012 [PubMed]
- 6) Haller DG, et al.: J Clin Oncol. 29(11): 1465-1471, 2011 [PubMed]
監訳・コメント:北里大学医学部下部消化管外科学 佐藤 武郎
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