6月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 教授 砂川 優
食道癌 食道胃接合部癌
術前化学放射線療法後に切除を受けた食道癌・食道胃接合部癌における術後補助療法としてのNivolumab
Kelly RJ, et al.: N Engl J Med. 384(13): 1191-1203, 2021
局所進行食道癌もしくは食道胃接合部癌に対して、欧米ではCROSS試験や、CALGB-9781試験の結果により、術前化学放射線療法が標準治療とされている1-3)。しかし、術前治療に反応しない症例においては、再発率が70~75%と高いことが報告されているが、術後補助化学療法は確立していないのが現状である4)。一方で、Nivolumabは既治療例の切除不能進行食道癌および食道胃接合部癌において生存の延長を示したことが報告されている5,6)。CheckMate 577(ONO-4538-43)試験は局所進行食道癌もしくは食道胃接合部癌に対して、術前化学放射線療法後に術後補助療法としてのNivolumabの有効性と安全性を検証した、多施設国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験である。
本試験の対象は、18歳以上の、術前化学放射線療法後にR0切除を受けたstage II/IIIの食道および食道胃接合部癌症例である。主要適格条件は、化学放射線療法で完全奏効に至っていないこと、病理学的に腺癌・扁平上皮癌、ECOG PS 0または1であった。
層別化因子は組織型(扁平上皮癌または腺癌)、病理学的リンパ節転移(≧ypN1または ypN0)、腫瘍細胞のPD-L1発現割合(≧1%または<1%)であった。
2016年7月~2019年8月までの期間に、29ヵ国の170施設(欧州から38%、米国・カナダから32%、アジアから13%、その他の地域から16%が登録)で、794例がNivolumab群とプラセボ群に2:1で無作為に割り付けられた。結果としてNivolumab群に532例、プラセボ群に262例が割り付けられた。
Nivolumabは16週までは240mgを2週毎に、16週以降は480mgを4週毎に投与された。再発または忍容できない毒性が認められるまで、あるいは患者が同意を撤回するまで、最長1年間投与を継続した。
本試験の主要評価項目は無病生存期間(DFS)であった。
患者背景においては、両群間に臨床病理学的偏りはなかった。58%の症例がypN1以上であり、71%の症例が腺癌であった。PD-L1発現腫瘍割合が1%以上の症例はNivolumab群で17%、プラセボ群で15%であった。
観察期間の中央値は24.4ヵ月(クリニカルカットオフ日は2020年5月12日)で、主要評価項目であるDFSの中央値はNivolumab群で22.4ヵ月[95%信頼区間(CI):16.6-34.0]、プラセボ群で11.0ヵ月(95% CI: 8.3-14.3)であり、Nivolumab群で有意に良好であった[HR=0.69(96.4% CI: 0.56-0.86)、p<0.001]。事前に規定したDFSのサブグループ解析では、Nivolumab群が組織型、リンパ節転移、PD-L1発現腫瘍割合などにかかわらず、良好な結果であった。
治療期間の中央値はNivolumab群で10.1ヵ月、プラセボ群で9.0ヵ月であった。Nivolumab群の86%の症例はNivolumabの相対用量強度が90%以上であった。Nivolumab群の治療中止理由は治療完遂が最多(43%)であった一方で、プラセボ群の治療中止理由は病勢進行が最多(43%)であった。
Grade 3-4の治療薬関連有害事象は、Nivolumab群で532例中71例(13%)、プラセボ群で260例中15例(6%)に認められた。治験薬に関連する有害事象により投与中止となった割合は、Nivolumab群で9%、プラセボ群で3%であった。頻度の高い治療関連有害事象は倦怠感、下痢、そう痒感、皮疹であった。
免疫関連有害事象は高gradeのものは少なく、Nivolumab群でgrade 3-4の免疫関連有害事象の頻度はいずれも1%未満であった。Nivolumab群においては肺臓炎、皮疹をそれぞれ0.8%の症例で認めた。Grade 5の免疫関連有害事象は認めなかった。
探索的評価項目として、健康関連QOL(HRQOL)が解析された。
HRQOLは、FACT-E(食道癌)とEQ-5D-3L(EuroQol 5-dimensions 3-levels)の患者報告アウトカム(PRO)評価質問票を用いて、ベースライン、12ヵ月の治療期間中は4週おき、治療終了後の観察期間中は受診時に評価を行った。
PRO完遂率は、FACT-EとEQ-5D-3Lにおいて、ベースライン時で95%以上、治療中の12ヵ月間でおよそ90%であった。
Nivolumab群、プラセボ群ともに、53週間までほとんどの時点において、QOLスコアはベースラインよりも増加傾向であった。EQ-5D-3Lを用いたQOLの評価においては、Nivolumab群、プラセボ群ともに同程度のQOLを認めた。
術前化学放射線療法後にR0切除を受けたstage II/IIIの食道および食道胃接合部癌症例に対する術後補助療法としてのNivolumabは、プラセボと比較して、統計学的に有意で臨床的に意味のあるDFSの改善を示した。さらにNivolumabは忍容性があり、安全性も許容できるものであった。
本試験の結果より、術前化学放射線療法後にR0切除を受けたstage II/IIIの食道および食道胃接合部癌症例に対するNivolumabによる術後補助療法は新たな標準治療となりうる。
日本語要約原稿作成:神奈川県立がんセンター 消化器外科 神尾一樹
監訳者コメント:
術前補助化学放射線療法施行後に食道・食道胃接合部癌根治切除を受けた患者の再発予防としてNivolumabは有用かもしれない。このデータを日本ではどのように解釈して活用するのか?
