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5月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

膵癌

切除可能な膵癌に対する周術期化学療法としてのmFOLFIRINOX療法とGemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法を比較した第II相試験


Sohal DPS, et al.: JAMA Oncol. 7(3): 421-427, 2021

 膵癌患者にとって外科的膵切除は唯一の治癒方法であるが、治療成績は芳しくない1)。膵癌切除後の補助化学療法として、多剤併用化学療法はGemcitabine単剤と比較して全生存期間を改善すると報告されている2,3)。それでもなお、外科的手術を先に行うことで、術後の化学療法に耐えられなくなる可能性がある2)。Neoadjuvant療法により全身性疾患の早期管理が可能になり、化学療法に耐えられない患者や、積極的な化学療法にもかかわらず腫瘍が進行する患者を特定できる可能性がある4,5)。切除可能膵癌に対するneoadjuvant療法の後ろ向き研究の報告があるが、前向き研究の報告は限られている6,7)。そこで、切除可能膵癌に対するneoadjuvant療法、adjuvant療法としてmFOLFIRINOX療法とGemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法の効果を前向きに検討する無作為化第II相臨床試験が行われた。

 切除可能膵癌の定義は、登録前28日以内に撮像したCT検査で、腫瘍が総肝動脈、上腸間膜動脈に接していないこと、腫瘍が門脈または上腸間膜静脈との接面が180°未満であること、膵体部、膵尾部の腫瘍が脾動脈、脾静脈と接していなこと、と設定された。対象患者は膵腺癌の18歳から75歳でPSが0もしくは1、肝腎機能が正常な患者であった。PSを層別因子として、mFOLFIRINOX(Oxaliplatin:85mg/m2、Irinotecan:180mg/m2、5-Fluorouracily:2,400mg/m2、2週毎、neoadjuvant:6サイクル、adjuvant:6サイクル)群とGemcitabine/Nab-Paclitaxel(Nab-Paclitaxel:125mg/m2、Gemcitabine:1,000mg/m2、3週on、1週off、neoadjuvant:9サイクル、adjuvant:9サイクル)群に1:1で無作為化された。Neoadjuvant療法終了後、CT画像評価が行われ膵癌の進行がない場合は4?8週以内に外科的切除を施行された。術後4?12週間以内にadjuvant療法が施行された。

 主要評価項目は2年全生存期間、副次評価項目は薬物毒性、膵切除率が設定された。膵切除を行った患者群での副次評価項目として、R0切除率、病理学的奏効率、切除時からの無再発生存期間が設定された。化学療法の有害事象は、Common Terminology Criteria for Adverse Events version 5.0を使用し評価された。病理学的評価として、College of American Pathologistsの基準が用いられた。フォローアップに関しては、全ての治療が終了し2週間以内にCT検査で評価を行い、その後3ヵ月毎に評価を行った。

 2015年10月から2018年4月の間に147例が登録された。不適格症例は44例、同意が得られなかった症例が1例あり102例がmFOLFIRINOX療法群55例、Gemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群47例に無作為化された。

 mFOLFIRINOX療法群では55例中53例でneoadjuvant療法が開始され、46例(84%)がneoadjuvant療法を完了させ、40例(73%)が外科的切除を受けた。外科的切除を受けなかった原因としてneoadjuvant療法の毒性、患者の同意が得られなかった症例が8例、膵癌の進行が2例、術中に切除不能と判断された症例が3例、その他が2例であった。Adjuvant療法が開始されたのは31例(56%)であり、adjuvant療法が完了されたのは27例(49%)であった。Adjuvant療法を受けなかった原因としては、治療毒性、患者の同意が得られなかった症例が4例、膵癌の進行が4例、医師の選択が1例であった。

 Gemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群では、47例中45例でneoadjuvant療法が開始され、40例(85%)がneoadjuvant療法を完了させ、33例(70%)が外科的切除を受けた。外科的切除を受けなかった原因としてneoadjuvant療法の毒性、患者の同意が得られなかった症例が5例、膵癌の進行が7例、術中に切除不能と判断された症例が1例、その他が1例であった。Adjuvant療法が開始されたのは26例(55%)であり、adjuvant療法が完了されたのは19例(40%)であった。Adjuvant療法を受けなかった原因としては、治療毒性、患者の同意が得られなかった症例が2例、膵癌の進行が3例、医師の選択が2例であった。

 有害事象に関しては、grade 3/4で最も多く認めた有害事象は、血液毒性、倦怠感下痢悪心神経障害であった。Neoadjuvant療法では、Gemcitabine/Nab-Paclitaxel群はmFOLFIRINOX療法群と比較し好中球減少症がやや多かった(27% vs. 19%)。下痢はmFOLFIRINOX療法群でやや多かった(11% vs. 4%)。手術に関連した有害事象はほとんど認めなかった。Adjuvant療法では、grade 3/4の好中球減少をGemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群のみで認め(27% vs. 0%、p=0.002)、grade 3/4の神経障害はmFOLFIRINOX療法群でGemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群と比較しやや多かった(16% vs. 4%、p=0.21)。

 どちらの化学療法群も事前に設定されていた2年の全生存率58%への到達には至らなかった。2年推定全生存率はmFOLFIRINOX療法群で47%(95%信頼区間[CI]: 31%-61%、p=0.15)、Gemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群で48%(95% CI: 31%-63%、p=0.14)であり、それぞれ全生存期間中央値は23.2ヵ月、23.6ヵ月であった。奏効率は、mFOLFIRINOX療法群で9%(5例)、Gemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群で21%(10例)であり両群に有意な差を認めなかった(p=0.15)。外科的切除を受けた症例のうち、R0切除であったのはmFOLFIRINOX療法群で34例(85%)、Gemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群で28例(85%)、病理学的完全奏効は、mFOLFIRINOX療法群で10例(25%)、Gemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群で14例(42%)であった。推定無再発期間は、mFOLFIRINOX療法群で10.9ヵ月、Gemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群で14.2ヵ月であった。

 以上のように、今回の第II相無作為化臨床試験では切除可能な膵癌に対して周術期に化学療法を行うことは、過去の切除可能膵癌に対するadjuvant療法を行ったデータと比較して全生存の改善は認めなかったが、安全かつ高いR0外科的切除が可能なことが示された。


日本語要約原稿作成:福岡県済生会福岡総合病院 外科 伊勢田 憲史



監訳者コメント:
膵癌における切除症例における至適化学療法は?

 切除不能膵癌治療における一次治療としてFOLFIRINOX療法、Gemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法が使用される。本試験は切除可能膵癌に対する周術期(術前および術後)化学療法としてmFOLFIRINOX療法とGemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法の意義について検討を行った無作為化第II相臨床試験である。主要評価項目の2年全生存割合はmFOLFIRINOX療法群47%とGemcitabine/Nab-Paclitaxel併用療法群48%であり、全生存期間中央値はそれぞれ23.2ヵ月、23.6ヵ月であった。両群間に差はなく、また事前設定の目標値58%をいずれも達成できなかった。強力なレジメンを術前および術後に施行することが予後を延長する結果には至らなかった。

 一方、2019年のASCO-GI総会においてGemcitabine/S-1を用いた術前補助療法(術後はS1投与6ヵ月)の有用性が報告され(Prep-02/JSAP-05試験)8)、また、術後補助化学療法として、欧米ではPRODIGEs/CCTG試験の結果によりmFOLFIRINOX療法が標準治療となっている3)。本試験の結果を踏まえると、術前治療、術後治療をまとめてしまうのではなく、術前治療での有効性、術後治療での有効性を一つ一つ検証していくことが重要なのかもしれない。今後の試験の動向を注視していきたい。

監訳・コメント:九州大学大学院 消化器・総合外科 伊藤 心二

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