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聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 准教授 砂川 優

固形癌

大腸癌以外の高頻度マイクロサテライト不安定性もしくはミスマッチ修復欠損を有する固形癌に対するPembrolizumabの有効性(KEYNOTE-158試験)


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Marabelle A, et al.: J Clin Oncol. 38(1): 1-10, 2020

 DNA修復の際に生じる相補的でない塩基対合(ミスマッチ)を修復する(mismatch repair: MMR)機能は、ゲノム恒常性の維持に必須の機能である。MMR機能が低下している(MMR deficient: dMMR)固形癌はさまざまな臓器に認められ、その頻度は固形癌全体の約2〜4%とされているが1-4)、子宮体癌では約17〜33%、胃癌では9〜22%、大腸癌では6〜13%と癌種により異なることが知られている5-7)

 MMR機能の低下により、1から数塩基の繰り返し配列(マイクロサテライト)の反復回数に変化が生じ、この現象をマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability: MSI)と呼び、MSIが高頻度に認められる場合をMSI-high(MSI-H)、低頻度に認められるまたは認められない場合をMSI-low/microsatellite stable(MSI-L/MSS)と呼ぶ。

 MSI-H固形癌では、MMR機能の欠損により、高頻度にゲノム変化を生じる。このためアミノ酸に変化を伴うタンパク質が合成されることがあり、その一部が腫瘍特異抗原(ネオアンチゲン)として発現し、T細胞が活性化される。一方でnegative feedbackとしてPD-1等の免疫チェックポイント分子の発現が誘導される。このように、MSI-H固形癌では免疫系が腫瘍制御機構に重要な役割を担っているため、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待される。

 PembrolizumabはPD-1に対するヒト化モノクローナル抗体であり、不活性化T細胞のPD-1に結合することにより、癌細胞や免疫細胞上のPD-L1およびPD-L2との結合を阻害することで、T細胞を再活性化する。その結果、MSI-H/dMMR固形癌に対して抗腫瘍効果を発揮する8)

 2015年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)ではMSI-H/dMMRを有する切除不能進行再発大腸癌、および、その他の固形癌に対するPembrolizumab(10mg/kg、2週毎投与)の有効性が報告され、MSI-L/MSS大腸癌では客観的奏効割合(objective response rate: ORR)0%に対し、MSI-H大腸癌で40%、大腸癌以外のMSI-H固形癌では71%と極めて高いORRを示し9)、その後、5つの臨床試験で認められたMSI-H/dMMR固形癌に対するPembrolizumabの有効性の統合解析と併せ、2017年に米国食品医薬品局(FDA)は切除不能または転移性のMSI-H/dMMR固形癌患者に対しPembrolizumabを迅速承認した。これは臓器を超えてMSI-HもしくはdMMRというバイオマーカーに基づいて試験が行われたこと、癌種毎では数十例から数例規模の臨床データから臓器横断的な癌種での承認を得た点で、極めて画期的な承認形態であった。わが国においても2018年12月、癌化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-H固形腫瘍(標準的な治療が困難な場合に限る)に対するPembrolizumabの適応拡大が行われている。

 KEYNOTE-158試験は、大腸癌以外の複数の癌種の進行性固形癌を対象に、Pembrolizumab(200mg、3週毎投与)の有効性と安全性を検証するマルチコホート(癌種別のコホートA-J、および、大腸癌以外のMSI-H/dMMR固形癌を対象としたコホートK)の第II相試験である。本論文では、KEYNOTE-158試験に登録された対象のうち、MSI-H/dMMR固形癌におけるPembrolizumabの有効性が報告されている。

 本試験の主要な適格基準は、18歳以上の、切除不能局所進行または転移性の大腸癌以外の固形癌、1次治療として標準的な化学療法に不応もしくは不耐、RECIST ver 1.1に準じた測定可能病変を有する、ECOG PS(performance status)が0または1、適切な臓器機能が保たれる、等とされた。また、試験治療開始前4週以内に何らかのモノクローナル抗体薬や治験薬を受けた症例、試験治療開始前2週以内に化学療法、分子標的薬、放射線療法の治療を受けた症例、免疫不全症を有する症例、試験治療開始7日以内に全身性ステロイド治療を受けている症例、過去2年以内に全身性の治療を要した活動性の自己免疫疾患を有する症例、脳転移や癌性髄膜炎を有する症例、間質性肺炎/肺臓炎を有する症例、全身性の治療を必要とする活動性の感染症を有する症例、抗PD-1、抗PD-L1、抗PD-L2の薬剤の治療歴を有する症例、等は除外された。

 MMR/MSIに関する評価は、PCR法によるMSI検査法もしくはMMRタンパク質免疫染色が用いられ、コホートA-Jに関してはレトロスペクティブな解析でMSI-H/dMMR固形癌と判定され、コホートKに関してはプロスペクティブな解析でMSI-H/dMMR固形癌と判定された対象が適格とされた。

 主要評価項目はORR、副次評価項目は奏効期間(duration of response: DOR)、無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)、全生存期間(overall survival: OS)、安全性であった。解析対象集団はPembrolizumabを1回以上投与されたすべての対象とした。

