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9月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

食道癌

ESCORT:切除不能進行・再発食道扁平上皮癌に対する2次治療としてのCamrelizumabと化学療法を比較した第III相試験


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Huang J, et al.: Lancet Oncol. 21(6): 832-842, 2020

 食道癌は、世界で7番目に発生頻度が高く、6番目に死者数の多い悪性腫瘍である。アジア以外の地域では食道癌の組織型として腺癌の頻度が高いが、中国を含むアジア地域では扁平上皮癌が約90%を占めている1,2)。切除不能進行・再発食道扁平上皮癌の1次化学療法として、Taxane系薬剤やCisplatin、Fluorouracilが一般に使用されるが、1次治療に不応・不耐となった後の2次治療における薬剤の選択肢は乏しい。

 これまでに食道扁平上皮癌を対象に含んだ抗PD-1抗体の有効性を検証した複数の臨床研究において、有望な有効性と安全性が報告されてきた3-5)。ATTRACTION-3試験では、NivolumabがTaxane系の化学療法との比較で全生存期間(OS)の有意な延長を示し(OS中央値:Nivolumab 10.9ヵ月vs. Taxane系8.4ヵ月、ハザード比(HR)[95% CI]=0.77[0.62-0.96])6)、またKEYNOTE-181試験ではPD-L1陽性(combined positive score[CPS]≧10)の食道扁平上皮癌に対して、PembrolizumabがTaxane系またはIrinotecanとの比較でOSの有意な延長を示した(OS中央値:Pembrolizumab 10.3ヵ月vs. 化学療法6.7ヵ月、HR[95% CI]=0.64[0.46–0.90])7)。この結果から、治療歴のあるPD-L1陽性の食道扁平上皮癌に対してPembrolizumabがFDAに承認された。一方、中国では食道扁平上皮癌の罹患率が高いが、有効な治療法が限られており、免疫チェックポイント阻害薬のような有望な新薬の開発がアンメットニーズであった。

 CamrelizumabはPD-1への親和性の高い完全ヒト化選択的IgG4-κモノクローナル抗体で、幅広く固形癌に対して活性を示し8-12)、第I相試験ではCamrelizumabは既治療の切除不能進行・再発食道扁平上皮癌に対して有望な抗腫瘍効果と良好な忍容性を示した8)。Camrelizumabの奏効割合(ORR)は33.3%、無増悪生存期間(PFS)中央値は3.6ヵ月であった。この結果から、切除不能進行・再発食道扁平上皮癌の2次治療としてのCamrelizumabの化学療法に対する優越性を検証する第III相試験(ESCORT試験)を行った。

 ESCORT試験は、中国の43施設で行われた無作為化非盲検第III相試験である。主な適格基準は18~75歳で、組織学的または細胞学的に食道扁平上皮癌と診断され、進行、再発あるいは遠隔転移例で、1次化学療法後の増悪(再発または転移例に対する化学放射線療法も含む)あるいは不耐例であった。根治的化学放射線療法または術前化学療法後6ヵ月以内の再発例も対象とした。またRECIST version 1.1に基づき少なくとも1つの測定可能病変を有し、ECOG PSが0-1、12週間以上の予後を見込める症例とした。主な除外基準は5年以内に他の悪性腫瘍と診断された症例、中枢神経転移を有する症例、活動性の自己免疫疾患の既往、抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体による治療歴、試験開始2週間前までにステロイドあるいは免疫抑制剤の使用歴、試験開始4週間以内にモノクローナル抗体や化学療法、分子標的薬、放射線治療歴のある症例とした。

 適格症例はCamrelizumab(200mg、2週間毎)または治験責任医師が選択した化学療法(Docetaxel 75mg/m2、3週間毎あるいはIrinotecan 180mg/m2、2週間毎)のいずれかに1:1に無作為に割り付けられた。

