2月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健
胃癌
胃癌に対する一次治療としての導入化学療法後のAvelumabのメンテナンス療法と化学療法継続とを比較した第III相試験(JAVELIN Gastric 100)
Markus Moehler, et al.: J Clin Oncol. November 16, 2020
[Online ahead of print]
HER2陰性胃癌もしくは食道胃接合部癌(GC/GEJC)に対してはFluoropyrimidineおよびプラチナ製剤を含むdoubletもしくはtripletレジメンが一次治療として推奨されている。しかしながら無増悪生存期間(PFS)は約半年であり、全生存期間(OS)は9~18ヵ月と予後不良である1-3)。他癌種ではメンテナンス療法がPFSおよびOSを延長することが報告されているが、GC/GEJCでは確立されていない4,5)。近年、PD-1阻害薬であるNivolumabやPembrolizumab注)は前治療歴のあるGC/GEJCに対し承認された6-8)。Avelumabは抗PD-L1抗体薬であり、さまざまな固形癌に対する抗腫瘍効果と安全性が報告されている9-14)。第Ib相試験において、一次治療で病勢増悪を示さなかったGC/GEJCに対するAvelumabへのスイッチメンテナンスは有望な結果であった15)。JAVELIN Gastric 100試験は導入化学療法で増悪を示さなかったGC/GEJCに対するAvelumabへのスイッチメンテナンスと化学療法継続とを比較した第III相試験であり主解析を報告する。
注) 2021年3月現在、日本においてPembrolizumabは胃癌に対する適応はありません。
JAVELIN Gastric 100試験はオープンラベルの多施設共同無作為化第III相試験として行われた。化学療法の前治療歴がなく病理学的に腺癌と診断された切除不能GC/GEJCであり、かつRECIST ver1.1に基づいた測定可能病変を伴う症例が適格となった。その他の主な適格基準として、年齢18歳以上、ECOG PS 0-1、半年以内の組織検体が得られた症例が対象となった。HER2陽性例、免疫チェックポイント阻害薬既治療例、未治療もしくは症候性の脳転移を伴う症例は除外された。
一次治療として導入化学療法が12週間投与され、導入化学療法は1)Oxaliplatin(OX)85mg/m2、Leucovorin(LV)200mg/m2、Fluorouracil(FU)2,600mg/m2 24時間持続投与、2週間毎、2)OX 85mg/m2、LV 400mg/m2、FU 400mg/m2、FU 2,400mg/m2 46~48時間持続投与、2週間毎、3)OX 130mg/m2、Capecitabine 1,000mg/m2 1日2回14日間、3週間毎の3つのレジメンから選択された。導入化学療法後にPDとならなかった症例は、Avelumab 10mg/kg、2週間毎のスイッチメンテナンスを行うAvelumab群もしくは導入化学療法と同じレジメンを継続する化学療法群に1:1に無作為化された。
主要評価項目はOSであり、全無作為化例とPD-L1陽性例で評価された。事前規定されたPD-L1 statusの評価は73-10 assayが用いられ、PD-L1陽性は腫瘍細胞内でPD-L1発現≧1%と定義された。副次評価項目としてはPFS、最良総合効果(best overall response)、奏効期間(DOR)、安全性と設定された。探索的なpost-hoc解析として、腫瘍と免疫細胞のPD-L1発現を評価するcombined positive score(CPS)が評価された。CPSは22C3 assayを用いて評価され、CPS≧1が陽性と定義された。
本試験はAvelumab群の化学療法群に対するOSもしくはPFSでの優越性を示すことを主要目的として開始された。しかしGC/GEJCのAvelumabの第Ib相試験ではPD-L1陽性例で良好なOSを示したことから、2018年6月の中間解析の前に主要目的が全無作為化例もしくはPD-L1陽性例でのAvelumab群の化学療法群に対するOSでの優越性へ変更となった。導入化学療法後の無作為化が約466例となるように導入化学療法の症例数が設定された。全無作為化例ではOSを化学療法群10.5ヵ月、Avelumab群15.0ヵ月、HR=0.70、逸脱5%、power 90%、片側α 2%と設定され、PD-L1陽性例ではOSを化学療法群10.5ヵ月、Avelumab群19.3ヵ月、HR=0.54と設定された。