 2016年2月1日から2018年5月8日までに233例のMSI-H/dMMR固形癌症例が登録された。139例(59.7%)が2レジメン以上の既治療歴があり、対象癌種は27種、多い順に子宮体癌(21%)、胃癌(10.3%)、胆道癌(9.4%)、膵癌(9.4%)、小腸癌(8.2%)、卵巣癌(6.4%)などであった。

 中央判定による完全奏効(complete response: CR)は9.9%、部分奏効(partial response: PR)は24.5%であり、主要評価項目であるORRは34.3%であった。客観的奏効が得られた対象において、奏効までの期間(time to response: TTR)の中央値は2.1ヵ月(範囲:1.3〜10.6ヵ月)、DOR中央値は未到達であった。

 PFS中央値は4.1ヵ月(95% CI: 2.4-4.9ヵ月)、12ヵ月および24ヵ月時点での無増悪生存割合はそれぞれ33.9%、29.3%であった。またOS中央値は23.5ヵ月(95% CI: 13.5ヵ月-未到達)、12ヵ月および24ヵ月時点での全生存割合はそれぞれ60.7%、48.9%であった。

 治療関連有害事象(treatment-related adverse events: TRAE)は151/233例(64.8%)に認められ、grade 3以上のTRAEは34/233例(14.6%)に認められた。治療関連死は1例(肺炎)であった。重篤なTRAEは18例(7.7%)に認められ、TRAEによる治療中止は22例(9.4%)に認められた。頻度が高かったTRAEは、疲労(14.6%)、そう痒症(12.9%)、下痢(12.0%)、無力症(10.7%)であり、頻度が高かったgrade 3のTRAEは、γ-GTP上昇(1.7%)、肺臓炎(1.3%)であった。Grade 4のTRAEは3例に認められ、ギランバレー症候群が1例、ALT上昇が1例、好中球減少と腸炎の併発が1例であった。免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAE)もしくはインフュージョンリアクションは54/233例(23.2%)に認められ、12例(5.2%)においてはirAEもしくはインフュージョンリアクションにより治療中止となった。irAEの大半はgrade 1/2であったが、14例(6.0%)でgrade 3以上のirAEを認めた。頻度が高かったirAEは甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、腸炎、肺臓炎であった。Grade 3のirAEとして肺臓炎(1.3%)、重篤な皮膚反応(1.3%)、肝炎(0.9%)、甲状腺機能亢進症(0.4%)、腸炎(0.4%)、1型糖尿病(0.4%)、ギランバレー症候群(0.4%)、膵炎(0.4%)が認められ、grade 4のirAEを2例(ギランバレー症候群、腸炎)に認めた。

 以上の結果より、Pembrolizumab(200mg、3週毎投与法)は、臓器横断的にMSI-H/dMMRを有する固形癌に対して有望な治療であることが示された。


日本語要約原稿作成:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 白数 洋充



監訳者コメント:
大腸癌を除くMSI-H消化器癌患者におけるPembrolizumabの治療成績は?

 2018年12月に「癌化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-H固形腫瘍(標準的な治療が困難な場合に限る)」に対するPembrolizumabの条件つき早期承認が行われたが、臨床現場で参照すべき臓器別有効性データに乏しいのが現状であった。本論文はKEYNOTE-158試験のうち、大腸癌以外のMSI-H/dMMR固形癌を対象としたコホート233例を対象としている。とりわけ消化器癌については胃癌24例(10.3%)、胆道癌22例(9.4%)、膵癌22例(9.4%)、小腸癌19例(8.2%)が対象とされていた。この4癌種別の腫瘍縮小効果は、胃癌22例中CR 4例/PR 7例でORR 45.8%(95% CI: 25.6-67.2)、胆道癌22例中CR 2例/PR 7例でORR 40.9%(95% CI: 20.7-63.6)、膵癌22例中CR 1例/PR 3例でORR 18.2%(95% CI: 5.2-40.3)、小腸癌19例中CR 3例/PR 5例でORR 42.1%(95% CI: 20.3-66.5)であった。いずれの癌種も標準治療を終了した状況であることを考慮すると非常に高い有効性が示唆される。胃癌ではMSIステイタスにかかわらず実施された第III相試験のMSI-Hサブグループにより有効性が示唆されていたが、特に胆道癌・膵癌・小腸癌においては本研究結果が参照データとなりうる。症例数が多くはないため信頼区間に幅があるが、膵癌は相対的に腫瘍縮小を示す患者が少ない可能性はある。しかし膵癌でもDOR中央値は13.4ヵ月と長いため、縮小効果がある症例には生存延長に寄与していると考えられる。患者説明の際には本研究データが当面参考になるが、本邦でもMSI-H固形腫瘍を対象としたPembrolizumab使用全例成績調査が実施されており、将来的には臨床試験ではないものの各癌種において症例数がより多く、現実に即したデータを得ることができるかもしれない。本邦に限らずリアルワールドへの展開により各MSI-H固形腫瘍における免疫チェックポイント阻害薬の有効性の差異とその理由の検討が期待される。今後、大腸癌を除くMSI-H消化器癌に対し本研究結果が抗PD-1抗体単独療法の参照データとなるが、免疫チェックポイント阻害薬の併用などの新たな臨床試験も計画されており発展に期待したい。

監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 町田 望

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