 治療は不応、不耐、同意撤回、または治験責任医師の中止判断のいずれかまで継続された。治療開始前に採取した腫瘍検体を用いて、腫瘍細胞のみにおけるPD-L1発現を6E8抗体による免疫染色にて評価した(1%以上を陽性と判定)。またEuropean Organisation for Research and Treatment of Cancer(EORTC)のQLQ-C30およびEORTC QLQ-OES18スケールを用いて治療開始から最終投与30日後まで8週間毎にQOLの評価を行った。

 主要評価項目はOSであり、副次評価項目はPFS、ORR、健康関連QOLであった。Camrelizumabの有効性とPD-L1発現またはその他のバイオマーカーとの関連を探索的評価項目とした。

 化学療法によるOS中央値を7.0ヵ月、Camrelizumabによる治療により2.5ヵ月の延長(HR=0.74)を見込み、有意水準は両側5%、検出力80%と設定し、必要イベント数は365例と算出された。20%の脱落を見込んで、438例を予定登録数とした。

 2017年5月10日から2018年7月24日までの間に、457症例が登録され無作為に割り付けられた(Camrelizumab群229例、化学療法群228例)。

 OS中央値はCamrelizumab群では8.3ヵ月(95% CI: 6.8-9.7)で、化学療法群で6.2ヵ月(95% CI: 5.7-6.9)であった(HR[95% CI]=0.71[0.57-0.87]、p=0.0010)。

 Kaplan-Meier法による6ヵ月生存割合は、Camrelizumab群で63%(95% CI: 56.5-69.1)、化学療法群で55%(95% CI: 47.7-60.9)、12ヵ月生存割合はCamrelizumab群34%(95% CI: 27.6-39.9)、化学療法群22%(95% CI: 17.0-28.1)であった。サブグループ解析では、年齢・性別・PD-L1の発現など分類されたすべてのサブグループにおいて化学療法と比較しCamrelizumabにおいて良好な傾向を示した。

 ベースラインのPD-L1発現が1%以上の症例では、OS中央値はCamrelizumab群で9.2ヵ月(95% CI: 7.0-11.2)、化学療法群で6.3ヵ月(95% CI: 5.5-7.5)であった(HR[95% CI]=0.58[0.42-0.81]、p=0.0014)。層別Cox比例ハザードモデルにおける相互作用項としてPD-L1発現を評価すると、相互作用のp値は0.13であり、PD-L1発現によらず化学療法に対するCamrelizumabのOSにおける有効性が示唆された。

 PFS中央値はCamrelizumab群では1.9ヵ月(95% CI: 1.9-2.4)で、化学療法群では1.9ヵ月(95% CI: 1.9-2.1)であった(HR[95% CI]=0.69[0.56-0.86]、p=0.00063)。6ヵ月無増悪生存割合推定値はCamrelizumab群で22%(95% CI: 16.4-27.3)、化学療法群で4%(95% CI: 2.0-8.5)であった。

 ORRは、Camrelizumab群20.2%(95% CI: 15.2-26.0)、化学療法群6.4%(95% CI: 3.5-10.5)であり、奏効例における効果持続期間の中央値はCamrelizumab群7.4ヵ月(95% CI: 3.8-10.8)、化学療法群3.4ヵ月(95% CI: 0.9-未到達)であった(HR[95% CI]=0.34[0.14-0.92]、p=0.017)。

 治療関連有害事象の発生割合はCamrelizumab群228例中215例(94%)、化学療法群220例中198例(90%)で、grade 3以上の有害事象はCamrelizumab群228例中44例(19%)、化学療法群220例中87例(40%)であった。主なgrade 3以上の有害事象は貧血(Camrelizumab群6例[3%]vs. 化学療法群11例[5%])、肝機能異常(4例[2%]vs. 1例[<1%])、下痢(3例[1%]vs. 9例[4%])、無力症(3例[1%]vs. 6例[3%])などであった。重篤な治療関連有害事象はCamrelizumab群228例中37例(16%)、化学療法群220例中32例(15%)で報告され、治療関連の有害事象による死亡はCamrelizumab群では7例、化学療法群では3例であった。