2015年12月31日から2017年11月29日までの期間で805例が17ヵ国178施設から登録された。導入化学療法後の病勢制御は499例に認められ、Avelumab群に249例、化学療法群に250例が割り付けされた。事前規定されたPD-L1陽性例はAvelumab群30例、化学療法群24例であった。データカットオフは2019年9月13日に行われた。導入化学療法の継続期間中央値はAvelumab群3.2ヵ月、化学療法群2.8ヵ月、フォローアップ期間中央値はそれぞれ24.1ヵ月、24.0ヵ月であった。次治療での免疫チェックポイント阻害薬はAvelumab群2.4%、化学療法群8.4%、次治療の化学療法はそれぞれ51.4%、49.2%に投与されていた。
全無作為化例でのOSはAvelumab群10.4ヵ月(95% CI: 9.1-12.0)、化学療法群10.9ヵ月(95% CI: 9.6-12.4)、24ヵ月時点での全生存割合はそれぞれ22.1%(95% CI: 16.8-28.0)、15.5%(95% CI: 10.8-20.9)であった。事前規定されたPD-L1陽性(73-10 assay)でのOSはAvelumab群16.2ヵ月(95% CI: 8.2-NR)、化学療法群17.7ヵ月(95% CI: 9.6-NR)であった。サブグループ解析ではほとんどのサブグループで同様の傾向を示したが、導入化学療法後に遠隔転移を認めない集団(114例:HR=0.52、95% CI: 0.28-0.98)とMSI陽性(13例:HR=0.27、95% CI: 0.06-1.25)ではAvelumab群が良好な結果であった。22C3 assayによるPD-L1陽性例(CPS≧1)は評価可能であった213例中137例に認めており、OSはAvelumab群14.9ヵ月(95% CI: 8.7-17.3)、化学療法群11.6ヵ月(95% CI: 8.4-12.6)であった(HR=0.72、95% CI: 0.49-1.05)。
全無作為化例でのPFSはAvelumab群3.2ヵ月(95% CI: 2.8-4.1)、化学療法群4.4ヵ月(95% CI: 4.0-5.5)であった(HR=1.04、95% CI: 0.85-1.28)。事前規定されたPD-L1陽性例(73-10 assay)でのPFSはAvelumab群4.1ヵ月(95% CI: 1.6-16.0)、化学療法群9.7ヵ月(95% CI: 2.8-12.5)であり(HR=1.04、95% CI: 0.53-2.02)、22C3を用いたPD-L1陽性例(CPS≧1)ではそれぞれ4.3ヵ月(95% CI: 2.9-6.8)、5.1ヵ月(95% CI: 4.2-7.0)であった(HR=0.87、95% CI: 0.60-12.7)。
無作為化後の奏効割合(ORR)はAvelumab群13.3%(95% CI: 9.3-18.1)、化学療法群14.4%(95% CI: 10.3-19.4)であった。奏効までの期間(TTR)はAvelumab群16.1週(範囲5.6-96.4)、化学療法群6.4週(範囲3.3-116.0)、DORはそれぞれ中央値未到達(95% CI: 9.7-not estimable)、5.9ヵ月(95% CI: 4.5-7.2)であった。
全gradeでの有害事象はAvelumab群223例(91.8%)、化学療法群214例(89.9%)に認められ、grade≧3はそれぞれ132例(54.3%)、128例(53.8%)であった。全gradeでの治療関連有害事象はAvelumab群149例(61.3%)、化学療法群184例(77.3%)に認められ、grade≧3はそれぞれ31例(12.8%)、78例(32.8%)であった。治療関連死は化学療法群に1例認められ、死因は脳梗塞であった。Avelumab群では、免疫関連有害事象(irAE)は32例(13.2%)で認められ、grade≧3は8例(3.3%)であった。最も頻度の高いirAEは甲状腺機能低下症7例(2.9%)、肺臓炎6例(2.5%)、皮疹5例(2.1%)であった。
まとめ
JAVELIN Gastric 100試験では、導入化学療法により病勢制御が得られたGC/GEJCに対しAvelumabへのスイッチメンテナンスを行っても化学療法継続と比べOSを向上することはできなかった。しかし本試験では治療効果が期待できる集団が示唆されており、将来の臨床試験の道標になると期待される。
日本語要約原稿作成:神奈川県立がんセンター 消化器内科 古田 光寛
監訳者コメント:
胃癌一次治療における抗PD-1/PD-L1抗体ICIによるメンテナンス療法は無効か?
