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2月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

胃癌 食道胃接合部癌

切除不能・転移性HER2陽性胃または食道胃接合部癌の1次治療におけるPembrolizumab併用投与の有効性と安全性:多施設無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(KEYNOTE-811試験)中間解析


Janjigian YY, et al.: Nature. 600(7890), 727-730, 2021

 進行胃癌、食道胃接合部癌の約20%において、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2ERBB2としても知られる)増幅または過剰発現を認める1-3)。ここ10年以上にわたって、抗HER2抗体Trastuzumabと化学療法の併用療法がこのタイプの腫瘍を有する患者の標準的な1次治療である4)。進行HER2陰性胃癌において化学療法への抗PD-1抗体Pembrolizumabの上乗せは、有意な効果が認められなかった5)一方、HER2陽性癌に対するPembrolizumabの併用については、前臨床6-10)および実臨床11,12)におけるエビデンスによって支持されている。

 本論文で報告されているKEYNOTE-811試験13)は、未治療の切除不能・転移性HER2陽性胃または食道胃接合部癌の1次治療における標準治療である化学療法+Trastuzumabに対し、Pembrolizumabの併用投与の有効性と安全性を検証した多施設無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験である。今回、最初の中間解析の結果が示された。

 KEYNOTE-811試験の主な適格規準は、18歳以上、ECOG PS 0-1、臓器機能が保たれており、6ヵ月以上の予後が期待でき、RECIST v1.1で測定可能病変を有し、PD-L1およびMSIが評価できる組織が十分にある切除不能・転移性HER2陽性胃または食道胃接合部癌とされた。

 患者はプラセボ群[プラセボ(生理食塩水もしくはデキストロース)+Trastuzumab(初回8mg/kg、以降6mg/kg、day 1、3週毎)+化学療法]とPembrolizumab群[Pembrolizumab(200mg、day 1、3週毎)+Trastuzumab(初回8mg/kg、以降6mg/kg、day 1、3週毎)+化学療法]の2群に1:1で無作為に割り付けられた。化学療法は研究者によって5-FU(800mg/m2、day 1-5、3週毎)+Cisplatin(80mg/m2、day 1、3週毎)もしくはCapecitabine(1,000mg/m2、1日2回、day 1-14、3週毎)+Oxaliplatin(130mg/m2、day 1、3週毎)が選ばれた。病勢進行、許容できない毒性、治験責任医師の判断、参加者の同意撤回による中止まで最大35コースまで施行された。毒性が明らかに1つの薬剤に起因する場合は該当薬剤の中止が許容された。層別化因子は地域(オーストラリア/欧州/イスラエル/北米vs.アジアvs.その他)、PD-L1 CPS(≧1 vs. <1)、併用化学療法(5-FU+Cisplatin vs. Capecitabine+Oxaliplatin)であった。HER2免疫染色はDako HercepTest、FISH法はDako HER2 FISH pharmDx Kit、PD-L1免疫染色にはPD-L1 IHC 22C3 pharmDx assay、MSI測定にはMSI Analysis System v1.2が用いられた。効果判定はCTやMRIで6週毎に評価しRECIST v1.1およびiRECISTに基づいて行われた。

 有害事象は、初回投与から最終投与30日以内の事象をCTCAE v4.03とMedical Dictionary for Regulatory Affairs v23.0に基づいて報告された。

 主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)であった。副次評価項目には、全奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性が含まれた。

 3回の中間解析と最終解析が計画された。片側α=0.025でファミリーワイズエラー率を制御した。28ヵ月の登録期間および6ヵ月の追加登録期間で、PFSとOSは指数分析に従い、プラセボ群におけるPFSの中央値が6.7ヵ月、真のハザード比(HR)が0.7、プラセボ群におけるOS中央値が13.8ヵ月、真のHRが0.75と仮定し692例の登録が計画された。1回目の中間解析は最初に登録された260例の観察期間が8.5ヵ月以上となった時点で行い、片側α=0.002でPembrolizumab群が奏効率を25%改善するとしたときの検出力を90%として計画した。

 2018年10月5日から2020年6月17日(カットオフ)の期間に計434例の患者がintention to treat(ITT)集団として登録され、433例が治療を受け、217例がPembrolizumab群に、216例がプラセボ群に治療集団として無作為に割り付けされた。中間解析は最初の264例のORR(有効性評価集団)と1回以上の治療を受けた433例の安全性の報告がなされた。有効性評価集団はPembrolizumab群133例、プラセボ群131例であった。割り付けからカットオフまでの観察期間中央値はITT集団で9.9ヵ月(範囲:0.1-19.4)、有効性評価集団で12.0ヵ月(範囲:8.5-19.4)であった。両群の患者背景は同様であった。

 ITT集団では81.3%が男性、68.4%が胃原発、50.2%がintestinal type、80.6%がHER2 3+であり、選択した化学療法はCapecitabine+Oxaliplatinが86.6%、5-FU+Cisplatinが13.4%であった。