食道癌に対する周術期治療戦略は地域により異なる。扁平上皮癌が多い東アジアと、腺癌が多い欧米という組織型の違いに加え手術の考え方、クオリティといった要素が影響している7)。さらにSiewert type1・2の食道胃接合部腺癌について、日本国内では最近になりリンパ節の標準郭清範囲が決定された8,9)。周術期補助療法については、現在みなし標準治療が何かも含め臨床試験を立案している段階である。
本試験はCROSS試験10)の考え方をベースに術前補助化学放射線療法を行ったのちに根治切除を行う患者の中で、再発高リスク群である病理学的完全奏効に至らなかった患者を対象にNivolumab単独術後補助療法の意義を検討した第III相試験である。プライマリーエンドポイントのDFSが、扁平上皮癌を含む食道癌においてOSのサロゲートマーカーとなる直接的なエビデンスはないが、再発イベントが多いうえに再発後の有力な治療選択肢がない現状においては理解できるデザインである。全794例のうち欧米からは558例(約70%)登録の一方でアジアからは106例(約13%)と少なく、また食道475例(約60%)、食道胃接合部319例(約40%)と食道原発がやや多い試験であった。
試験結果をどう解釈するか?確かにプライマリーエンドポイントであるDFSにおいて統計学的にも有意で臨床的にも有益と考えられる群間差を認めている。DFSがサロゲートマーカーとして頑強性がない中では、OSで良好な傾向があることだけでも示してもらえれば試験デザインにうるさい人にもポジティブな結果として受け入れやすかったと思う。それでも掲載がNew England Journal of Medicineなわけだから術前補助化学放射線療法を標準治療とする地域においては、抗PD-1抗体の他癌種周術期や遠隔転移での成績をふまえて、この治療戦略に対する期待は高いと思う。
日本国内では食道(一部の食道胃接合部も含む)扁平上皮癌について、JCOG9907試験結果11)をもとに臨床病期II・III(UICC 7th)を対象に術前Cisplatin+5-FU(CF)後の手術が標準治療となっている。現在、追跡中であるJCOG1109試験において試験治療としてDocetaxel+Cisplatin+5-FU(DCF)、CF併用化学放射線療法(CF-RT)の両治療がCFに優越性を示すことができるか検証される予定である12)。この結果により、もし術前CF-RTが本邦標準治療となり、Nivolumabも適応拡大した際には術後補助療法として導入する医師は多いと予想する。結果が出るまでの間、使用が想定されるのは根治的化学放射線療法後サルベージ手術後R0症例であるが症例数は多くない。
一方で前述のとおり、食道・食道胃接合部腺癌においては国内でも周術期標準治療は確立されていない。CROSSレジメンそのもの(Carboplatin+Paclitaxel、41.4Gy照射)の外挿はCBDCAの国内承認なくデータもない中では難しいが、本試験でもCF-RTを行っている症例が14%含まれている(ほとんどは扁平上皮癌らしいが)ことから、JCOG1109 likeにCF-RT後に手術をして術後補助療法としてNivolumabを行う戦略を見なし標準治療としてしまう考えも理論上は成り立ってしまうが、国内では好まない外科医のほうが多いと思われる。
欧州のFLOT4試験13)では胃腺癌を含める形で食道胃接合部腺癌に対し手術前後のFLOT(5-FU+Leucovorin+Oxaliplatin+Docetaxel)がECF(Epirubicin+Cisplatin+5-FU)に対し優越性を証明し、欧州一部で標準治療となっている。海外でもこのようにFLOTと化学放射線療法のいずれが良いのかが食道・食道胃接合部腺癌におけるClinical Questionとなっていた。ASCO 2021において食道・食道胃接合部腺癌に対しCROSSレジメンとECF(EOX)/FLOTを比較するNeo-AEGIS試験の結果が報告され14)、両者の有効性に大きな差は認められなかった。しかし肝心のFLOT症例が全体の15%と少ないため、この結果をもって効果に差がないとは言えないが、差がないのであれば逆に放射線併用は不要となる可能性はある。同様の比較をしているESOPEC試験15)の結果を待ちたい。CheckMate 577試験の前提となる術前補助化学放射線療法が今後否定され廃れていく場合でも、FLOTなど補助化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用する臨床試験は各種進行しており、その結果がポジティブであれば補助化学療法+免疫チェックポイント阻害薬が標準治療になるであろう。国内では術前化学放射線療法はtoo muchと考える外科医が多く、補助化学療法の第III相試験が実施される予定である。食道胃接合部腺癌においては免疫チェックポイント阻害薬の企業治験結果がポジティブとなることも想定したデザインでの国内試験実施を望みたい。
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監訳・コメント:神奈川県立がんセンター 消化器内科 町田 望
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