JAVELIN Gastric 100試験は抗PD-L1抗体であるAvelumabの胃癌一次治療としての有用性を検討した試験である。一次化学療法への上乗せ効果ではなくスイッチメンテナンスとしての意義がクリニカルクエスチョン(CQ)となる試験だった。切除不能進行・再発胃癌において導入化学療法後のメンテナンス療法という戦略は、世界的にコンセンサスを得ているものではなく、臨床試験では腫瘍増悪もしくは有害事象中止まで同じ治療を継続することが多い16)。英国を中心に行われたREAL-2試験では、ECF/ECX/EOF/EOXの4アームを8サイクル(24週間)で治療終了し、メンテナンスフリーのスケジュールとなっているように17)、欧州一部地域ではメンテナンスフリーが許容される状況がある。最近でも英国ロイヤルマーズデン病院を中心にPLATFORM試験という経過観察を含む複数アームのメンテナンス療法の試験が実施されている18)。
Avelumabは胃癌三次治療の患者を対象としたJAVELIN Gastric 300試験において、化学療法に対し生存における優越性を示すことができなかった19)こともあり、本試験は胃癌における今後を左右する重要な位置づけにあった。同時期に行われていた抗PD-1抗体であるPembrolizumabの一次治療対象KEYNOTE-062試験20)では化学療法に対しPembrolizumabの上乗せを検証すると同時に化学療法に対するPembrolizumab単剤の非劣性を検証する試験デザインだった。残念ながら上乗せ効果については統計学的に有意な差を認めなかったものの、単剤の非劣性は証明された。ただしPembrolizumab単剤治療の問題点として化学療法と比較し早期に腫瘍増悪し、治療が中止となる症例の存在が挙げられていた。この部分の克服については化学療法との併用や化学療法先行後の抗PD-1抗体の導入がアイデアの1つとして挙げられていた。JAVELIN Gastric 100試験は抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体の違いはあるが、化学療法導入後に安定している症例であれば免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果が期待できるのではというCQにも答える試験となった。残念ながら本試験全体の結果はネガティブであったが、MSI-HやCPS≧1ではAvelumabによるメンテナンス療法が化学療法継続よりも良好な傾向を認めた。
今回の結果からメンテナンス療法におけるICIの今後の開発は無意味と考えるべきだろうか?前述のPLATFORM試験もPhase 2であるが抗PD-L1抗体であるDurvalumabのアームがあり、中間解析で無益性は否定されている。またPD-L1やTMBのstatusが治療効果に影響することも示されている。この試験結果も考慮する必要があるだろう。また胃癌は肺癌と比較しPD-L1よりPD-L2の発現が多いため、抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体の効果に違いがあるのではないかという説もあり21)、抗PD-1抗体のメンテナンスであれば異なる結果が期待できるかもしれない。ESMO 2020で発表されたCheckMate 649試験22)がポジティブだった結果を受けて、今後、一次治療における化学療法とNivolumabの併用療法が承認されることが期待される。高齢者が多い本邦では毒性が強くQOLを低下させやすい化学療法(殺細胞性抗癌薬)を腫瘍増悪まで継続するより、スイッチではないものの化学療法をスペアしてNivolumab単剤継続でメンテナンスするというのが個人的には興味ある戦略であり試験化を望みたい。同じく抗PD-1抗体であるPembrolizumabはLenvatinibとの併用でLEAP-015試験が行われている。この試験では化学療法+Pembrolizumab+Lenvatinibで導入後にPembrolizumab+Lenvatinibでメンテナンスするスケジュールになっている。化学療法との併用部分での治療最適化がキモとなりそうだが、こちらも期待できる戦略だろう。胃癌においてはさまざまな薬剤の登場により治療のシークエンスや栄養・QOLを意識した戦略がますます重要になってきており、ICIを用いた一次治療メンテナンスの開発はむしろこれからだろうと考える。
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監訳・コメント:神奈川県立がんセンター 消化器内科 町田 望
GI cancer-net
消化器癌治療の広場