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3月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

大腸癌

高頻度マイクロサテライト不安定性もしくはミスマッチ修復欠損を有する治療抵抗性切除不能進行・転移性大腸癌に対するPembrolizumabの有効性:非無作為化非盲検第II相試験(KEYNOTE-164)


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Dung T Le, et al.: J Clin Oncol. 38(1): 11-19, 2020

 Stage IV大腸癌の約5%は高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)であり、DNAミスマッチ修復欠損(dMMR)による高レベルの単塩基ミスマッチまたは挿入・欠失(Indel: insertion/deletion)の蓄積によるものである1)

 MSI-H/dMMR転移性大腸癌は、多くの場合右側結腸に好発し、低分化腺癌の割合が高く、BRAF遺伝子変異を認めることが多い。これらはすべて予後不良因子であり、一般的に、マイクロサテライト安定(MSS)大腸癌に比べて従来の化学療法に対する反応性が低く、予後不良である2-5)

 これまでにMSI-H/dMMR固形癌に対する抗PD-1抗体薬単独療法、あるいはMSI-H/dMMR大腸癌における抗CTLA-4抗体薬との併用療法の持続的な効果が示されている4-7)

 2015年の初期研究では、治療歴のあるMSI-H/dMMR大腸癌、大腸癌以外のMSI-H固形癌、MSS固形癌に対する抗PD-1抗体薬であるPembrolizumab療法の有効性が報告され、客観的奏効割合(ORR)はそれぞれ40%、71%、0%であった4)

 その後の最新の研究では、Pembrolizumab療法の有効性として、ORRはMSI-H/dMMR大腸癌で52%、大腸癌以外のMSI-H固形癌で54%と報告された5)

 また、2017~2018年の第II相試験では、治療歴のあるMSI-H/dMMR転移性大腸癌に対するNivolumab単独療法の有効性が報告され、奏効割合(RR)31%、12ヵ月全生存割合73%と示された。さらに、Nivolumabと抗CTLA-4抗体薬であるIpilimumabの併用療法では、RR 55%、12ヵ月全生存割合85%とさらに良好な成績が示された6,7)

 Pembrolizumabは、臓器にかかわらず、治療歴のあるMSI-H/dMMR固形癌に対して米国食品医薬品局(FDA)にて承認されており、フッ化ピリミジン+Oxaliplatin+Irinotecanによる前治療抵抗性のMSI-H大腸癌の治療にも認められている8)。また、Nivolumab(Ipilimumab併用の有無によらず)も、フッ化ピリミジン+Oxaliplatin+Irinotecanによる前治療抵抗性MSI-H大腸癌に対して承認されている9)

 KEYNOTE-164試験は、MSI-H/dMMRを有する治療歴のある切除不能進行・転移性大腸癌に対するPembrolizumab療法の有効性・安全性を検証した非無作為化非盲検第II相試験である。

 本試験の適格基準は、18歳以上のMSI-H切除不能進行・転移性大腸癌でフッ化ピリミジン、Oxaliplatin、Irinotecanなどの治療歴のある患者(2レジメン以上の治療歴のある患者をコホートA、1レジメン以上の治療歴のある患者をコホートB)とした。その他の適格基準は、前治療後から6ヵ月以内の不応、RECIST v1.1に準じた測定可能病変を有する、ECOG performance status(PS)0または1、臓器機能が保たれている、などであった。除外基準は、試験治療開始前2週間以内に抗PD-1/PD-L1/PD-L2抗体薬、モノクローナル抗体薬、化学療法、分子標的薬、放射線治療を受けた症例、自己免疫疾患、活動性の感染症(B/C型肝炎)、間質性肺炎/肺臓炎、HIV感染の既往を有する症例、などであった。

 患者は、Pembrolizumab 200mgを3週毎に、忍容不能な毒性発現、増悪、患者同意撤回まで、最長2年間投与された。主要評価項目はORR、副次評価項目は奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性などであった。

 2015年9月14日から2017年9月12日までに、コホートAに61例、コホートBに63例が登録され、観察期間中央値はそれぞれ31.3ヵ月(範囲0.2~35.6)、24.2ヵ月(範囲0.1~27.1)であった。2018年9月4日のデータカットオフ時点で、治療完遂はコホートAで34%、コホートBで17%であり、コホートBの16%が現在治療継続中であった。コホートAの66%、コホートBの67%が治療中止となり、病勢進行によるものが大半を占めていた。