 中間解析の結果、Pembrolizumab群のORRは74.4%(95% CI: 66.2-81.6)、プラセボ群の奏効率は51.9%(95% CI: 43.0-60.7)であった。奏効率の差は22.7%(95% CI: 11.2-33.7)であり、p=0.00006と有意にPembrolizumab群において高かった。 サブグループ解析でもおおむね一致した結果が得られていた。

 さらに腫瘍に対する治療効果も深く、縮小率中央値はPembrolizumab群でー65%、プラセボ群でー49%、腫瘍が80%以上縮小したのはそれぞれ32.3%、14.8%、完全奏効率は11.3%、3.1%であった。Pembrolizumab群の奏効期間中央値は10.6ヵ月(範囲:>1.1~>16.5)、プラセボ群は9.5ヵ月(範囲:>1.4~>15.4)であった。奏効した例のうち奏効期間が6ヵ月以上であったのは、Pembrolizumab群が70.3%、プラセボ群が61.4%、9ヵ月以上であったのはそれぞれ58.4%、51.1%であった。

 ITT集団における治療期間中央値はPembrolizumab群で6.2ヵ月(範囲:2日~17.7ヵ月)、プラセボ群で5.3ヵ月(範囲:1日~17.8ヵ月)であった。Pembrolizumab群とプラセボ群において有害事象の頻度は、grade 3以上で57.1%と57.4%、中断を要する有害事象は24.4%と25.9%、治療関連死は3.2%と4.6%であった。両群で頻度の多い有害事象は下痢(Pembrolizumab群52.5%、プラセボ群44.4%)、悪心(48.8%、44.4%)、貧血(41.0%、44.0%)であった。

 免疫関連有害事象インフュージョンリアクションはPembrolizumab群、プラセボ群で33.6%と20.8%であった。Pembrolizumab群で多い有害事象としては、インフュージョンリアクションが18.0%(プラセボ群13.0%)に、肺炎が5.1%(プラセボ群1.4%)に生じていた。

 進行食道胃接合部癌および胃癌の1次治療においてTrastuzumabと化学療法に加えPembrolizumabを上乗せすることは統計学的かつ臨床的に有意にORRの改善効果を示した。腫瘍縮小率、奏効期間においても優越性を示した。有害事象は管理可能で、既報通り4,5,11,12,14)であった。

 KEYNOTE-811試験は試験継続中で主要評価項目であるOSおよびPFSは後日評価される。

 また本研究では84.1%がPD-L1 CPS≧1であったが、サブグループ解析において有意差は出ていないもののPD-L1 CPS≧1、CPS<1群ではORRに大きな差異が認められており、今後、Pembrolizumab併用による相対的な利益がPD-L1の発現量に影響を受けるかどうかは有益な情報となりうると考えられている。

 KEYNOTE-811試験においてPembrolizumab+Trastuzumab+化学療法はHER2陽性胃・食道胃接合部癌の革新的な治療選択肢となりうることが示唆された。また、微小残存病変を伴うHER2陽性胃・食道胃接合部癌患者の補助療法におけるPembrolizumab+Trastuzumabの第II相試験が進行中である。


日本語要約原稿作成:高知大学医学部 腫瘍内科学 栗岡 勇輔



監訳者コメント:
KEYNOTE-811中間解析:HER2陽性胃癌一次治療も抗PD-1抗体薬併用に期待

 切除不能HER2陰性胃癌に対しては、CheckMate 649試験およびATTRACTION-4試験の結果より、抗PD-1抗体薬であるNivolumab+フッ化ピリミジン/Oxaliplatin併用療法が新たな初回薬物療法として導入されている。一方、切除不能HER2陽性胃癌に対する初回薬物療法は、抗HER2薬であるTrastuzumabとフッ化ピリミジン/プラチナ併用療法が初回標準薬物療法として位置付けられているが、抗PD-1抗体薬であるPembrolizumabの上乗せを検証した第III相試験であるKEYNOTE-811が実施され、その中間解析結果において標準治療に対する非常に良好な抗腫瘍効果改善が報告された。本中間解析結果より、米国においては切除不能HER2陽性胃癌に対する初回薬物療法としてPembrolizumab+Trastuzumab+フッ化ピリミジン/プラチナ併用療法が承認され、NCCNガイドラインにおいても切除不能HER2陽性胃癌に対する初回薬物療法の治療選択肢として掲載されている。Pembrolizumab併用による有害事象として、免疫関連有害事象やインフュージョンリアクションに関しては注意が必要であるが、毒性プロファイルも既報と同様であり、マネージメント可能と考えられた。また、本試験においては腫瘍組織やリキッドバイオプシーを活用したバイオマーカー解析も実施されており、本レポート報告時にはMSI statusおよびPD-L1発現状況のみが解析されている。MSI-Highの頻度は0.7%と、HER2陽性胃癌では既報の如くMSI-Highを認める頻度は非常に少ないこと、および抗腫瘍効果とPD-L1発現の程度との相関性が示唆された。今後、主要評価項目であるPFS、OSに関する報告や長期フォローアップによる安全性に関する追加情報、および効果予測や耐性にかかわるバイオマーカー解析が非常に期待される。

監訳・コメント:高知大学医学部 腫瘍内科学 佐竹 悠良

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