 Camrelizumab群228例中202例 (89%)で免疫関連有害事象を認め、reactive capillary endothelial proliferation(RCEP)182例(80%)、甲状腺機能低下症44例(19%)、皮膚反応20例(9%)、肝炎19例(8%)、肺臓炎17例(7%)、甲状腺機能亢進症14例(6%)であった。

 RCEPはCamrelizumabに関連する有害事象であり発症頻度は高いが、grade 1(162例[71%])またはgrade 2(19例[8%])が多く、grade 3は1例(<1%)のみであった。RCEPを発症した症例のOS中央値は10.1ヵ月(95% CI: 8.5-11.5)、発症しなかった症例のOS中央値は2.5ヵ月(95% CI: 1.9-3.3)で、HR=0.21(95% CI: 0.15-0.31)であった。

 健康関連QOLに関してEORTC QLQ-C30およびEORTC QLQ-OES18スケールを使用して評価を行い、ベースラインではCamrelizumab群と化学療法群で同様であった。QLQ-C30ではCamrelizumab群では化学療法群と比較して治療開始から8週までの健康状態の低下、情緒的・社会的機能低下、および症状悪化(疲労、疼痛、悪心・嘔吐、食欲不振、下痢)のリスクが低いことが示された。QLQ-OES18ではCamrelizumab群は化学療法群と比較し治療開始から8週までの逆流、味覚障害、咳の問題などの症状の悪化リスクが低かった。

 本無作為化第III相試験では、中国における切除不能進行・再発食道扁平上皮癌に対する2次治療において、化学療法と比較しCamrelizumabが治療成績を改善したことが示された。またCamrelizumabは化学療法と比較しORRが高いことが示された。またgrade 3以上の治療関連有害事象の発生率は低く管理可能な安全プロファイルを有し、QOLの悪化リスクが低いことが示された。以上より、Camrelizumabは中国における食道扁平上皮癌の2次治療の標準的な選択肢となる可能性がある。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 岡田 真央



監訳者コメント:
食道癌における今後の免疫チェックポイント阻害薬の展望は?

 切除不能進行・再発食道癌のkey drugはフッ化ピリミジン系とプラチナ系、Taxane系薬剤のみと選択肢が限られた時代が長く続いた。しかし、2019年1月のASCO-GIで、KEYNOTE-181試験がPD-L1陽性(CPS≧10)の食道癌におけるPembrolizumabの化学療法に対する全生存期間の優越性を証明した5)ことを皮切りに、2019年9月のESMOで、ATTRACTION-3試験が食道扁平上皮癌におけるNivolumabの化学療法に対する全生存期間の優越性を証明した6)。これらの結果から、本邦では2020年2月にはNivolumabが、2020年8月にはPembrolizumab(PD-L1陽性かつ扁平上皮癌)が保険適用となり、食道癌診療の標準治療として免疫療法を提供することが可能となった。

 本論文はATTRACTION-3試験とほぼ同様の設定で実施された、Camrelizumabの化学療法に対する優越性を検証した第III相試験であり、結果も扁平上皮癌における2次治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性を再確認するものであった。Positive studyではあるが、中国国内のみの症例であり、わが国の実臨床に与えるインパクトはそこまで大きくないと考える。

 今や食道癌における2次治療の標準治療として確立した免疫チェックポイント阻害薬であるが、すでに1次化学療法における殺細胞性抗癌剤との併用療法(KEYNOTE-590試験13)、CheckMate 648試験、RATIONALE-306試験)や、化学放射線療法との併用(TENEGRY試験14)、NOBEL試験)、周術期治療への上乗せ(CheckMate 577試験、JCOG1804E試験15))等、所狭しと開発が進められている。すでに、1次治療におけるFP療法とFP+Pembrolizumab療法を比較したKEYNOTE-590試験や、術後化学療法としてNivolumab療法とプラセボを比較したCheckMate 577試験では、主要評価項目の優越性が証明されたことがプレスリリースされており、ESMO 2020での詳細な結果が待たれる。

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 山本 駿

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