 コホートAではORR 33%(95% CI: 21~46%)、病勢コントロール割合(DCR)51%であった。奏効までの期間(TTR)の中央値は4.3ヵ月でDOR中央値は未到達であった。コホートBではORR 33%(95% CI: 22~46%)、DCR 57%であった。TTR中央値は3.9ヵ月でDOR中央値は未到達であった。PFS中央値は、コホートAで2.3ヵ月、コホートBで4.1ヵ月、OS中央値はそれぞれ31.4ヵ月、未到達であった。また、コホートAとBのどちらにおいても前治療のレジメン数にかかわらず、ベースラインからの標的病変の縮小を認めた(コホートA:56%、コホートB:62%)。

 治療関連有害事象は、コホートAで62%、コホートBで70%に認められ、grade 3以上はそれぞれ16%、13%に認められた。治療関連死はなく、トランスアミナーゼの上昇と肺臓炎のため、それぞれ3%が治療中止となった。頻度の高い有害事象は、コホートAでは関節痛(16%)、悪心(16%)、下痢(13%)、無力症(13%)、そう痒症(13%)、コホートBでは疲労(17%)、甲状腺機能低下症(17%)、関節痛(11%)、下痢(11%)、甲状腺機能亢進症(11%)が認められた。免疫関連有害事象はコホートAで21%、コホートBで37%に認められ、grade 3以上のものとして、コホートAでは膵炎(3%)、肝炎(2%)、肺臓炎(2%)、重度の皮膚障害(2%)、コホートBでは肺臓炎(2%)、大腸炎(2%)が認められた。

 以上より、治療歴のあるMSI-H/dMMR転移性大腸癌に対するPembrolizumab療法の有効性が確認され、重要な治療選択肢であることが示された。


日本語要約原稿作成:久留米大学病院 がん集学治療センター 長主 祥子



監訳者コメント:
MSI-H/dMMR大腸癌患者に対するPembrolizumabの展望は?

 現在の臨床現場において、癌化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-H固形腫瘍(標準的な治療が困難な場合に限る)に対してPembrolizumabが使用可能である。その根拠となったKEYNOTE-158試験は、大腸癌を除くMSI-H/dMMR固形癌が対象とされていた10)。本論文であるKEYNOTE-164試験はMSI-H/dMMR大腸癌のみが対象とされている。

 本試験では、Pembrolizumab導入前に2レジメン以上の投与歴がある“コホートA”と1レジメン以上の投与歴がある“コホートB”の2つのグループに分けて、それぞれの治療効果が報告された。ORRは、いずれのコホートにおいても33%という結果であった。特筆すべきは、いずれの治療タイミング、RASBRAF変異の有無にかかわらず、奏効が得られた場合には、良好な持続性奏効割合を示した点である。また、Pembrolizumabを後方ラインで導入するよりも、化学療法暴露の少ないフロントラインで使用するほうがより効果が高いと考察された。KEYNOTE-177試験では、MSI-H/dMMR大腸癌患者を対象に、一次治療で標準治療とPembrolizumab療法の抗腫瘍効果を検証する第III相試験が進行中である11)。本試験結果から、同薬剤をフロントラインで導入する意義が明らかにされる。

 本邦における、約25,000人の固形癌患者を対象としたMSIステイタスの研究結果が赤木らから報告された。MSI-H/dMMR大腸癌の頻度は、子宮体癌(17.0%)、小腸癌(9.2%)、胃癌(6.7%)、十二指腸癌(5.8%)に次ぐ5番目で3.8%という結果であった12)。稀なポピュレーションではあるものの、MSI-Hであった場合のPembrolizumabにより得られる生存期間延長のメリットは、従来の化学療法と比較すると大きいと考えられる。現在フロントラインの試験が進行中であることを考慮すると、早い段階でMSI検査を提出する必要があるだろう。しかしながら、コホートAで46%、コホートBで40%、Pembrolizumabの効果が得られない集団が存在することも事実である。MSI-H/dMMRはPembrolizumabの効果予測に有用なバイオマーカーであるが、ポテンシャルバイオマーカーとしては、腫瘍内T細胞浸潤、PD-L1発現、tumor mutation burdenなどが存在する。将来的には、免疫治療に影響を及ぼすメカニズムと考えられる腫瘍固有因子(遺伝子変異や多様性)、外因性因子(腫瘍環境やHLA拘束性)などをコホート分類に加えた臨床試験開発に期待したい。

 また、本邦においてはCheckMate-142試験の結果から、「フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法による治療中または治療後に病勢進行した、もしくは同治療法に忍容性がなかった再発または転移性のMSI-HighまたはdMMRを有する結腸・直腸癌患者」に対してNivolumabの投与も可能である6)。一方で、FDAは同じ対象に対してNivolumab+Ipilimumabの併用療法を承認している7)。今後、本邦においても併用療法の承認が待たれる。

監訳・コメント:久留米大学病院 がん集学治療センター 深堀 理

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